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虚しさが響く目黒川沿い、でもクリスマスイブってだけで美しい

 予定のないクリスマスイブ。こんな日に限って仕事も早く終りそう、次の打ち合わせが最後。その仕事で寄った渋谷はまだ夕方だというのに街全体が満員電車のよう、朝の憂鬱を思い出させ、打ち合わせに間に合わなそうで焦りが募る。だから時間ギリギリに行動するの嫌いだって言ってるのに。高いヒールを履いてきたことを後悔した。そしてこんな日は誰であっても誘いづらい。

 打ち合わせが終わりそのままオフィスに戻らず直帰、降り立った最寄り駅。大きなモミの木に飾り付けられたシンプルな単色のイルミネーションが綺麗で、私が持ってるパンパンになったスーパーのビニール袋とアンバランスすぎるのが惨めでじわっと涙が出そうだった。こんなはずじゃなかった。クリスマスだからってなんてことないはずなのになんだか虚しさがこつんと響く。でも日が落ちて街灯も少なく暗い目黒川沿いは綺麗。こんな些細なことに心が動く自分を今この瞬間はちょっと好き。

 なんで君が好きなのは私だけなんて当たり前のように思ってたんだろ、現に私自身、君だけじゃなかったっていうのに。君はいつも忙しくて仕事でいっぱいいっぱいになってて余裕が全然なくて、私と会うのもやっと時間を作ってくれて。なんでそんな忙しさを真に受けてたんだろ。私だって同じ言い訳をして他の人からの誘いを断ってたというのに。いつになったら君の気配は消えるんだろ。もう好きじゃない、未練はないのは本当なのにいつまでも匂いだけそのへんに時々残ってる。鬱陶しい。そんな日はクルマで迎えに来てくれるあの人に連絡するって決めてるのに、やっぱり今日だけは誘えない。

 結局もう会えなくなったあの日だって今日だって変わらない。私は日常のどこかいたるところに君の気配や匂いを感じて、それこそ好きとかもう好きじゃないとかはあるにしてもたしかに存在を感じてて、それに対して何もできずにいる。なんだか今夜はいつもより冷え込む。ストーブの前に体育座りで座り込んで先週シルバーのラメに塗った足の爪先を見つめる。君が褒めてくれた色をまだ使ってる。やっぱりまだ君の呪縛からしばらく抜け出せそうにない。


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