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【規制に挑む】Walmartドローンデリバリーを米国6州34拠点400万世帯へ拡大

世界最大のスーパーマーケットチェーン「Walmart」でお馴染み、アメリカに本社を置く世界最大の小売業者Walmart社は、提携するドローンデリバリーのスタートアップ企業DroneUp社とオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを年内にアリゾナ州、アーカンソー州、フロリダ州、テキサス州、ユタ州、バージニア州のアメリカ6州34拠点400万世帯へ拡大させると今月(2022年5月)24日に発表した。

アメリカではAlphabet(Googleの持株会社)傘下Wing Aviation社が2019年からバージニア州クリスチャンズバーグでオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを行っており、さらに2021年秋からはテキサス州ダラス・フォートワース複合都市圏(Dallas–Fort Worth metroplex)の一部(Frisco and Little Elm)でアメリカにおける大都市圏(都市部)初となるオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを開始している。

さらに、今年(2022年)3月には世界初のオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスをアイスランドにおいて実施したことで知られるイスラエルのFlytrex社が同じくダラス・フォートワース複合都市圏(DFW)の一部であるテキサス州グランベリーでフード(食料品)のオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを開始した。

ただし、アメリカのドローンデリバリー市場における競争状況は以前の記事『【ドローンデリバリー】Amazonが脱落し、GoogleとWalmartが飛翔』から特段の変化は見られない。Amazon社(Amazon Prime Air)とZipline社が脱落し、Wing社とWalmart社とFlytrex社が躍進している。

今回のWalmart社による発表の狙いは純粋な市場拡大というよりむしろFAA(アメリカ連邦航空局)に対する突上げだと個人的に見ている。

米国のドローンデリバリー競争

先に触れた通り、アメリカのドローンデリバリー市場における競争状況は以前の記事『【ドローンデリバリー】Amazonが脱落し、GoogleとWalmartが飛翔』から特段の変化は見られない(以前の記事をご参照ください)。

Walmartのドローン宅配サービス

Walmart社とDroneUp社によるオンデマンド商用ドローンデリバリー(「宅配」あるいは「配達」)サービスは2021年11月にアーカンソー州で開始され、現在はFarmingtonとBentonvilleの2拠点で実施されている。

ドローンデリバリーサービスを行う時間は午前8時から午後8時までとなっており、1回の注文で食料品やおむつ、医薬品、電池など数万点の対象商品から宅配ボックスに収まる限り合計10ポンド(4.5kg)まで購入可能で、デリバリー(「宅配」あるいは「配達」)料金は3.99ドル。オンライン注文から30分以内に注文者の自宅敷地内(庭や駐車場など)に届ける。

拡大発表の狙いはBVLOS認可と規制緩和

今回のWalmart社によるオンデマンド商用ドローンデリバリーサービス大規模拡大発表の狙いはFAAから最低限Wing社と同等程度のドローン運航認可を受けることであり、大局的にはドローン規制緩和への突上げだと思われる。

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前出の拙著記事『【ドローンデリバリー】Amazonが脱落し、GoogleとWalmartが飛翔』で紹介した『Full Stack Economics』の記事「How Walmart and Google's Wing jumped ahead of Amazon in drone delivery」(尚、この記事を『Ars Technica』の記事としている日本のメディアが存在するが、『Ars Technica』に掲載された当該記事は『Full Stack Economics』から転載されたものである)で詳細されている通り、DroneUp社は高さ30フィート管制塔を各拠点に設置して「Part 107」規制をクリアしているのが現状である。一方で同じくアメリカでドローンデリバリー事業を行うWing社にはこのような管制塔は必要ない。

Wing社とDroneUp社(およびWalmart社)のこの違いは「Part 107」の免除の有無に起因する。つまり、Wing社はドローンのBVLOS(目視見通し外)飛行(および人の上の飛行)をFAAから認可されているが、DroneUp社(およびWalmart社)はBVLOS飛行を認可されていないのでVLOS(目視見通し内)でドローンを運航(運用)させなければならない。よって、DroneUp社(およびWalmart社)のドローンデリバリー運用には物見櫓(管制塔)が必要となる。

従って、物見櫓で規制に立向うWalmart社(および同社が支援するDroneUp社)はこれまでの実績データと今回の発表でFAAを突上げ、それでも埒が明かないのであれば拡大で取得される膨大なデータを基に認可を獲得する目論見なのは想像に難くない。

最大の障害は「規制」

もちろん、規制がボトルネックとなっているのはWalmart社(および同社が支援するDroneUp社)だけでなくWing社なども同様であり、ドローン機体(UAV)開発から運航地域制限など様々な規制に直面している(因みに、以前の記事『【オーストラリア】大手スーパー『Coles』もドローンデリバリー開始』で触れたようにWing社はオーストラリアでは1人のパイロットで最大15機のデリバリードローンをBVLOS飛行運航しています)。

これも前出の拙著記事『【ドローンデリバリー】Amazonが脱落し、GoogleとWalmartが飛翔』で書いたことだが、確かにこれまで実際のドローンデリバリーサービスにおいて特段事故が発生していない要因のひとつに規制の厳しさがあるかもしれない。しかし、実際にドローンデリバリーサービスが実施されている地域社会で気になるとされた点は騒音くらいであり、それもたった17%の人があげただけで問題となっていないのが現実である。

環境負荷(環境負担)が少なくゼロエミッション(カーボンニュートラル)に貢献し、車両等による陸上輸送よりも輸送コストを約8〜9割抑えられ、交通渋滞を緩和できるドローン物流社会の実現に向けて社会・産業と歩調を合わせた適応型の規制が求められている。

今回の発表はAmazon社より巨大な世界最大の小売業者であるWalmart社がアメリカのドローン規制を牽制する側面が大きかったとも言える。


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