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【小品】花盗人にはわからない
夕風に乗って、どこかの家が味噌汁を沸かしている匂いが染むように頬を掠めて、顔を上げた。過度に熱せられ、おそらく吹きこぼれているであろうその熱くてすこし古いにおいの蒸気が、青く冷えた空気に溶け込んでじわじわと哀愁を滲ませていくのを細めた視線の先に認めながら、思わず「無理すぎ」と声に出す。こういう『団欒』の感じ、無理すぎ。気色悪いと言っても差し支えない。虚妄の敷地上に構想されているだけで、頓挫するこ
もっとみる【小品】BEFORE DAYBREAK
空に殺される。
と、思っている。
朝の大風になぶられながら立つ浜の砂の色は、見上げる東雲とひとしい灰色で、そのしおからいにおいを含んだ重たい色調は、もったりと波打ちぎわまで押し寄せて、波に乗り、やがて水平線と夜明けをひとつなぎにして途方もなく大きく、広く、果てしなくなって、外敵と認識してしまうほどに恐ろしい質量を以て私の頭上を塞ぐ。
東京に比べて空が広い、と言ったのは誰だっただろうか。確