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障害や持病があっても、自由に物事を選択し挑戦できる社会にしたい。そのために、理学療法士の私にできること

「mediVRカグラがあるから、私はいまも理学療法士でいられるんです」。

mediVRの理学療法士・仲上恭子は、リハビリテーションセンターでの臨床やmediVRカグラの営業のほか、mediVRカグラ導入施設向けの座談会や勉強会、患者さんの交流会などさまざまな企画を提案し、会社に貢献してくれています。そんな仲上ですが、実は先天性内反足という障害があり、一時期は理学療法士として働くことをあきらめようとしていたといいます。

理学療法士をめざした背景やmediVRとの出合い、悩んでいた内反足を自分の強みと捉えられるようになるまでの軌跡を語ってもらいました。

仲上恭子(なかうえ・きょうこ) :理学療法士
藍野大学を卒業し、理学療法士免許を取得。リハビリテーション病院の回復期病棟に3年、整形外科クリニックに8年勤めた後、2022年にmediVR入社。2020年に立命館大学大学院人間科学研究科修士課程修了。

「自分と同じ悔しさを経験する子どもを減らしたい」という気持ちから理学療法士をめざした

――理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください。

生まれつき足が内側に反り返っている内反足という疾患で、生後数ヶ月の頃から足をまっすぐにする手術を繰り返していました。だから、病院や医療職が身近だったんです。幼稚園児のときから「大きくなったら看護師になる」と言っていました。でも、高校生のときに父が病気になり、看護師さんが働く姿を見るなかで、「看護師さんって患者さんをお世話する側面が強いんだな、私はもっと患者さんを治すことに関わりたいな」と思うようになって。ちょうどその頃に理学療法士という仕事を知り、その道に進むことにしました。

――患者さんをケアするのではなく、治したかったのはなぜですか?

私は手術や治療によって幼稚園に上がる頃には普通に歩けるようになりましたが、足を支える装具はずっと必要でしたし、友達との違いや周囲からの扱いを苦しく感じることも少なくありませんでした。だから、「自分と同じ悔しさや苦労を経験する子どもたちを減らしたい」という気持ちが強いんです。

幼稚園の頃の写真。ひとりだけ装具をつけている

内反足がハンデになり、理学療法士以外の道を模索するように

――理学療法士をめざす上で、内反足はハンデになりましたか?

医療職の中でも理学療法士は特に体を酷使する仕事です。理学療法士の養成校に入ってさまざまな実習をするようになると、いろいろとできないことに直面しました。足首が硬いのでしゃがむ姿勢が取れないし、ずっと立ちっぱなしだと足が痛くなってしまって。

実習中は必死で頑張っていましたが、就活の時期になると先生から「臨床家ではなく教員になった方がいいんじゃないか」と言われました。でも、私は教員になるために4年間しんどい想いをして勉強したわけではありません。意地を張って、一番体を酷使する回復期の施設に入りました。「回復期でちゃんと仕事ができたら、もう誰にも『足が悪いのに大丈夫なの?』なんて言わせないぞ」と。

――負けん気が強かったのですね。実際に働いてみてどうでしたか?

最初はなかなか重症の患者さんを担当させてもらえなくて、「上の人が気を遣って回さないようにしているのかな」「信頼されていないのかもしれない」と邪推しイライラしていました。そして、いざ重症の患者さんを任されると、やっぱり身体がついていかなかったんです。自力で立てない患者さんは後ろから羽交い締めにして立たせる必要があったのですが、足の踏ん張りがきかないので「患者さんを転ばせてしまったらどうしよう」という恐怖をずっと感じていました。

でも、面接のときに「足が悪くても大丈夫です」と言い切ってしまっていたから弱音も吐けず、無理をして腰を痛めさらに治療が難しくなる負のループに陥ってしまいました。その頃は、最初に抱いていた「患者さんを良くしたい」という気持ちよりも、「自分はうまく治療できると証明したい」という意地のほうが強くなっていたのかもしれません。だから、身体的にも精神的にもすごく苦しかったです。

――そこから抜け出せたのは、何かきっかけがあったのですか?

友人を介してベンチャー志向の強い人たちと出会い、その人たちと接するうちに「わざわざ自分の苦手なフィールドで戦わなくても、自分の強みを活かせばいいんじゃないか」とマインドを変えることができたんです。社会人4年目のときに小さな整形外科クリニックに転職しました。それでだいぶ楽にはなったものの、やはり1日中立ち仕事なので体に負担はかかります。「いつまで理学療法士を続けられるかな」「次のキャリアを考えないといけないな」と感じていました。

また、そのクリニックでは高齢者のお宅に訪問していたのですが、「生きがいがない」「早くお迎えが来てほしい」と話される方が多く、なかなかリハビリに前向きになってもらえなくて。そういう姿を見て、「この人たちがハッピーになるにはどうしたらいいんだろう」と悩み、クリニックに通いながら大学院で心理学を学ぶことにしました。私自身、身体は変わらなくてもマインドを変えるだけで楽になったし、心の面から患者さんに貢献できたらと考えたんです。

mediVRカグラを使えば、夢だった小児リハビリに携われる

――理学療法士ではない道を模索していたなか、mediVRに転職したのはなぜですか?

mediVRカグラという医療機器の存在を知って、「これなら私でもできる!」と思ったからです。座位で行うので転倒のリスクがないし、介助量の大きなトレーニングや歩行練習も必要ありません。「患者さんを転ばせてしまったらどうしよう」「私じゃない理学療法士が担当した方がこの患者さんはもっと良くなるかもしれない」といったプレッシャーから解放されて、患者さんに向き合うことに集中できる。気持ちが高揚して、「あぁ、やっぱり私は理学療法士でいたいんだ」と気づきました。

――転職はすぐに決めたのですか?

まずはホームページからメールを送って大阪オフィスを訪問し、原先生から現在リハビリ中の脳性麻痺のお子さんの動画を見せてもらいました。ずっと車いすを使っていた子が杖を使って歩いている様子を見てすごく衝撃を受けて、「絶対ここに入る!」と決心しました。

もともと私が理学療法士になろうと思ったのは、子どもたちを治したかったからです。でも、子どもは体が不安定なので支えるのが大変です。学生のとき、小児リハビリの施設へ実習に行って「自分には無理だ」と実感し、泣く泣くあきらめた過去がありました。だから、mediVRカグラを使ったリハビリ風景を見て、「夢だった子どものリハビリもできるんだ!」と嬉しくなって。原先生にその気持ちを伝え、入社させていただくことになりました。

患者さんやご家族の嬉し涙がこぼれる瞬間を励みに

――mediVRに入社した後、印象に残っていることはありますか?

病院やクリニックではなくベンチャー企業で、臨床だけでなく営業もするので、毎日が刺激の連続でした。クリニック時代は朝8時から夜21時近くまで働いていたけど、mediVRはほとんど9時18時。業務時間は減ったはずなのに、脳がすごく疲れましたね。これまで知らなかったこと、見る機会がなかったことにたくさん触れて、脳が必死で吸収していたんだと思います。

また、営業のときは立ちっぱなしになることも多いのですが、原先生は「仲間にも営業先にも『自分は足が弱いから座らせてください』とどんどん伝えて、座って仕事して」と言ってくれたんです。「障害があっても無理なく働ける世の中にしていこうよ」って。そういう社風なので、自分でもだんだんと「できないことは正直に伝えよう」「内反足を自分の強みにしていこう」とマインドが変わっていきました。

――mediVRカグラを使ったリハビリは、あまり身体に負担がなくできていますか?

はい。患者さんの補助をする場面もありますが、転ぶ危険もないし、椅子などいろんなものを使い工夫しています。10年目を超えてまだ現場で理学療法士として働けていることに感動しています。

――子どものリハビリはどうですか?

何人か担当させてもらっています。子どもは変化が現れやすく、自分でも「変わった」と気づける子が多くて、そういう様子を見ていると嬉しくなります。先日も、重力に負けて座位姿勢が崩れがちな子が午前中にちょっとリハビリをしただけで背筋が伸びて、「いつもよりお昼ごはんが食べやすかった」と教えてくれました。生活に変化が出るとやりがいを感じますね。子どもたちもリハビリが楽しいようで、「次はいつできるの?」とご両親に聞く姿をよく見ます。

――印象に残っていることはありますか?

脳性麻痺でずっと座位保持椅子を使っていた12歳の女の子が、4回のリハビリで普通の椅子に座れるようになった瞬間ですね。リハビリを続けていけば座れるようになると確信していましたが、まさかあんなに早くできるとは思わず私もびっくりしちゃって。お母さんは涙をこぼしていました。ご自宅の椅子にも座れたようで、お父さんは驚いて腰を抜かしてしまったそうです。こんなふうに、本人もご家族も喜んで涙がこぼれるような瞬間というのは何度見ても感動するし、理学療法士をやっていてよかったと思います。

内反足の経験や心理学の知識が理学療法士として強みになっている

――ご自身の経験が強みになっていると感じるときはありますか?

患者さんと「あるある話」で盛り上がったときでしょうか。入院中に寂しくてごはんが食べられなかったこと、お母さんの足音が聞こえてくると元気になったこと、友達のようにおしゃれな靴が履けずに悲しかったこと、先生から運動会の種目に出なくていいと言われて悔しかったこと……。いろいろなことに共感できるので話が盛り上がるんです。それによって距離が近くなったり、意見を伝えてもらいやすくなったりするので、そういうときに「私、内反足でよかったな」と思います。

一方で、自分が経験したことがすべてではないので、「同じ境遇でも自分とは違う考えの人、共感できない人もいるだろうな」ということは忘れないように気をつけています。

赤い装具の写真
子どもの頃に履いていた装具

――心理学も強みになっていますか?

病気や障害のあるお子さんのご両親は、これまでさまざまな治療法を試しては「やっぱりダメだった」と落ち込んで……ということを繰り返していらっしゃる方も少なくありません。だから、VRリハビリについても「またダメだったら傷ついてしまうから、過度に期待はしないでおこう」と思っていらっしゃる。そういう方に対しては、「今後こういうことができるようになるだろうな」と予測できても安易に言わず、いま実際にお子さんに表れている変化や、状態が近いお子さんの事例をお伝えするようにしています。

もちろん、近い未来の予測を伝えることで「心が軽くなった」「希望が持てた」と言ってくださる方もいらっしゃいますし、どんな言葉が心に届くかは人それぞれ違います。そうした一人ひとりに合わせた対応には心理学の知識が活きているかもしれません。

また、心理学関係の仲間と一緒に開発した「カラバリューカード」をmediVR社内のチームビルディングに使うことがあります。これは人生で何を大事にしているのかを深掘りしていくコミュニケーションツールで、もともとは「患者さんの価値観を知るとリハビリのモチベーションを高められるのでは」と考え開発に加わりました。社内でこのカードを使うと、「この人にこんな意外な一面があったんだ」と驚いたり、「これを大事にしているなら、こういう仕事の振り方をするといいかも」と考えたりできるのでおもしろいですね。お互いが大事にしていることを大事にできる関係性を築けるといいな、と思っています。

――mediVRは社員がどんどん増えていますが、規模が大きくなっても「一人ひとりの強みや好きなことを活かす」という文化が続いていくといいですよね。導入施設を対象にした座談会や使い方動画の企画も、仲上先生ならではだなと思います。

さきほど臨床だけでなく導入施設に向けた営業も行うとお伝えしましたが、そこにすごく刺激を受けている一方で、私は自分が前に出るより営業チームをサポートするような仕事のほうが向いているのかなと感じています。カグラ座談会カグラボカグフェッショナルは営業ツールにもなるので、みんなに役立ててもらえるとうれしいですね。

――最近は、障害のあるお子さんを持つ保護者同士が交流できるオンラインイベント「えりの紅茶会」も始まりましたね。

「えりの紅茶会」は、脳性麻痺のお子さんのお母さんで、リハビリがきっかけでmediVRに入社した鎌込江理さんが企画したイベントです。保護者の方は色々な不安を抱くものですが、それを吐き出したり相談したりできる場所はあまりないそうです。「近い境遇にいる人同士でただ話をするだけで気持ちが楽になったりするかもしれない」と提案してくれて、私もいつか患者さんや保護者の方のコミュニティをつくりたいと思っていたので、一緒に開催することにしました。まだ2回だけですが、「共感しました」「次参加したいです!」という声が挙がっていて、やっぱりこういう場は大事だなと思っています。

障害や持病があっても自由に物事を選択し、挑戦できる社会にしたい

――導入施設へのインタビュー企画「カグフェッショナル」では、いつも「あなたにとってカグラとは?」という質問をしていますね。仲上先生にとってmediVRカグラとは?

私にとって、カグラは救世主です。私を理学療法士でいさせてくれるし、患者さんを治すことができる。カグラという医療機器があって本当によかったです。

――最後に、今後の目標や成し遂げたいと思っていることを教えてください。

障害や持病があっても、自由に物事を選択したり、挑戦したりできる社会をつくりたいです。私は子どもの頃にたくさん悔しい想いや悲しい想いをしたから、患者さんや子どもたちがやりたいと思うことを応援したい。

そのために自分にできることとして、2つの方向性があると思っています。ひとつはもちろん、mediVRカグラを通して患者さんの身体を良くしていくこと。もうひとつは、患者さんに役立つ情報を発信したり、コミュニティをつくったりすること。障害があっても楽しめる施設の情報、日々の暮らしに役立つ道具や工夫を知るだけで、これまで無理だと思っていたことが可能になったり、世界が広がったりするかもしれません。それに、同じ状態の人が何かに挑戦している姿を見ると、「自分にもできるかも」「やってみよう」と刺激を受けますよね。患者さんがやりたいことを実現できるよう、身体と心の両面からサポートしていけたらと思っています。

■株式会社mediVR
HP:https://www.medivr.jp/
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(写真:山中陽平 取材・文:飛田恵美子)

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