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映画「リザとキツネと恋する死者たち」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第2回

○○っぽい曲って素敵よ
2015年公開「リザとキツネと恋する死者たち(Liza, The Fox-Fairy)」
文・みねこ美根(2018年3月15日連載公開)

 「○○っぽい曲」を作れることはすごい。○○っぽくしているものは何か気になって、拍子の取り方に耳を澄ましたり、使っている楽器を想像したりするだけで楽しい。

 例えば、バレエ作品の「くるみ割り人形」。金平糖、チョコレート、コーヒー、お茶、雪…チャイコフスキーの曲はどれもなんだかそれっぽい。同じくバレエ演目の「シンデレラ」では、春、夏、秋、冬、時計の精と、それぞれのイメージにぴったりな曲をプロコフィエフという作曲家が作っている。小さいころバレエを習っていた私は、この「シンデレラ」の演目で、「オレンジという珍しい果物を持ってくる来客」という役を踊ったことがある。…本当にそういう役と曲があるのだ。聞く人が聞けば、これも「オレンジという珍しい果物を持ってくる来客っぽい曲だなア」と思うかもしれない。出番がそこしかなくてものすごくヒマだったことを覚えている。


 このような「○○っぽい曲」というのは、言うまでもなく映画を構成する重要な役割を担っている。2015年公開のウッイ・メーサーロッシュ・カーロイ監督作品「リザとキツネと恋する死者たち」には、この作品オリジナルの「日本の昭和歌謡曲っぽい曲」が目白押しなのだ。なんじゃこりゃ! でもなんだか癖になってしまうこの違和感は、音楽によるところが大きい。

 1970年代のブタペスト。元日本大使の未亡人の世話をする孤独な女性リザの近くには、いつも日本人歌手の幽霊・トミー谷がいる。ある日未亡人が殺されてしまい、その日からリザが出会う男性が皆、次々と死んでいくようになる。リザに幸せは訪れるのか…という何とも興味深いストーリーだ。この作品、どんどん人が死ぬ。しかし「グロテスクでシュール」という言葉だけでは表せない、愛嬌というか、可愛らしさがある映画だ。出てくる日本の地名が、「奈良」と「那須」というところも良さの1つである。

 リザにしか見えない幽霊・トミー谷が歌うなんちゃって歌謡曲、へんてこなのにキャッチーで、ついつい聞き入ってしまう。しかもオリジナル楽曲なのに日本語の歌詞なのだ。「レッツレッツハバグッタイム」と、英語を日本語なまりに歌うところまである。

 昭和歌謡曲を使用した洋画に、「嗤う分身(The Double)」(2014年公開)がある。この作品では、坂本九の「上を向いて歩こう」などが劇中歌として使用されていて、見事な選曲と相乗効果に驚いた。昭和歌謡以外で、この二つの作品に共通していることは、「ディストピア感」だと私は思う。両作品の、色合いの少ない、褪せてひんやりとしたイメージは、孤独な主人公の人生のようだ。昭和歌謡はディストピアっぽい音楽だということなのだろうか…。音楽には、作曲者もおそらく気が付かないような可能性が秘められているようだ。

 私もつい先日、日本の戦後流行歌っぽい曲を作ってみた。すごく楽しい作業だった。いつかライブでできたら、と思う。しかし、だれが聞いてくれよう。その日までに、お客様を増やすのだ。さあ、頑張ろう。(2018年3月15日連載更新)

追記:この指輪を投稿したのち、トミー谷を演じたデヴィッド・サクライが引用リツイートしてくれている!なんて嬉しい!Thank you!
https://x.com/DavidSakurai/status/1078542613651902464?s=20


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指輪:モチーフ…トミー谷の青い服、マイク、ラジカセ
音楽:「doki doki(Thump Thump)」Ambrus Tovishazi (オルゴールver. cover)

オルタナティブ・シンガーソングライターの〝美根〟です。
作詞作曲をして、ギターとピアノの二刀流で唄い、自分の世界を届けています。
「みねこ美根」名義で活動していた2018年から、OKMusicさんにてweb連載を続けてきた「映画の指輪のつくり方」。
たくさんお世話になったOKMusicさんのサイト運営終了に伴い、noteに移行して連載を続けています。
毎月、大好きな映画から一つ選んで、それをテーマに指輪を制作。
勝手に皆様へお薦めするレビュー文章、制作作業動画を公開中。動画では劇中歌のカバーも。ぜひ、楽しんでいってください。
私の本業である音楽活動など、さまざまな情報は下記リンクからがとても良きです。

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オルタナティブ、ライブ活動、ランプ、弾き語りスタイル、バンドスタイル、耳と脳にこびりつく作品たち、心火、焔心の砦、美術館でも展示された指輪たち、自作ストップモーションアニメ、MV、毎週水曜生配信番組、2024年5月24日と6月9日のワンマンライブ、人生初の弾き語りツアー・・・
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