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GOOD WAR TOUR 23. 夢を歩く

初日が無事あけた。
ドアを開け放っているため、上演中に外の環境音が入ってくる。
救急車のサイレンや電車の走る音、誰かの話し声。
今日は特に救急車が多かった。消防車まで通った。
風の吹かない地下室で、暖房の風に煽られてくらげのビーズが揺れる、光が反射してキラキラ光っている。

初日は、夜にGOOD WARの上演が一回のみ。
ギリギリまで調整を重ねて、なんとか開場、一回目、そして一日目が終了した。

その夜、PIPE DREAMの音声の録音をした。
あす、GOOD WARから一日遅れてPIPE DREAMの上演が始まる。
ハーネスの位置を決めた以外、まだ何も決まっていない。でもずっと前から、じわじわ始まってはいる。
物音を立てないよう、しずかに、じっと、朗くんがテキストを読むのを聞いていた。
ていねいに読んでるな。懐かしい響きの知っている言葉たちが頭にまっすぐ入ってくる。

お借りした方のお名前、お品物の名前、あの日にまつわるエピソードを一文字一文字打ち込んでゆく。
それを一枚の紙にまとめて当日パンフレットに挟み込んだ。
私は二つで一つのぬいぐるみを持ってきていたのだが、それ以外にもう一つ、「あの日」にまつわる文章を挿入させてもらった。
ヴィヴィアンウエストウッドの長財布について。その財布は今はもう手元にはない。だから実際に展示することはできないけれど。
今はもうここにないモノ、でも「あの日」が残っている。
そういうものも、この空間に一緒に展示したいと思った。
誰かがここに何か置いていくのも、ここから何か拾っていくのも(実際に物理的にモノを持っていかれると困っちゃうのだが)自由な空間、場。そうあるべきだと思った。

合間合間で展示の、美術の写真も撮った。
公募で集まってきてくれた、Tシャツ、あきかん、トートバッグ、遺骨、ぬいぐるみ、美術作品、マイクスタンド、絵、ノート、折れたギターのヘッド、写真、貯金箱、ペンダントトップ。
誰かの「あの日」と旅をしている。遠くまで連れてきちゃったな。
写真を撮って、簡易だけれどコンビニで印刷をして、最後お品物を返送するときに一緒に送ろうと思った。
お宅のお子さん、外ではこんな顔もするんですよ。そういう気持ちだった。

ドラマトゥルクってなんなんだろう、なにすればいいんだろう、とよく考える。
本を読んだ、ネットで検索した、学生時代には授業もとった、他のドラマトゥルクの方の話を聞いたり側について仕事を見せてもらった、でもよくわからない。
考えてみて、だいたい「よくわかんないな、まあ私は私でやれること、求められることをやればいっか」で終わるのだが、私にとってのそれは、意味とまなざしについて考えることではある気がしている。

外は雪。バシャバシャの水っぽい雪が積もっている。
朗くんとまをさんが鍵を返しに行っているあいだ、ビニール傘の下、海人くんがマスクをずらしてウォッカのスキットルを煽った。寒いからね。
みんなとお別れするまで待つことができない彼の、そういう甘えたところをかわいく思う。
滑らないように気をつけて、みんな、また明日。
明日からはPIPE DREAMの上演が始まる。

制作37回目
日時:2022年2月10日(木)
出席:だいたい全員
場所:北千住BUoY


『GOOD WAR』は、私たちが「あの日」と聞いて想像する争いと日常で構成されています。
私たちは生きている限り、これからも誰かと戦い続けなければいけません。現時点で戦っていなくても、生きている限りいつか争いに巻き込まれます。『GOOD WAR』ではいずれ来る「その日」と、過去にあった「あの日」との向き合い方を鑑賞者と共に考えるべく、だれかの「あの日」で集積された記憶のモニュメントとして演劇作品を立ち上げます。

『PIPE DREAM』は、演出と出演を行う河井朗の祖母が医療ミスで植物状態に陥ったことをきっかけに、河井自身がマッチングアプリなどで無作為に出会った人々に「理想の死に方」についてインタヴューを行い、その中で語られた言葉から構成されています。
自身で動かすことのできない自分の身体、生きることも死ぬことも決められなくなった遠い自身、その自身の決定権を握っている人、それぞれと意思の疎通を図ることを試みる作品です。

『GOOD WAR』『PIPE  DREAM』

原案 『よい戦争』(作:スタッズ・ターケル 訳:中山容 他 1985年7月25日出版:晶文社)
構成・演出 河井朗
ドラマトゥルク 蒼乃まを、田中愛美
出演 伊奈昌宏、諸江翔大朗、渡辺綾子
美術 辻梨絵子
音響 おにぎり海人、河合宣彦
照明 松田桂一
制作 金井美希
制作協力 (同)尾崎商店、黒澤健
衣装協力 MILOU
記録 田中愛美

日時・会場
2022年2月10日(木)〜2月15日(火)|北千住BUoY
※すべての上演は終了しました。ご来場いただきました皆様、気にかけてくださった皆様、誠にありがとうございました。


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