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つかまらないタクシー、六本木。13Fからの安っぽい夜景の秋

気づくと君が座ってたソファのはじっこを見てしまう、少し肌寒くなってきた朝。ベッドでふわふわの白い毛布にくるまったままの私は密やかにミントの息をしている。息していいの?頭の中の自分にときどきそんなことを聞いてみたりする。

返事こないって分かってるのにまたLINEしてしまった。誰にも読まれないメッセージが宙に消えていく。赤や黄色になった葉が地面の方へふわりふわりと舞うように、一個ずつバラバラに空中分解していく文字。
毎年秋はこうやって始まる。
スタバのチョコレートマロンフラペチーノで自分を甘やかした帰り道。星がビジューのように煌めいて、朝起きたら返事きてる!っていう幸せで残酷な夢はもう見ませんように。

どこにも行く予定ないのにメイクも完璧にしてお気に入りの服に着替える。背中が大きくあいたブラックのワンピース、ローズパウダーを肌に仕込み、Diorのルージュを。君から連絡来るかもしれない1%くらいの可能性に賭けて。そのときは完璧に可愛い私でいたい。可愛いって言ってくれた静かすぎる真夜中が未だに忘れられない、君がいなくなってから二回目の秋。金木犀の香りにはまだ早いけど、温度が私を追いかける。逃げ切れないまま冬を越す。いつまでもほのかに香る、君の声。耳を塞いでも目を閉じてもボロボロになって眠っても。キャンドルだけを灯した寝室、香りの強いバニラのアロマで君の気配を上塗りしてる。消したい消したいと願うほど、夢のような夢をみる。

三ヶ月待ちのエッグタルトが忘れた頃に届いたように、近所にあるのになぜか行く機会のなかったビストロがいつの間にか閉店してしまったように。君は君の知らない間に香り立っている。こんな日に限ってつかまらないタクシー。六本木、駅チカのホテル13Fからの安っぽい夜景だけをまぶたに焼き付けて、早く帰りたかった平日の深夜。でも東京タワーはいつも綺麗。レイトショーでも観ていこうか。一人の映画館は大好きだから。

そんな美しい夢を見た。どこからが夢で、どこからが現実なのかぼんやりしている肌寒い朝。白いふわふわの毛布を引き寄せて顔の半分をうずめる。息していい?おしゃれしていい?好きでいていい?自分に確かめて納得して、うん今日も素敵な私でいることに決めた。君のこと好きな私が一番可愛いって知ってるから。背中が大きくあいたブラックのワンピース、ローズパウダーを肌に仕込み、Diorのルージュを。誰にも会えなくたって、君に会えなくたって、私を好きでいたいから。

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