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診療現場で見えてきた課題を、事業で解決する。mediVR成果報酬型自費リハ施設副センター長・藤井達也先生インタビュー

株式会社mediVRは今冬、世界初の“成果報酬型”自費リハ施設を開設します。「杖を使わず歩けるようになる」「疼痛が軽減し日常生活に支障が無くなる」など、患者さまご自身が設定した治療目標を達成したときだけ費用をいただくという、これまでにないシステムを採用しています。

このリハビリセンターで副センター長を務めていただくのは、整形外科医の藤井達也先生。医師同士のコミュニケーションアプリを提供する「アンター株式会社」や若手医師の勉強会「関東若手医師フェデレーション」の立ち上げに携わるなど、多岐にわたる活動をしています。

リハビリセンターにかける意気込みや、医師が病院の外に出て活動することの意義について伺いました。

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藤井達也(ふじい・たつや) 1985年福島県生まれ。2010年千葉大学卒業。旭中央病院で初期研修を終え、習志野第一病院や成田赤十字病院等を経て、現在は東京都江戸川区で整形外科医として勤務。アンター株式会社、関東若手医師フェデレーション創設メンバー。

会社や勉強会を創設し、医師同士が助け合い教え合うコミュニティをつくる

————2015年にアンター株式会社や関東若手医師フェデレーションを立ち上げた背景を教えてください。

藤井先生:医師になって5〜6年目の時期で、自分の専門である整形外科領域はある程度こなせるようになっていましたが、ひとつの課題に直面していました。それは、夜間に救急外来で当直をしているときに、専門外の患者さんが運ばれてきたときの対応です。都心以外の郊外や地方では、「地域に医療機関がひとつしかない」「頼れる人が当直医である自分しかいない」という環境はめずらしくありません。「自分に知識がないばかりに適切な医療を提供できなかった」という状況も起こりうるのです。

この状況を改善できればと思い、友人の医師らとともにアンターを立ち上げました。現場で判断に悩んだときすぐにほかの医師に質問できるQ&Aアプリや、勉強会の資料などをシェアして互いに教え合えるサービスなどを展開する会社です。医師として働く傍ら4年間事業に携わり、最初に感じた課題の解決に寄与できたと思っています。

関東若手医師フェデレーションは、医学生や若手医師の底上げを目指すネットワークです。もともとは関西に同じ団体があり、それを関東にも広めようというタイミングで、縁あって関わることになりました。いまは代替わりして、後輩たちが勉強会やイベントを開催してくれています。

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「これ以上は良くならない」と思っていた患者さんに変化が現れる

————mediVRと関わるようになったきっかけは?

藤井先生:アンターを立ち上げる前に、原先生にお会いして構想をお話したんです。

「絶対やりなよ!」とすごくポジティブに背中を押してくれたことが印象に残っています。その後も何か相談すると快く応じてくれたし、医学論文の指導や医師としてのキャリアに関するアドバイスもくださって、無償の愛を感じました(笑)。

当時は「なんでこんなに親身になってくれるんだろう」とふしぎでしたが、先日原先生とお話したときに「志を持って起業する医師は応援したくなる」とおっしゃっていて、だから僕のこともフルサポートしてくれたのかな、と思いました。

————mediVRカグラにはどんな印象を抱きましたか?

藤井先生:ゲーミフィケーションに注目が集まっていた時期だったこともあり、最初は「患者さんが自主的にリハビリに取り組めるよう、ゲーム性を取り入れたのかな」という印象を抱きました。

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外部動力を使用せず、診断治療に有用な測定値、又は課題達成度を評価するために用いるリハビリテーション用訓練装置「mediVRカグラ」

————その印象は変わりましたか?

藤井先生:原先生から患者さんの動画を見せていただいて、衝撃を受けました。その動画には、脳を損傷してこれ以上は治らないと言われていた若い患者さんが、数週間VRリハビリを繰り返したのちに、自分で姿勢を保持して車いすに乗れるようになった様子が映されていて。

研修医の頃から、脳梗塞で後遺症を負った方やご家族に「脳の細胞は再生しないので、残ったところを良くすることはできるけれど、失った機能は戻りません」とご説明したり、脊髄損傷で運ばれてきた方やご家族に「この先手足が元のように動くことはありません」とお伝えしたりしなければならない場面が何度もありました。だから、「治らないんじゃなかったのか」「その先にできることがあるのか」と驚いたんです。治療の選択肢が増えることって本当にすごいことなので、希望を感じました。

————ご自身が勤める整形外科でもカグラを取り入れてくださっていますね。

藤井先生:はい。VRリハビリを取り入れることで、大腿骨骨折手術後の方が歩けるようになるまでの過程が早くなったり、交通事故後に後遺症として残ってしまった疼痛が緩和したり、という変化を日々目の当たりにしています。

また、昨年からはメディカルサイエンスリエゾンとして、カグラの導入を検討されている施設に対し医師として説明するといった活動もしています。

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歩行機能へのアプローチ、認知機能へのアプローチ

————整形外科医から見たVRリハビリの特徴を教えていただけますか?

藤井先生:整形外科に限った話ではないかもしれませんが、大きく分けてふたつの特徴があると考えています。ひとつめは、歩行機能に対し姿勢バランスからアプローチできること。僕が研修医の頃は「歩行能力が低下している患者に必要なのは筋力を戻すこと」と教わったし、そのために「足に重りをつけて持ち上げてもらう」といったリハビリを提案していました。

VRリハビリの場合は、座ったまま左右交互に腕を伸ばす動作を繰り返すことで、歩き方を忘れてしまった脳に対し、「こうやって左右に重心移動するんだよ」と身体の使い方を教えて再学習を促すというアプローチを取ることができると考えています。そうすると、車いすから立ち上がるのもやっとだった方が、いきなり歩けるようになることがあるんです。歩行機能を回復するために、必ずしも筋力の回復が必要ではないケースがあるというのは大きな発見でした。

もちろん筋力があるに越したことはないのですが、姿勢バランスが整うことで筋トレがしやすくなるという側面もあり、両方からのアプローチが重要だと考えています。

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藤井先生:もうひとつの特徴は、認知機能に対するアプローチです。私が普段整形外科で診ている患者さんは80代が中心です。たとえば「右手で左の柵を持って身体を捻ってください」とお伝えしたとして、正確に実行できるのは10人いたら3人程度。認知機能がそれだけ落ちている方に、どうやってリハビリを施すかは大きな課題です。熟練の理学療法士さんだったら上手に誘導できるかもしれないけれど、経験の浅い方だとお手上げ状態になってしまうでしょう。「リハビリ動作を実行できれば、身体機能はもっと回復するのに」と歯がゆくなることがありました。

その点VRリハビリでは、言葉で説明をしなくても患者さんが自らリハビリ動作をしてしまうようなアフォーダンスの高い設計が可能です。その中で声掛やタッチングによって「動作が間違っていないこと」を的確に伝えることが可能です。また、水戸黄門ゲームなどゲーム性の高いものもあれば、背景のないシンプルなゲームもあり、認知負荷を自在に調整できます。認知負荷レベルを下げながらも、リハビリに必要な身体負荷は維持できるところが一番の魅力だと感じています。

ふしぎなもので、VRリハビリをして身体が動くようになるのに合わせて、認知機能にも改善が見られることがあります。お声かけしても反応が薄かった方が、日常会話ができるようになったりするのです。医学的エビデンスがあるわけではなく私の感覚的な話になってしまいますが、VRリハビリは認知面でも脳に再学習を促しているのかな、と感じています。

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成果報酬型のリハビリセンターを通して、治療の選択肢を示したい

————mediVRが開設する成果報酬型自費リハ施設の副センター長を依頼されたときはどう思いましたか?

藤井先生:成果報酬型のリハビリセンターなんて聞いたことがなかったし、最初に聞いたときはそんなシステムが本当に成立するのだろうかと驚きました。でも、原先生はどんどん構想を現実のものにするべく動かれていて。私も、カグラによるリハビリを提供する場や機会が増えるのはすばらしいことだと思い、「ぜひやらせてください」とお伝えしました。

現在の健康保険の枠組みでは、「ひとつの疾患名で外来においてリハビリに通えるのは最大5か月まで」といった制約がありますが、実際には「リハビリを続ければもっと良くなるはず」と感じる患者さんもいらっしゃいます。そういった方々に、「うちの整形外科ではここまでだけど、リハビリセンターでVRリハビリを継続できるよ」と選択肢を提示できることに、大きな可能性を感じています。

患者さんは高い期待値を抱いて来るでしょうから、その期待に応えられるだろうかという不安も少しだけあります。でも、どんなリハビリをしてもどんな薬を処方してもまったく変化が見られなかった患者さんが、カグラによって変化していった例を数多く目の当たりにしてきました。だから、大丈夫だろうと思っています。

◎成果報酬型自費リハ施設について、詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。1軒目は大阪府豊中市に開設予定です。https://news.yahoo.co.jp/articles/ec49888b4efc52d29da182a097cf75d4c87c4c9a

————リハビリセンターで実現したいことはありますか?

藤井先生:mediVRに勤めるセラピストのみなさんは、患者さんに対する声かけがとてもポジティブなんです。そういった姿勢は、患者さんの治る力にも大きな影響を与えると感じています。ここに来れば質の高いリハビリが受けられるし、病気に対する受け止め方もポジティブになる。そういった場所にしたいですね。

また、医療従事者のなかには、かつての私のように「この状態だとこれ以上は治らないだろう」という固定観念に縛られている方がいます。そう思われていた症例をどんどん治していくことで、「探せば治療の選択肢はあるのかもしれない」という認識を広められたらと考えています。

それと……つい先日、原先生から「東京の江戸川区にもリハビリセンターを開設したい」とご連絡をいただきました。まだ1軒目も形になっていないのに……と驚きましたが(笑)、原先生なら実現するでしょう。江戸川区は一人暮らしの高齢者も多く、医療における課題も多い地域なので、やりがいがあります。私が勤務する整形外科も江戸川区にあるので、より深い関わり方ができるだろうと思っています。

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目の前の患者さんを救うために、「起業」も選択肢のひとつとして考えてほしい

————整形外科医としての目標はありますか?

藤井先生:これからもずっと医療の現場で働きつづけたいと考えています。手術に薬にリハビリに、治療の選択肢を豊富に持っていて、患者さま1人ひとりに合わせて適切に提案できる整形外科医になりたいです。

————アンターや関東若手医師フェデレーション、mediVRなどと関わることで得られたものはありますか?

藤井先生:診療現場で患者さんと向き合うなかで感じた課題があって、自分ひとりで解決できることではなかったし、「いまの医療体制では仕方ない」と見ないふりをすることもできたかもしれないけど、そうしたくはなかった。そういった課題に対したくさんの人と取り組んで、解決に寄与できたことに達成感を感じました。困ったときにいつでも相談できる頼もしい仲間ができたことも大きな財産だと思っています。

立場の異なる多様な人がプロジェクトに携わるなかで、それぞれの能力を十分に発揮するにはどうしたらいいか。同じ目標に向かう仲間として、どう関係性を築いていくか。自分はどうそこにいるか。こうした活動を通して得た学びは、医療の現場でも活かせるものだと感じています。

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————藤井先生のように、診療現場以外の場所で活動したいと志す若手医師や医学生に向けて伝えたいことはありますか?

藤井先生:医学生に対しては、まずは臨床経験を積むことをおすすめしています。起業をするにしても、医師としてのスキルや経験があることが強みになりますから。

そうして自分の診療科である程度実力がついてくると、制度の壁や診療方法への疑問、業界の課題などが見えてくるはずです。そこにどう向き合うかは、さまざまな道があります。臨床技術を高める、論文を書く、本を執筆する。まだ決して一般的とは言えませんが、選択肢のひとつとして起業を選ぶ医師も、少しずつ増えているように思います。

医療機関の外に飛び出すのは不安かもしれません。でも、飛び出さなければ解決できない課題もあります。原先生や僕の活動を見て、「こういうアプローチもあるんだ」と思ってもらえたらうれしいです。心から解決したい課題があり、アイデアを持っているなら、ぜひ外に向けて発信してほしいし、相談してほしいと思っています。

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■株式会社mediVR
公式サイト:https://www.medivr.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/mediVR.media
instagram:https://www.instagram.com/medivr.jp/

(撮影:石川望 執筆:飛田恵美子

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