【恋愛小説】甘噛-夢中になる-〘後編〙✾10mins short love story✾
➳PREVIEW
本作品は前編、後編の2部構成となります。
それから貴方と何度かご飯に行ったり、飲みに行くことも増えてきた。自分から滅多に誘わない私が誘うことさえあった。私も貴方もお互いを気の許せる友達だと認識していたし、その関係を変えようとすることもなく月日が流れた。
その日も貴方と二人、行きつけの駅前のチェーン居酒屋で、ビールで乾杯をしていた。金曜の夜ということもあり、派手に飲み放題で好きなだけ飲もうと決めた。
『「かんぱーい」』
「お疲れ様〜」
『お疲れ〜ほんとこの一週間、このために頑張ったよぉ!』
「大袈裟だなぁ」
貴方はそう言ってビールを置き、頬杖を付きながら私に微笑みかけてくる。
ビールの上で静かに弾ける小さな泡の様に、貴方と目が交差した瞬間、私の心の中で何かが弾けた気がした。まだ飲み始めたばかりなのに、既に頬が熱くて、紅くなっている気がした。
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それから私達は、2時間の飲み放題をきっちり飲み切った。良い感じに酔っているけど、まだ飲み足りない感が残る。お酒に強い貴方は相変わらずで、美味しそうにラストオーダーで頼んだジントニックをぐいっと飲み干した。
「飲み足りてる〜?」
貴方が笑いながら私に尋ねた。
『まさか!これからが本番でしょ?』
「まじ?!流石だなぁ」
『次、あるよね?』
「もちろん!家にお酒沢山あるけど、家で飲む?2軒目行く?」
『お酒沢山あるなら、家がいいな!あ、スマブラ持ってるって言ってたよね?やりたい!』
「あるある!じゃ、決まりね」
家に行くのは、あの日以来初めてだった。
あの日は酔っていて余り覚えていなかったけど、今二人で貴方の家まで歩く道、さり気なく車道側に移動した貴方に気づいた。きっとあの日もこうして気にかけてくれていたんだろうと思うと、胸の奥が温かくなったように感じた。
貴方の家に到着した。
相変わらず男性一人暮らしにしては、とても綺麗に片付いている。リビングの真ん中に置いてあるグレーのソファーの真ん中に、遠慮なく座った。
「何飲みたい?」
『ビール一択でしょ?』
「分かってるね〜」
貴方は冷蔵庫から冷えた缶ビールを2缶取り出して、1つを私に差し出した。
『わ、冷た!』
「絶対ウマいよな」
プシュッと軽い爽やかな音を立てて、缶を開ける。カンと鈍いながらに軽快な音で乾杯をした。
『あ〜最高!』
「ね!やっぱ家飲みも良いね!」
『ねー!あ、そうだ!スマブラスマブラ〜♪』
「はいはい、待ってて今準備するから」
我が物顔でビールを飲み、ゲームを催促する私に、貴方は呆れながらも笑いながら準備に取り掛かってくれた。
「はいどーぞ」
貴方はにこっと笑いかけながら、コントローラーを1つ私に差し出してくる。そういう貴方の一つ一つの仕草ですら、私の胸の奥に積もっていく。
『ありがとう』
「もうちょっと詰めてくれないかな〜」
『へ?』
「僕、座れないんだけど」
『あぁ、ごめんごめん!』
慌てて左端にズレると、貴方は一人分空けて隣に座った。またこの近いのに遠い距離。ふと目線を私と貴方の間に向けた時、心が少し痛んだ。
「やろ!キャラクター選ぼ!」
『私カービィ一択〜!』
「え、それ僕の好きなキャラじゃん。じゃぁ、仕方ないからWii Fitの人にしよ」
『なにそれ〜そんなキャラいるの?ウケる』
「意外と強いから覚悟してよ?」
貴方の宣言通りこてんぱんにやられた。実際のところ、崖から落ちまくって自滅してしまった。私は残りあと一回しか戦えなくなってしまった。情けない。
『ねぇー素人相手に大人気なくない?!』
「ゲームだから仕方ない!てか落ち過ぎな?」
『それ言うの反則!』
そう言って私はゲームの邪魔をするために、貴方の右脇腹をくすぐった。でも本当は距離を縮めるためだった。
「ちょ、それこそ反則だろ?!」
笑いをこらえながら、私の手を止めようとする。
『ねぇーそんな掴んだら痛いんだけど…』
「え、ごめんね…!大丈夫?」
冗談で痛がるフリをしたのに、本気ですまなそうに心配してくれた。良心が痛む。
『…嘘だけどね!』
「うわ、それはダメだろ〜!本気で心配したのに!」
貴方はそういうと私の左脇腹をくすぐり返してきた。
あの日以来初めて貴方に触れられて、触れられたところが熱く感じられた。触れ方は優しいけど力では到底及ばず、貴方を止めることができなかった。
『あはははは!!!ほんとに無理ぃぃ!!ちょっと待って!!笑いすぎて涙出てきた!』
「まだ嘘付いた分もあるからな!」
『ムリムリ!待って待って!あははははは!!』
ふと気がつくと、貴方との距離は無くなっていた。
貴方の少しワイルドな落ち着いた香りがふわっと香った瞬間、私はバランスを崩して倒れてしまい、貴方の顔が目の前にあった。
目と目が合って、時が止まったようだった。
息をするのも忘れるほどに、私の全神経が貴方に注ぎ込まれたような感覚だった。
貴方は少し口を開いて囁いた。
「もう、待たないよ?」
暗い部屋の隅に置かれた間接照明とテレビの光が貴方の瞳で反射して光った。
鋭くて甘くて、優しくて危うい。
熱を帯びた貴方の瞳が、私を捕らえて離さない。
理想の人。
ゴールデンレトリーバーみたいな人。
それだけでは足りないのだと気づいてしまった。
それは、色気の溢れる視線を熱く注ぐ貴方に、すでに堕ちてしまったから。
でも本当はもっとずっと前、貴方に触れられず、互いの距離に落ち込んだあの日には、とっくに気づいていた。そんな懸念が確信に変わった瞬間だった。
私を溶かすような熱い危うい視線とは対照的に、私の顔に掛る髪の毛を額を撫でる様に流す貴方の指先が柔らかく、優しく私の顔の輪郭をなぞった。
ゆっくりと瞳を閉じると、唇が触れるのを感じた。
存在を確かめるように、撫でるような触れるだけのキス。
そこからお互いに唇が離れることは無く、どちらからともなく、すでに次のキスが重ねられていた。
これまで見てきた貴方とは違って余裕が無く、急かして噛みつくように、それでいて私に合わせるように甘くゆっくりと、さらに深く口付けを重ねていく。
もう、優しいだけのゴールデンレトリバーみたいな人では到底物足りない。
理想のような貴方は、理想とは違った。
いや、貴方が理想で、理想が違っていた。
もう貴方が良くて、貴方でなければ駄目だ。
甘ければ甘いほど、一度堕ちると抜け出せない。そんな甘さの中に、潜む刺激こそ魅惑的で逃れられない。
甘いリップ音と共に首元に小さな痛みを感じた。そして、貴方の背中に回す手に更に力を入れて抱き締め、私の首元にある貴方の頭をそっと撫でた。
『甘噛-夢中になる-』 FIN
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