香りが呼び起こす記憶

匂いと記憶は密接に関連しているという。

写真で思い出す記憶、音で思い出す記憶、
記憶が呼び起こされる場面は様々あるが、
香りが呼び起こす記憶が1番心を揺さぶられる気がする。

私は小学生の頃、父の転勤でロンドンに2年ほど住んでいた。ロンドンの日本人小学校に通っていた。
小学6年生になる時に、また日本に帰ってきたのだが、大学生になってその時以来初めてロンドンを訪れた。
せっかくなので2年弱通った母校にもその時、久しぶりに足を踏み入れた。

毎日のように本を借りに行っていた図書室、班になって絵を描いた美術室、どれもものすごく懐かしく、今も変わっていないその様子に驚いた。

だが、4年生の時に使っていた教室に足を踏み入れた瞬間、その教室の香りがすごい勢いで私の記憶を呼び起こした。
記憶というのは正しくないかもしれない、その頃の感情を鮮やかに呼び起こしたのだ。

転校したばかりの時の不安な気持ち、クラスになじんで、学校に行くのがとっても楽しかった時のこと、女の子特有の難しい年頃で友達と少し気まずくなった時の閉塞感、気になる男の子と席が隣になって思わずにやけてしまう嬉しさ、また日本に戻ることになった時の悲しい気持ち…
2年弱の短い期間の、けれどもとっても濃い記憶が蘇ってきた。
うまく言えないけれど、涙が出るほど懐かしく切ない気持ちになった。もう戻れない時間の、一生懸命だった自分に心が揺れた。

なぜか匂いが連れてくる記憶は、視覚や聴覚が呼び起こす記憶よりも心を揺さぶる。

この先、私の心を揺さぶるのはどんな香りだろうか。

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