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4年前のハロウィンを思い出した

洗濯し終えた洋服を干そうと、濡れた衣類をハンガーにかけていると、窓の外から「トリック オア トリート!」という元気な子どもの声が聞こえてきた。それから間を置かずに、別の子どもの泣き声も聞こえてくる。まだ朝の8時30分を過ぎた頃である。ああそうか、今日はハロウィンだ。

泣き声を上げていた子どもは、別の人間の仮装が恐ろしくて泣いてしまったのか、それともハロウィンというこのイベント自体が嫌で泣いてしまったのか、理由は分からない。いずれにせよ、わたしは「子どもだからって無理はしなくていいんだぞ…」と洗濯物を干しながらその子にエールを送った。

ハロウィンに関する思い出は一つもないと言い切っていいだろう。仮装した記憶もなく、もし過去に仮装経験があったとすればすっかり忘れている。なぜなら(ハロウィンが特別苦手ということではないのだが)、わたしがこういったイベント全般に”乗れないタイプの人間”だからだ。

ハロウィンは楽しんでも、楽しまなくてもいいだろう。わたしは後者の人間だったから、学生時代も、大人になってからも、ハロウィンパーティー的な場に馳せ参じたことはない。ただ、偶然そういった場に居合わせてしまったことは、記憶の限り一度だけある。

それは4年ほど前、まだ派遣社員として働いていた頃のこと。
実は派遣先であるその会社には中学時代の同級生がおり、入社初日に奇跡的な再会を果たした…という珍妙な職場だった。その同級生とは部活動も一緒で、吹奏楽部員として切磋琢磨しながら演奏をする仲だった。とはいえ、彼女はいわゆる”陽キャ”、わたしは”陰キャ”。部活以外で交流することはまずない。…というような人間具合は10年ほど経ったそのときも変わっておらず、彼女は相変わらず”陽キャ”で、わたしも引き続き”陰キャ”だったのである。

当時、派遣スタッフのわたしは社内唯一のライターというポジションで日々コツコツ原稿を書いていた。そして同級生はわたしに原稿を依頼する営業という立場で、営業成績はそこそこらしかったが、天性の明るさと持ち前のルックスで、周りから大変愛されているようだった。
彼女が「やりたい」と発言したことはすべて採用されたし、周りの人間たちも喜んで参加した。わたしにとっては何が面白いのか分からないような冗談もたびたび彼女の口をついて出たが、そういう冗談を楽しめる人間が集まっている会社なので、そこにわたしのようなじっとりとした人間が入っちゃたことのほうが事故だといえる。(しらす干しの中にたまに小さなエビやカニが入っているけれど、そのたまたま入っちゃったのがわたしだ)

話は少し逸れるが、そんな同級生とわたしが在籍していた会社はとっても分かりやすい、絵に描いたような外資ベンチャーだった。新しいことやイベント事が大好きな会社で、四季折々のイベント開催は欠かさず、もちろん10月末には仕事後にハロウィン仮装パーティーが予定されていた。
18時に業務を終えると、わたしは誰に引き留められるでもなく、さっさとリュックに荷物を入れて会社を出る。4年前の10月最後の金曜日も、そうやって帰り支度をしていた。そんなとき、同級生である彼女から声をかけられたのである。

わたしを呼び留めた彼女は外国のチョコレート菓子「m&m's」の仮装をしており、「頼みたいことがある」と言った。彼女の後に続いて会議室に入ると、そこには色とりどりの「m&m's」衣装を着用した女性が3人いた。みんな彼女の同期で、彼女らはいつも4人でつるんでいるようだった。色違いの同じ衣装を身にまとった4人の集合写真を撮って欲しい、というのが彼女の依頼である。わたしは彼女からスマホを受け取り、レンズを4人に向ける。もちろん、撮影する際に彼女たちのテンションを上げる気の利いた一言を言えるような技量は、わたしにはない。粛々と写真を数枚撮ったあと、口々にお礼を言われ、わたしは無事役目を終えた。

ハロウィンパーティーに誘われなかったことによる孤独感や疎外感は感じていない。そのようにみんなで盛り上がることが好きな会社だと分かっていたし、わたしが入社する派遣先はなぜかそういった毛色の会社が多かったので、神経が疲れることはあっても今さらメソメソ傷つくようなことはなかった。

ただ、あの会議室に集まっていた3人のうち一人だけ、少し無理をしている者がいたような気がした。その一人はどちらかといえば控えめなタイプで、わたしの同級生のような派手なタイプの人間に引っ張られてしまう性格みたいだった。もちろん、そうやって引っ張られることを楽しんでいる部分が大半だとは思うけれど、そのハロウィン仮装撮影会のときは、どことなく”無理して笑っている感”が否めなかった。
いや、それともあれは、わたしのようなよく分からない人間に写真を撮られる、という状況に戸惑っていただけだったのだろうか。(だとすればシンプルに申し訳ない)どちらにせよ、あの時のことは少しだけ印象的な出来事なのである。


綺麗なオチがあるわけではないが、今日はそんなことを思い出した。
協調性は大切だし、わたしのような”みんなで何かをする”が苦手な人間は、もう少し周りと調和する努力をした方がいいかもしれない。けれど、基本的には子どもも大人も、自分の楽しみたいことに自由に参加し、楽しむというスタンスで、強制力を感じることがないようなイベントが行なわれればいいなぁと思った。おわり。


★追伸…
本当は本日、下記の「やばめの生理痛が来た件について」の続き、低量ピルを1週間飲んでみて得た結果などを発表しようと思ったのですが、せっかくなのでもう少し経過を見てから記事を書こうと思います。よければご覧くださいね。


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