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映画「マルコヴィッチの穴」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第8回

私もマキシンとやってみたい
1999年公開映画「マルコヴィッチの穴(Being John Malkovich)」の指輪
文・みねこ美根(2018年6月15日連載公開)

 6月というと梅雨。じめっとして気分も晴れない。上着や傘は荷物になるし…。傘というと小学生のころ、帰りの会を終えて、持ってきていた傘を手にして帰ろうと思っていたら、取っ手部分がなくなった私の傘を発見したことがある。ボキッと柄の部分が折れていたのだ。はぁ??何をどうしたらこの部分が綺麗にスパッと折れる?お気に入りの傘だったのに…!
 犯人は分からずじまい、泣き寝入り。無法地帯だ…傘すら守れない…この世に正義なんてないのだ…。子供の私はまた一つ学んだのであった。自分の物、思い出、記憶、大切な人々、自分の頭の中…これらが侵されるのは非常に許しがたい。私にとっては大変な恐怖だ。

 でももし、他人の頭の中に入れたら?他人の大切なものが手に入ったら?スパイク・ジョーンズ監督チャーリー・カウフマン脚本の「マルコヴィッチの穴」はそんな恐怖と好奇心を同時に感じられる映画だ。

 この作品、本当に頭がおかしい!(良い意味で。)まず「穴」がある場所。7階と8階の間にある7と1/2階は、天井が低く、ここにあるオフィスでは皆、腰をかがめて仕事をしている。会社紹介ビデオもなんともへんてこりん、胡散臭い感じがすごい。マルコヴィッチの頭の中に続く穴もなんだかドロドロしていて、とにかく謎につぐ謎設定…しかしここでそれらは最重要事項ではないのだ。それが良い。

 操り人形を操ること、支配、お金を払ってでもマルコヴィッチになりたい人々の成す行列、マルコヴィッチになることで性的倒錯が消えたロッテ、マルコヴィッチと中にいるロッテの二人の視線に興奮するマキシン、何をするかではなく誰がするかが重要なのだろうかという疑問、生きることへの執着、変身願望…。

 外見と中身…人を愛するとき、何を愛するのだろうか。登場人物の動向を見ていると、そんな疑問がわく。はたまた、自分が他人の姿になれたら…?15分だけなら無責任に行動してしまうかもしれない。マキシンのような美女とマルコヴィッチごしに(?)会うのも楽しそう。私たちは自分の体という一つの器しか持ち合わせていないから、逆に囚われてしまっているのかもしれないなぁ。マルコヴィッチ?マルコヴィッチ!のシーンも素晴らしい。他人の潜在意識や思い出は、部外者にとっては、悲しいかな、どうでもよいことなのだ。

 自分をおざなりにして誰かを操るより、自分の姿で満たされたいものだ。でも、どこかにある穴が貴方の頭の中に続いているかも…。雨が止んだら、みんなで穴という穴を塞ぎに行こう。
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指輪:モチーフ…マルコヴィッチ、サルのイライジャの左手、クレイグの操り人形の右手、 穴に入っていく人
音楽:「Future Vessel」 Carter Burwell (オルゴールver. cover)

オルタナティブ・シンガーソングライターの〝美根〟です。
作詞作曲をして、ギターとピアノの二刀流で唄い、自分の世界を届けています。
「みねこ美根」名義で活動していた2018年から、OKMusicさんにてweb連載を続けてきた「映画の指輪のつくり方」。
たくさんお世話になったOKMusicさんのサイト運営終了に伴い、noteに移行して連載を続けています。
毎月、大好きな映画から一つ選んで、それをテーマに指輪を制作。
勝手に皆様へお薦めするレビュー文章、制作作業動画を公開中。動画では劇中歌のカバーも。ぜひ、楽しんでいってください。
私の本業である音楽活動など、さまざまな情報はこちらのリンクからがとても良きです。
私を知るためのキーワードは・・・
オルタナティブ、ライブ活動、ランプ、弾き語りスタイル、バンドスタイル、耳と脳にこびりつく作品たち、心火、焔心の砦、美術館でも展示された指輪たち、自作ストップモーションアニメ、MV、毎週水曜生配信番組、2024年5月24日と6月9日のワンマンライブ、人生初の弾き語りツアー・・・
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