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冷めると味がなくなる。カフェオレも恋も。

暗闇に光を敷き詰めてそこに舞い降りるよう。深夜の飛行機の中、着陸態勢に不安になりながら窓の外を見た。41-C。2席の通路側の私、隣の窓側の席の赤の他人の向こうの景色を眺めるとどうしてもその他人が視界に入り、他人も私の視線を気にしている。あなたが読んでる小説を盗み見てるわけじゃない、と言い訳したいけれど赤の他人。心の中で言い訳するのが面倒で外の景色を見るのをやめ、代わりに目を閉じて君と歩いた深夜の大久保通りとネオンの光と満月を思い浮かべた。一人で乗る飛行機も悪くない。

福岡にも明治通りがあるのを発見したときの胸のあたりをリボンできゅっと、そのリボンがちぎれそうなくらいきつく縛られた感覚。忘れかけてたというのは言い訳で実際には無理やり身体と記憶の奥にしまいこんだ想いを、土の中から無理やり掘り起こしたよう。福岡も東京もほとんど変わらない。私の想いもあの日とほとんど変わらない。あともう少しだけ好きでいてほしかった。あともう少しだけ夢を見ていたかった。

いつも噛み合わない私たち、「噛み合わないのも楽しいよ」って君はどこまでも前向き。私は誰よりも上手に瞳の星を隠して、君は自分の星を私に少し手渡す。私が下になった下りエスカレーター・そのまま頭を君の胸に預けたいけど果たしてそれをしていいのか、らしくもなく迷ってもたもたしてたらあっという間に地面。やっぱり寄りかかってしまえばよかった。君の匂いを思い出しては後悔して早く会いたいと思う気持ちにあわてて蓋をした。

初めて放っておかれた私の気持ち。また会える?冷めて味のないカフェオレ喉に押し込んだ。人の少なかった大久保通り。君のいない明治通り。こんな風に君に会いたいと思うなんて、10日前の私は知らなかった。



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