見出し画像

今頃、あなたはどこで何をしているのかなあ

うだるような暑さにボーッとしていたら、スクールバスが僕を置いて発車してしまった。




まずい。ここから学校までは約1時間かかる。
ここには電車なんていう交通手段はない。
「かなりやばい」ということは、
6歳の僕にも理解できた。


急いで家に帰って、お母さんにお願いして車で送ってもらおう、
そう思って踵を返すと、


「あっ」



同じクラスの女の子が、バス停の少し手前で突っ立っていた。

学校で紫陽花を育て始めたくらいの時期に、こっちにやってきたばかりの女の子だ。
慣れない異国の地で、おそらく今は僕と同じ状況に立たされている。



僕は2年前から海外で暮らしている。


ここでは、一年中夏である。
雪も、紅葉も、桜もない。

だけど、通っている日本人学校では、
「サンタさんにお願いを」とか、
「焼き芋を作ろう」とか、
「お花見をしよう」
とか言われるから、なんかチグハグな気持ち。

あっついのに。


そんなこんなで、この日本から5,000km離れた常夏の地で、
スクールバスを逃した幼稚園児が2人いる、という状況。


「僕のお母さんの車、一緒に乗って行く?」

女の子は静かに頷いた。







その日から僕とその子はなんとなく一緒に遊ぶようになった。


おとなしい子だった。
折り紙やあやとりや本を読むことが好きで、僕が知らないことを教えてくれた。
僕が好きな恐竜やマンガやアニメの話をすると、目をまんまるくして楽しそうに聞いてくれた。


そんなある日、僕とその子は一緒に夏祭りに行った。
いや一年中夏じゃねーか、と思うけれどそんなことは口にしないでおく。
お母さんとお姉ちゃん以外の女の子と外に出かけるのは初めてで、なんだか不思議な気持ちがする。


金魚掬い、ヨーヨー、射的、かき氷…
もうほとんど記憶にないけど、日本で一回だけお父さんと行った夏祭りを思い出した。





彼女はこっちに来て間もないから、久しぶりに日本を感じられて嬉しかったのか、とてもはしゃいでいた。


一緒に宝探しをやった。今思うと子ども騙しのゲームだけど、その時は本当にまだ見たことがない宝を一緒に探している気分だった。

彼女は目当ての宝を探すことができず、少し落ち込んでいるようだったけど、
僕は自分が取った宝をバレないようにポッケにしまった。



薄暗くなった公園で2人でブランコを漕いだ。

ポツポツと色々なことを話しながら漕いだ記憶がある。


ギー



ギー




数年間乗られてないんじゃないかと思うほど頼りないブランコの音だった。





「あーあ、さっきは欲しいの取れなかったなあ」


とその子が言うので、僕はさっき自分で取った"宝"を彼女の指にはめた。

今考えると駄菓子屋で売っているようななんでもない指輪だったけど、
僕にとっては誰かにはめる初めての指輪だった。




あれから約16年。
僕は今、大阪のIT企業でエンジニアとして働いている。
彼女のことなんてすっかり忘れていたけれど、
うだるような暑さに空を見上げて、ふと、思い出した。


今頃どこで何をしているかなあ。





今頃わたしはnoteで君のことを書いています。

これは半分実話で半分フィクションです。
その子のことなんてすっかり忘れていたけど、「真夏の恋の物語」と言われてふと思い出しました。
全然蛙化現象じゃないけどね!!!

この記事が参加している募集

#夏の思い出

26,279件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?