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「Vividly」のいろいろ

第75回駒場祭テーマソング、Vividly / TOKYO IRREGULARS が出来るまでの色々なことを、徒然なるままに書きます。
10日間かけて随時更新しました。一応完結しています。

完成した曲はこちらから。



1, 締切が短すぎる、ようで長い

ログを遡ってみた所、6/29の午前0:35が制作の始まりでした。

6/28の5限終わりにあった駒場祭の責任者会議でテーマソング募集の存在を初めて知り、締切の8/18まで時間がほとんどない、テスト期間で忙しい、これは急がなければまずいぞという中で、その4時間後、真っ先に声をかけたのが作曲の山野拓人でした。
それ以来、応募完了する1ヶ月半後までほぼ毎日LINEのメッセージで作戦会議/ダメ出し/ダメ出されをしていました。時代が時代なら往復書簡として文化財になってます。

曲を書いたことのないコンポーザーと、Rapしか書いたことのないリリシストが、共に苦しみもがいた、長く短い51日間でした。


2, 曲先? 詞先?

作曲経験者の方に曲先(曲に合わせて詞を書く方式)ですか詞先(詞に合わせて曲を書く方式)ですか、と聞かれたことが何度かありました。

一般的なのは曲先の方なのでしょうが、「Vividly」は少し特殊な手順で作っていて、

①瀧川が詞を書く
②そのイメージに合わせて山野が曲を書く
③曲の音数に合わせて詞を書き直す
④微調整

という流れでした。発案者から作曲者に世界観を伝えなければならなかったためと、歌詞が無いと何から手を付けて良いか分からないと作曲者に言われたためです。

②の段階の詞曲が完成版まで残ってるパート(Bメロ)もあれば、ガッツリ詞を書き直したパート(サビ後半)もあるので、前者は詞先、後者は曲先と呼べるかもしれません。
変な作り方をした分、作曲者の負担は増えてしまったんですが、詞と曲の整合性は担保できたかと。

ちなみに、②に入る前段階で僕から入れた注文が
「ALIのLOST IN PARADISEに、ONE III NOTESのShadow and Truthを足して、椎名林檎に歌わせましたみたいな感じ」
でした。ほとんど原型は留めてませんが、そのつもりで聞けば感じられる要素は微かにあるかも。


3, どこから書き始めたの?

ここでクイズ。
作詞の瀧川が1番はじめに書いた歌詞はどこでしょうか。ここから手をつけて広げて行った、という箇所です。

ヒント:「Vividly!」ではないです。

↓正解はスクロール↓








正解は「『志ある』とか恥の上塗り」です。
1番のRapは、全ての行が《aui》で脚韻を踏んでいますが、その出発点もこの「上塗り」ということになります。

もっと決め台詞っぽいカッコいい部分からだと思いましたか?
確かにこの部分は、ポジティヴな未来への布石としてのネガティヴな「いま」、言うなれば「叫ぶ為に吸う息」「高く飛ぶ為の助走」ですから、この曲の本質的なメッセージとは少しかけ離れていますね。

ただ逆にいえば、そういう本質的な部分を先に書いてしまうと、ゴールまでの道のりを逆算して残りの部分を書かねばならず、身動きが取りにくくなってしまいますから、タイトルと一緒に最後の方で決めるが吉、と考えています。
歌詞でも小説でも同様。

むしろ、こういう言葉遊びみたいなところからはめてみた結果、意外にスラスラと歌詞が埋まって行った気がします。「志あるとか〜」のどこがどう言葉遊びなのかは、ご想像にお任せします。

ちなみに、サビの掛け声とタイトルが「Vividly」に決まったのは全体の50%程度が書けたころ。
最後に書いた歌詞は「怖がらないで」でした。確かにここは大きなメッセージの1つですね。


4, 思い出のRhymeと「本歌取」

瀧川が人生で初めてRapの歌詞を自作したのが、高2の文化祭でやった「新宝島」でした。

長く短い今日を愛していたい
どんな未来も君次第
だから灯せ衝動
王道? 邪道でも
君とふたり会おうと誓った道の先
目指し進む 一蓮托生

Now or neverを叫び出す聴衆(listener)
Nine point eightを超える流民(drifter)
白一色に染めてく囚人(prisoner)
夜明けを開き魅せる大博打
君と目指した夢の到達地

MC Tacky 新宝島 (オリジナル : 山口一郎)

粗だらけではありますが、RhymeとFlowとPunchlineを備えていて、曲のテーマにも合った、(初めてにしては)そう悪くないRapだと思っています。
文字で歌詞を公開するのは「本邦初」です。瀧川がInstagramとかでたまに「夢の到達地」がどうたら宣ってるのはこれです。

見ての通り、「Vividly」ではこのRapから幾つかのキーワードを引用しています。初心に帰り、って奴ですね。
これを知らないと考察のヒントが少なくなって不利でしょうから、ここに掲載しておきましょう。


5, ・・・動き出した歯車

2番Rapの「Stop! ・・・動き出した歯車」という箇所にはレファレンスが山ほどあります。その一部、比較的分かりやすいものをご紹介しましょう。

まず、僕がこの世で3本の指に入る程度には好きな曲、UNISON SQUARE GARDENの10% roll, 10% romance、1番冒頭の歌詞がサンプリング元?オマージュ元?です。

カチコチと歯車が回りだす
けど乗せた片足だけ進んでく
変だな どうやって呼吸をしてるのか
わからないまま日々がrolling playingしていく

田淵智也 10% roll, 10% romance

ここで歌われている「(歯車に)乗せた片足だけ進んでく」という違和感は、Vividlyの1番サビでは「幼気なLife goes on」と歌われています。
1番の「立ち止まれはしない」を受けて、「抑えきれずに、歯車が動き出してしまう」ところから2番が始まる訳ですね。

2番頭で「Stop!」という掛け声と共にブレイクになるという構成は、Mark Ronson ft. Bruno MarsのUptown Funkが有名です。初出がこれなのかどうかは存じ上げませんが、当時中学3年生の僕をライヴのステージに誘った曲です。
また、「Stop!」を続く「動き出した〜」で否定するという構成は、Noz.×Eyeの知らぬがイムから、「Stop!  往来」の影響を受けています。

それから、第72回駒場祭のテーマが「動く」で、ロゴのモチーフが「歯車」だったことも重要です。
「動き出した歯車」から始まったRapが、第73回のテーマ「あかねさす」、第74回のテーマ「あそびがみ」を経て、サビ前の「彩なす」に戻ってくる。
このことには早々に気付いてくれた方が、エントリー動画のコメント欄にもいらっしゃったようです。

「Stop! ・・・動き出した歯車」の2行だけを取っても、まだイースターエッグはあります。が、語り尽くすのも面白くないので、このくらいで。

6, チャチャのいれかた

ここでクイズ、というかディクテーション?
僕は今回、作詞を担当しただけではなく、Tacky名義でサブヴォーカルとしても「Vividly」に参加していますが、女声の余湖ちゃんパートの最中にも何度か、Tackyが合いの手?茶々?を入れています。
何と言っているか、すべて聞き取れるでしょうか。

↓正解はスクロール↓








正解は以下の10箇所。

・Everybody temme what it says (0:38)
・Ho! (0:46)
・Just keep on (0:56)
・Draw whatcha feel's to be drawn yeah (1:02)
・Let me hear ya (1:10)
・Vividly! (2:06)
・Vivid again (2:17)
・Hoo! (2:21)
・Let me hear ya now (2:28)
・Whatcha feel, draw vividly! (2:36)

女声パートに入れる合いの手は、全面的にONE III NOTESのShadow and Truthの影響を受けています。
多分4番目が1番聞き取りにくかったでしょう。これはYOASOBIのBlue(群青の英語版)からのサンプリングです。

Calling followed, what I feel's to be drawn
Going by my selection in this color, then
Suddenly, with the breeze of a drowsy morning
There was a world of blue shown in front of me

Konnie Aoki Blue (オリジナル : Ayase)

合いの手を入れる箇所や入れる台詞はなかなか決まらず、レコーディングの前日まで、なんならレコーディングが終わってからも、メンバー内で侃々諤々、喧々囂々の議論がありました。

合いの手ごときがメインヴォーカルの邪魔をしてはいけませんから、適切な位置・適切な長さ・適切なリズムというのを細心の注意をもって決めねばなりません。
何より瀧川は英語の歌詞を書いたことがありませんでしたから、欲しいリズムに当てはまるよう文を成立させるのに、大いに難儀しました。

苦労の甲斐あって、完成版でのTackyの茶々は、ちょうど良い存在感を放ってくれている気がします。
歌詞には書いていないので、存在に気付いていなかったという方もいらっしゃるかもしれませんが、他の楽器パートと一緒に注目していただきたいところです。

7, 結成、TOKYO IRREGULARS

デモ音源が完成したのは7/25。プロジェクト開始から1ヶ月弱のことでした。これ以降、曲はこまごまと変わっていますし、先述した合いの手はガラリと変わりましたが、メロディラインとその歌詞は変わっていません。
メンバー集めはこの日から始めました。デモが無いと、誘われても乗るかの判断をしにくいでしょうし。

TOKYO IRREGULARSは東京大学の1年生を集めて、「Vividly」のためだけにゼロから結成したグループでした。
1年生にこだわったのは、東大生の多くは2年の秋から本郷に行ってしまって、駒場祭の時点では駒場キャンパスに居ないから、でした。駒場キャンパスの風景と人々を現在形で切り取ることが出来るのは我々しかいない、と。
2年生以上を誘っても良いのではないか、という議論も山野との間でありましたが、結果的にはこれ以上ない良いメンバーが集まったと思います。

「駒場生」という縛りもあって、求めていたパートが演奏できる人を見つけるのは簡単ではありませんでした。知り合いの知り合いの知り合いという風にツテを辿って、なんとかレコーディングに人を集めることができました。
初対面同士だったメンバーも多かったですが、5〜6時間のレコーディングが終わった後にはすっかり意気投合していましたね。全員漏れなく楽器が(または歌が)上手かったので、音楽への情熱や「Vividly」にかける想いで通じ合えたのだと思います。


8, IRREGULARSって?

チーム名は、僕が兼ねてから考えていたものを提案しました。
TOKYO IRREGULARSのTOKYOは、言うまでもなく東京大学から取っています。KOMABAとする案もありましたが、学歴をひけらかしているようでダサかったのでやめました。

では、IRREGULARSは?
これは、「遊撃隊」という意味の英語です。シャーロックホームズシリーズに登場する、The Baker Street Irregulars (ベイカー街不正規連隊)から取っています。
ホームズという主人公としてではなく、ホームズを、あるいは「Vividly」を聞くあなたという主人公を、裏から支えるチームとして物語を紡ぎたいという想いで、この題材を選びました。我々が、定期的に(regularに)活動していた訳ではなく、今回のため特別に結成したユニットであることをアピールする意図も込めたネーミングとなっています。

スカパラと名前が似てるのは偶然です。東リべも偶然。みんな考えることは同じ。

ちなみに、[tóʊkioʊ irégjələrz]という音が決まった後も、表記についてはちょっとした論争がありまして、

TOKYO IRREGULARS
TOKYO Irregulars
Tokyo IRREGULARS
Tokyo Irregulars
東京IRREGULARS
東京Irregulars
東京イレギュラース
東京イレギュラーズ
トーキョーIRREGULARS
トーキョーIrregulars
トーキョー・イレギュラース
トーキョー・イレギュラーズ
トウキョウIRREGULARS
トウキョウIrregulars
トウキョウ・イレギュラース
トウキョウ・イレギュラーズ
とうきょう・いれぎゅらあす
とうきょう・いれぎゅらあず
東京卍イレギュラーズ

が候補としてありました。下の方はネタですが。
1番目と3番目で悩みましたが、結局1番シンプルな「全大文字」になりましたとさ。


9, うた、ことば、「慈愛」

メンバー紹介を交えて、各パートの解説をします。

メンバー集めの段階で、作詞家としてまず重視したのは、やはり歌詞を聞かせる「声」、Vocalを誰に頼むか、でした。
Vocalは見つけるのがTrumpetの次に大変でしたね。デモで入れていた知星の仮歌と、僕が伝えたイメージから、Bassのホッタコウキが紹介してくれたのがVocalの余湖理彩子でした。

音域が広く、上がり下がりが激しく、母音の連続の多い難しい曲です(「高揚を確かめたなら」のあたりが難しいと思う。試しに歌ってみよう。)が、余湖ちゃんはサラッと歌ってみせてくれましたね。
また、Rapの経験はないということで、Rap中の合いの手(「まだパッとしない?」「白紙のあそびがみ?」)は苦戦していましたが、僕の不的確で曖昧なディレクションにも関わらず、根気よく粘ってくれました。一聴の価値あり。

女声パートについて、レコーディングの際に僕から提示したのが、「慈愛」を意識して欲しいということでした。
というのも、Rapのリリックは、聞く人と同じ地平に立って、「一歩踏み出す」ことのオモシロさを捲し立てるつもりで執筆していました。襟首掴んで引っ張っていくイメージというか。
それに対して、コーラスでは俯瞰する視点からの抽象的な歌詞が増えます。手放しに挑戦を賛美するのではなく、挑戦に伴う苦悩に寄り添った上で、それでも一歩踏み出す「君」の背中を押すようなヴォーカリゼーションが欲しかったのです。
その意味でも、完成した女声パートはイメージにピッタリでした。優しさの中に一本芯がある「良い」声をしています。共感と存在感のバランスというか、母性と父性のバランスというか。何度でも聞いてもらいたいサビに仕上がりましたね。

10, Saxは「当て書き」

Saxophoneのぜんは、コンポーザーの山野の知人でしたので、いわゆる「当て書き」に近い形で、サックスパートの譜面は用意されていました。

Saxophone Soloの譜面

なんと言ってもご注目いただきたいのは、間奏にあたるSaxophone Soloです。小細工ナシ、真っ当に難しい譜面ですねぇ。個人的には、「風になりたい」でクラリネットソロの譜面を最初に渡された時の前途多難が思い出されます。
この譜面は、コムシーの1階で作曲の方針を会議していた時に、山野がMIDIキーボードをピコピコし始め、「出来た!」と言って出してきたものでした。数分でこれが書けるコンポーザーのセンスも然ることですが、そんな簡単に決めて良いのか、噂のサクソフォニストがこれを吹けるのか、という疑念も正直ありました。
が、これは完全な杞憂でしたね。

レコーディングでは彼のテイクの度に控室のメンバーから歓声が湧くという次第で、くだんのソロもたった3, 4回でOKテイクまで持っていけたものと記憶しています。しかも、1テイクごとに演奏がますます良くなる。毎回「これは完璧だろ」と思わされるので、ぜんちゃんパートは録っていて楽しかったですね。
ホーンセクションの中で最初に録ったパートだったのもあって、曲全体の雰囲気を決定づけたSaxophoneでした。2番サビなんかはサックスのオブリガードが入ってガラリと変わりましたね。Solo以外も耳を澄まして聞いてみよう。

11, 無茶振りと職人技

ぜんちゃんは「陽気な兄ちゃん」という雰囲気ですが、Trumpetの山梨翔太郎からは「職人」を感じます。

彼はぜんの知人に紹介して貰ったトランペッターで、山野からすると「知り合いの知り合いの知り合い」でした(なんなら僕からは「知り合いの知り合いの知り合いの知り合い」)。
しかも、偶然が重なって、急遽声をかけたのがレコーディングの前日になってしまい。しかもしかも、トラックを作った山野と瀧川がペットの音域を間違えておりまして、極めて高い音が頻出する譜面を平然と渡していたという為体でした。

Trumpetの譜面

知り合いもいない肩身の狭いレコーディングに前日に呼び出し、ハイツェーを無茶振り。申し訳ないことしかしていませんし、山野と瀧川に何刺しかずつして許していただきたい所なんですが、翔くんは試してみると言ってくれました。

実際、大半の難所は、その日のレコーディングのうちに解消されてしまいました。寡黙なままに何度も試しながら、高音を次々と当てていく様は、まさに職人技と呼ぶべきもの。完成版を聞くと軽々出しているように聞こえてしまうからまた凄い。

Lead Trumpetの裏では打ち込みの2nd Trumpetが鳴っているので、翔くんの音だけを聞き分けるのは難しいかもしれませんが、1番Rapのブレイクで鳴っているハイトーンは聞き取りやすいと思います。他の部分も、イヤホンで聞けば分からなくはない、かも。ぜひご注目を。


12, 日本語を読めるようになろう

ようやくコンポーザーの番です。
山野拓人とはそれなりの期間の付き合いです。高3のときの塾が同じだったので、2年弱でしょうか。ギターのshawnは山野と同窓なのでそこには負けますが。塾のクリスマス会?忘年会?でMariah CareyのAll I Want For Christmas Is Youをやったりもしました。
今回のメンバーは山野の知り合いが半数だったので、彼がチームの中心的人物の役を担ってくれました。自然と周りに人が集まってくるような、憎めないキャラクターをしています。あとは日本語が読めれば完璧!

さて、作曲については既にそれなりに語ったので良いでしょうが、山野は作曲だけでなくTromboneも担当しています。Bassと2人だけの低音で上の7人を支えるというクリティカルな役目です。
忘れちゃいけないのは、トロンボーンもちゃんと上手いということですね。Trumpetのオクターヴを吹いている場面が多いので必ずしも目立ちはしていませんが、むしろTrumpetに溶け込んでいられるTromboneなんて、ありとある吹奏楽団が欲しい代物ですから。注意して聞けば聞き分けられると思うので、縁の下のTromboneにもぜひご注目いただきたい。
作曲者に見せ場がないのもなんなので、テーマソングに採用されてライヴをやる権利を得た暁には、ちょっとしたアレンジをしてお届けしたいなと、密かに画策していたりもします。

13, 世間は狭い

Guitarのshawnは、先述の通り山野拓人の高校時代からの友人でした。
吹奏楽部員だったそうで、僕とshawnは、同じ年(2022年度第62回大会)・同じ組(東日本組)・同じ日程(8月11日及び8月15日)の吹奏楽コンクールで、同じ曲(小山清茂編曲「吹奏楽のための木挽歌」)の同じソロ(フィナーレのBass Clarinet Solo)を吹いていたことが判明していました。顔は知りませんでしたが、あのBass Clarinetを、「ライバル」としてどれだけ分析したことか。同じ大学で会うことになろうとは、世間は狭いですね。

さて、Guitar / Bass / Drumsの3パートは、僕と山野の知識不足もあって、譜面の決定を各担当者に任せていました。Guitarの場合、コードは指定していましたが、ストロークのリズムはお任せしていた、ということになります。
レコーディングでは、用意してきてくれたパターンも含め、色んなカッティングをその場で試して見てくれました。この面白さはDTMにはありません。ギタリストと、その場に居たメンバーの間でやり取りしながら細部を詰めて行ったのはレコーディングの良い思い出です。
完成したGuitarパートは、爽やかで疾走感のあるアプローチが多様されていて、単体で聴いても格好いいものになっています。メロディックな動きをするパートが多い中で、ドラムとともに全体を引っ張っていく役割を担ってくれました。イントロとか顕著なのでぜひ聞いてみてください。

余談ですが、shawnは会うたびに髪色が変わります。この2ヶ月弱だけで金→ピンク→紫→銀。いやなんで?

14, マルチすぎプレイヤー

ホッタコウキは、瀧川と山野の共通の友人だったのもあり、かなり早い段階で声をかけたメンバーの1人でした。
コウキは演奏できる楽器が多い、ということをまずご紹介したい。僕も把握しきれてないかもですが、Electric Bass以外に、Wood Bass、Ukulele、Tuba、Drumsは演奏できるようです。多彩すぎる。何ならこの前ボイスパーカッションやってました。
コウキは音楽に非常にストイックで、幾つもバンドを掛け持ちしながら、しかも複数の楽器を持ち替えながら、全ての曲をきっちり仕上げて来るから凄い。圧倒的スーパープレイヤーです。

「Vividly」ではBassを担当してもらいました。実際に聞いてみるとかなり存在感のある重要なパートなのがお分かりいただけると思います。
ご注目いただきたいのは、2番のBメロ。激エモなベースラインで、一度落ち込んで再び高揚する主旋律を先導してくれています。ここのBassも、レコーディングのその場で、メンバー同士相談しながら編み出したものでした。
また、その後、サビ前のキメの直前、BassからSaxophoneにグリッサンドをリレーする場面も、ドラマティックで激エモなのでじっくり聞いていただきたい部分です。


15, 突然のマーチング

Drumsの礒本健太については、レコーディングの前から、「いそけんは上手いから心配は要らない」と散々噂を聞かされていました。
実際上手かった。テンポの引っ張り方、ブレイク前のキメ方、どの一瞬を切り取ってもかっこいいプレイングでしたし、Drumsの動きを主張するパートと他のメロディを立てるパートとの間の微妙な変化も自由自在。欲しい音をくれるDrumsでした。

加えて、引き出しの多さにも目を見張るものがあります。曲調に合わせて即興的にアプローチを変えながらキメどころを嵌めていく様子は横で見ていて気持ちが良かったですね。しかも、ちょっとしたディレクションを出すと、それを咀嚼して、瞬時に新しいアプローチを見せてくれる。これがドラマーか、と思いました。
中でも面白いのは、サビの後半(「幼気な〜」)の、マーチング風のDrumsです。ここは完全にいそけんのアイデアでして、デモにないアプローチだったので初見ではギョッとしました。が、レコーディングが進み、上にBass、Guitar、Saxophoneと他のパートが乗っかって行くに従って、なるほど、サビの疾走感を損なわずに、しっとりとしたメロディーを際立たせる上で、これが最適解だったのかと納得させられました。ここはぜひDrumsに注目いただきたい。

ところで、shawnといそけんは素材が少なくて、デモ映像にあんま使ってあげられませんでした。ごめんよ。
その代わりではないですが、曲の方ではこの2人にもぜひ注目して聞いていただきたいと切に思います。


16, 贅沢、Strings Section

Stringsを入れたいという話は制作開始当初からありました。レファレンス曲にStringsが入っていたというのもありましたし、瀧川と山野の趣味もありましたし、華やかな雰囲気で他の候補曲と差別化したいという作戦もありましたし、Strings系のサークルからの票を掻き入れたいという下衆い目論見もありました。
Horn SectionからStrings Sectionまで幅広くとった、非常に贅沢な布陣になってしまいましたし、実際Stringsで誰をどこから何人呼ぶか決めるのは容易ではありませんでしたが、形になってくれて一安心ですね。

担当してくれた山本怜花はオーケストラの方ですね。オーケストラからメンバーを集めたいという場面では、発案者の我々以上に積極的にご友人に声をかけて回ってくれました。
オーケストラだからかは分かりませんが、話してみても、吹奏楽やJazzの出身が多い他のメンバーとは雰囲気が違う気がしましたね。

また演奏でも、バンド楽器などとは違う、一際華やかな音を出してくれました。Stringsは最後にレコーディングしたのですが、これが入った瞬間に、「Vividly」の作品世界が広がっていくような感覚を与えられましたね。Saxophoneが入った時と同じくらい、ガラリと印象が変わりました。
今回、怜さまにはViolaでStringsの3パートを演奏して貰いました。もともとViolinのために書いた譜面もあった(しかも譜面をお渡ししたのが当日で申し訳なさすぎる)ので、キーが高く、Violaの構造上無理もあったと思われるのですが、軽々と演奏してくれて、聞く分には違和感を覚えなかったから流石でした。伸ばしが多い譜面なので難しくないと語ってはくれましたが、欲しい音色、欲しいダイナミクスをドンピシャでくれるところには奏者の腕が間違いなく出ています。
Bメロからサビにかけて、神々しくコードを響かせてくれているので、要チェック。


17, カバーイラストのいろいろ

Cover Designのマイヤーズ絵玲奈は瀧川のクラスメイトです。多くを語るまでもなく、カバーをご覧いただければ、デザイナーの力量は伝わるでしょう。

Cover Design : マイヤーズ絵玲奈

僕はデザインについては門外漢なので、この超カッコいい平面構成を褒める語彙を持っていないのですが、他のメンバーと同様に言語化を試みてみましょう。
まず構図が良いですね。煽りのアングルによって人物の存在感が強調されていますが、同時にギターヘッドが逆三角の構図を作ることによって躍動感も生んでいる。人物・文字・インクの飛沫がバランス良く配置されていて、考え尽くされているのが素人目にも伝わります。
色遣いも素晴らしい。文字はただの黒ではないですし、背景もただの白ではありません。文字の縁取り、人物の線画、前面の飛沫、背景のインクまで、それぞれ微妙に違うパレットで描かれていて、見ていて楽しくなってきます。Vividで目を引く色遣いでありながら、どこかレトロで、後ろ髪を引かれる感もある、完成されたCover Designでした。

ラフの段階から構図の妙は垣間見えていましたが、微調整を重ねる度に、絵の全体がどんどん活き活きとしてくるから凄い。短い納期の中でこの上ない良いジャケットを手掛けてくれました。プロフェッショナル過ぎる。

このジャケットは、カッコ良すぎて、投票開始の以前から色んな人に自慢して回りたかったくらいなのですが、25日にようやく皆さんにお見せすることができました。
YouTubeでは表示が小さくなってしまう(小さくなっても目を引くから凄い)ので、拡大してぜひ隅々までご覧いただきたい。


18, 映像のいろいろ

最後のパート紹介の前に、映像について。
いま世に出回っているプロモーション映像には2種類あります。1つは瀧川が制作したデモ映像で、レコーディングの風景から構成しています。まあまあよく出来てるので見てやってください。

タッキー @駒場祭テーマソング候補「Vividly」 on Instagram: ": Vividly / TOKYO IRREGULARS 第75回駒場祭「彩なす」に、テーマソングを応募しました! プロフィールのリンクから、視聴/コメント/評価/拡散など是非よろしくお願いします! *** TOKYO IRREGULARSは、駒場キャンパスに通う、東京大学の1年生のみで結成したユニットです! 応援よろしくお願いします! Lyrics : 瀧川奏大 Music : 山野拓人 Vocal : 余湖理彩子 Rap : Tacky Saxophone : ぜん Trumpet : 山梨翔太郎 Trombone : 山野拓人 Guitar : shawn Bass : ホッタコウキ Drums : 礒本健太 Strings : 山本怜花 Cover Design : マイヤーズ絵玲奈 *** #音楽 #オリジナル曲 #original #作詞作曲 #レコーディング #トランペット #サックス #ヴィオラ #ラップ #駒場祭 #駒場祭2024 #第75回駒場祭 #重ね彩なす駒場祭 #東京大学 #東大 #Vividly #TokyoIrregulars" 136 likes, 6 comments - mc_tacky on August 25, 2024: ": Vivid www.instagram.com

もう1つは余湖ちゃんが制作してくれたリリックビデオで、文字以外にも、歌詞に因んだちょっとした演出がたくさん盛り込まれています。めちゃくちゃちゃんと良く出来てるので見てください。

前者はメンバーの顔を見てもらって、色んな人間が制作に携わっているのを知って貰おうという意図で作ったものでした。オフショットを撮り忘れていたりして素材は少なかったですが、何とかなりました。楽しげな雰囲気が伝われば十分です。

後者は、歌詞に注目して聴いてほしいというのを理由の一つとして制作してくれたものです。歌詞の「ヒント」をどこまで出して良いか、というのは、瀧川と余湖の間で割と細かく打ち合わせをして決めました。作詞家のわがままに最後まで付き合って貰った成果なので、ぜひご覧いただきたいですね。歌詞についても新たな発見があるかも。


19, Rapという伝え方

メンバー紹介の最後に、MC Tackyこと、瀧川が担当したRapパートについて紹介しましょう。

過去10年弱の駒場祭テーマソングを調べた限りでは、Rapを採用している曲はありませんでした。今年の他の候補にもありませんでしたね。
したがって、誠に恐れ多いですが、僕のRapこそが、TOKYO IRREGULARSの特異点であり、「Vividly」のアピールポイントであると同時に、TOKYO IRREGULARSがチャラくて、「Vividly」が邪道であることの、忌むべき根源でもあります。
では、なぜRapなのか? 単純化すれば、僕がRapを好きだから、というだけなんですが、その理由も幾つかあります。

まず、Rapはその歴史からして、「優等生」の音楽ではありません。黒人音楽にルーツを持ち、アメリカのストリートで発達してきたRapという表現方法は、自ずから、「白人の音楽」「西欧の音楽」「由緒ある音楽」へのカウンターカルチャーとして育ってきたものでした。
日本でもその受け止め方は恐らく根強くて、メガネをかけた優等生がRapをしている姿よりは、タトゥーを入れた厳つい兄ちゃんがRapをしている姿の方が想像しやすいのではないかと思われます。あくまでイメージの話です。メガネだろうがタトゥーがあろうが、Rapをしたい人が誰でもRapをして良いというのは当然としてです。

その意味で、「優等生はひとやすみ」を最大のテーマとしている「Vividly」において「反・優等生」的なRapを採用したことは決して不自然な選択ではありませんでした。「東大にしてはチャラい」という否定的なご意見もいただきましたが、その解釈自体は大正解です。

Rapには力があると思います。
キング牧師を始めとする偉大な演説家たちのスピーチのように、韻律が美しい「生きたことば」はスッと腑に落ちるもの。ことば(歌詞)とリズム(フロウ)を1人の人間の声だけで構成するRapは、旋律を用意して発せられる他のいかなる歌よりも、「生きたことば」に近いと思うのです。
あなたと同じ地平に立つ1人の人間、瀧川奏大として、あなたに届けたい言葉をRapにしました。伝わらないかもしれないことは理解していますし、伝わらなくてもいいと思って書いた歌詞ですが、誰かに何かが伝わってくれれば、こんなに嬉しいことはありません。


20, 「いま」を生きる

「Vividly」には「不確かなNow or never」「選んだいまを正解にするために」という歌詞があります。この歌詞は本当に悩みました。3週間ぐらいずっと、この部分について考えていた気がします。
この歌詞自体の解説はしませんが、思うことを少し書きます。

過去から現在、現在から未来に向かって、宇宙は拡大し、エントロピーは増大していきます。これが物理的時間です。
しかしながら、よくよく考えてみれば、過去→現在→未来へと時間が「流れる」というコンセプトは決して客観的なものではありません。5分前の「過去」は我々の記憶の中にしかなく(世界五分前仮説)、5分後の「未来」は我々の想像の中にしかありません。過去も未来も、生物の学習と生存を助けるために進化が用意した虚構でしかないのです。過去のおかげで「いま」があるのでも、未来のために「いま」があるのでもなく、「いま」を生きるために、人は過去と未来を憶うのです。

我々は「いま」を生きることを宿命づけられている。これを自覚するのはとても苦しいことです。目を背けたいほどの醜い「いま」を目にした時、「昔は良かった」と言って過去に逃げることを、誰も許してはくれないからです。辛く冷徹な「いま」と戦うあなたを、明るい未来が待っていると、誰も保証してはくれないからです。温かい過去も、明るい未来も、あなたの幻想でしかないからです。正解のない「いま」という暗闇の中を、あなた独りで歩き続けるしかないからです。

だから、立ち止まりたくなることもあるでしょう。
過去も未来も捨てて、「いま」も正解も忘れて、暗闇の中で座っていたくなるときもあるでしょう。
未来が虚構なのだから、それも良いですね。戦ったところで報われる訳じゃあるまいし。別に戦わなくても、あなたは美しい。

でも、戦うあなたはもっと美しい。と僕は思う。過去も未来もなくたって、一歩踏み出す「いま」のあなたが、強くて、楽しくて、美しいんです。
戦う理由は自分で決めて良い。過去の因果により戦うのでも、明るい未来のために戦うのでもなく、「いま」を選んだ自分の覚悟を、嘘にしないために戦うんです。だから、「いま」を生きることを、どうか諦めないで欲しい。

願わくは、僕たちの歌が、「いま」を生きるあなたと、ともにありますように。僕たちはあなたの代わりには戦えないから、せめてあなたの背中を押すことができますように。




ここまで1万字に及ぶ文章をお読みいただきありがとうございます。
メンバー紹介のパートなんかは、書きながら、このチームに巡り会えて良かったとしみじみ感慨にふけってしまいました。

まだ書き足りないことはあります。歌詞に1人称を使っていない理由とか、冒頭の無音を0.1秒単位で調整した話とか。ただ、面白くないのでこのぐらいにしておきます。
皆さまの応援と投票のおかげさまで、駒場祭のテーマソングに選ばれるという栄誉を手にできました。次の本番は駒場祭ですからね。引き続き「Vividly」への応援をよろしくお願いします。

愛を込めて


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