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【ドローンデリバリー】Amazonが脱落し、GoogleとWalmartが飛翔

Alphabet(Googleの持株会社)傘下Wing Aviation社は、人口760万人以上を有するアメリカ第4位の大都市圏(metropolitan statistical area)であるテキサス州のダラス・フォートワース複合都市圏(Dallas–Fort Worth metroplex)で2021年の秋からトライアル実施していたオンデマンド商用ドローンデリバリーサービス(drone delivery service)を先月(2022年4月)7日から本運用へと移行させた。(尚、本稿では敬称などを省略することとします。)

大都市圏ドローンデリバリー本格スタート

この発表はWing社の『Dallas Flyer email newsletter』で最初に行われ、後にWing社Blogに転載されたためタイトルが「The Dallas Flyer Episode 11: Wing to Launch Drone Delivery Service in Texas April 7th」となっているが、以前の記事『【ドローン宅配】大都市圏でのドローンデリバリーも好調』で取り上げた通り、Walgreens社と提携して当該地区の一部地域では既にトライアルが行われていた。

また、大都市圏以外の地方部では2019年からバージニア州クリスチャンズバーグでオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを行っている。

それ故、4月7日の「Launch」をどう捉えるかがメディアによってまちまちであり、『Bloomberg』は「Alphabet's Wing to Begin Biggest U.S. Drone-Delivery Test in Texas」と今回も「試験プログラム」と見做す向きもあるが、地元フリスコ警察署長であるDavid Shilsonは「Drone delivery from @Wing has officially begun in @CityOfFriscoTx!」とtweetしているので「officially」(正式に)開始されたということで間違いないと思われる。

米国のドローンデリバリー競争

アメリカ市場でこれに続くのはアメリカのDroneUp社、イスラエルのFlytrex社、アメリカのZipline社といったドローンデリバリーのスタートアップ企業と提携してオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを行う世界最大のスーパーマーケットチェーンWalmart社である。

Walmart社はパートナーであるDroneUp社と共に2021年11月からアーカンソー州ファーミントンで「Walmart Neighborhood Market」が扱う商品のオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを開始している。

また、世界初のオンデマンド商用ドローンデリバリーをアイスランドのAha社と共に2017年にレイキャビクで開始したイスラエルのFlytrex社は、Walmart社との提携以外でもアメリカ市場の開拓を進めている。

2018年からノースカロライナ州の一部でトライアルを実施していたが、新たに今年(2022年)3月からダラス・フォートワース複合都市圏の一部であるテキサス州グランベリーでフード(食料品)のオンデマンド商用ドローンデリバリーサービスを開始した。Wing社が2021年秋からDFWでトライアルを実施していなければアメリカ初となる都市部(大都市圏)でのドローンデリバリーサービスはFlytrex社によるものだったかもしれない。

都市部でのドローンデリバリー覇権争い

さらに、Walmart社から支援を受けるDroneUp社がDFWへの進出を計画しているとも報じられている。DroneUp社がDFWに進出すれば同一大都市圏での三つ巴の競合が実現し、アメリカ都市部でのオンデマンド商用ドローンデリバリーサービス活性化が期待される。

因みに、Zipline社のUASは固定翼ドローン(UAV)の電動カタパルト射出、荷物はパラシュートによる空中投下(airdrop)、アレスティング装置のワイヤーに機体のフックを引っ掛けてのキャッチ(着陸)と一方向物流しかできない技術力の劣ったシステムであるため都市部でのドローンデリバリーには向かない。スペースに余裕のある地方部や広大なアフリカ向けの配達方式である。

脱落したAmazon

一方、2013年に放送された『60 Minutes』でJeff Bezosが華々しくドローンデリバリー参入を宣言したAmazon社(Amazon Prime Air)だが、2016年ケンブリッジでのドローンデリバリー実験成功を最後に絵に描いたような失敗を続け、未だ実用化に至っていない。Amazon社は土俵に上がることすらできず、競争から脱落しつつある。

去年(2021年)6月にはオレゴン州で「Prime Air」のドローン「MK27」がテスト飛行中に墜落して炎上。エーカー規模の火災を引き起こした。ドローンデリバリー分野では有名無実なAmazon社だが、過去13箇月だけでも開発テスト中に8件の墜落事故を起こしており、ドローンデリバリー業界へ風評被害をもたらす有名有害な存在となっている。

最大の障害は「規制」

有名有害なAmazon社などによってもたらされるドローン産業への風評被害によってアメリカでも規制緩和がなかなか進まず、規制が優良なドローンデリバリー企業最大の障壁となっているのが現状である。

無事故を続けるWing社などは以前からドローンデリバリー範囲の大規模な拡大をFAA(アメリカ連邦航空局)に要望しているが、今年(2022年)3月にFAA「BVLOS航空規則制定委員会」の最終報告書で「Part 107」改定と新たに「Part 108」の制定でBVLOS運用拡張の方針は示されたものの規制緩和は遅々として進んでいない。

確かに、これまで実際のドローンデリバリーサービスにおいて特段事故が発生していない要因のひとつに規制の厳しさがあるかもしれない。しかし、実際にドローンデリバリーサービスが実施されている地域社会で気になるとされた点は騒音くらいであり、それもたった17%の人があげただけで問題となっていないのが現実である。

環境負荷(環境負担)が少なくゼロエミッション(カーボンニュートラル)に貢献し、車両等による陸上輸送よりも輸送コストを約8〜9割抑えられ、交通渋滞を緩和できるドローン物流社会の実現に向けて社会・産業と歩調を合わせた適応型の規制が求められている。

日本も漸く「レベル4」解禁となる予定だが、規制強化と緩和のバランスを常日頃から絶え間なくアップデートする適応型規制の心掛けが要諦となる。


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