見出し画像

憂鬱で空腹が満たされてしまうランチタイムの雑記

家を出るときはつけっぱなしにしていたはずの電気が帰ってきたら消えていたように、僅かな違和感が少しずつ不安や疑いに変わっていくのは何度経験してもいい気はしない。なんかおかしい。なんか怖い。私の無意識は君の言葉、態度、瞳、雰囲気、思いつく限りの君にまつわる記憶を総動員させて違和感の正体を探るが、一方で私の意識はようやく日本で公開されたウディ・アレンの最新作レイニー・デイ・イン・ニューヨークに夢中。ギャツビーは言う。“僕たちは違う生き物なんだ。君は太陽の下で輝き、僕は曇天に心ときめく”。

そう、私と君も違う生き物なのだ。時々感じる違和感は多分そのせいなのだと気づいたらなんだか落ち着いた。私なら絶対に参加しない飲み会で羽目を外す君、君なら絶対にしないズル休みを平気でする私。違う生き物なのに哀れにも惹かれ合っては埋まらない溝に絶望し、同時に本音では安心もしている。


今日の食べきれなかったランチのことを思った。ランチタイムのピークがすぎる頃、こぢんまりしたカフェで一人ランチをするのが好きだ。いつも行くカフェではだいたいガパオライスかオムライス、同僚と行くときは決して頼まない食後のアイスチャイ。サービスでつくほんのひとくちの豆乳プリンが特にお気に入りだ。大好きなカフェに一人でいてもつい考え事をして憂鬱になることはある。山積みになったままの仕事を午後どこまで捌くかとか、明日は午前中に病院に行かなくちゃとか、一週間私のメッセージを見てみぬフリをしている君のこととか。憂鬱で空腹が満たされてしまう私は、ご飯は食べ切れなくてもアイスチャイと豆乳プリンだけはしっかり味わい、休憩時間を10分オーバーしてオフィスへと戻ったのだった。



雨がやんだ恵比寿ガーデンプレイスは好きだ。というより恵比寿はどんな時間でも天気でも好きだ。君が隣にいなくてもこの街は美しくて好きだ。というより私を美しく見せてくれるのがこの街の魔法な気もしている。タイトスカートにピンヒール、映画を観たあとは広場を無駄にゆっくり歩き、適当にタクシーを捕まえてワンメーター。「今の自分が好き」を毎回アップデートできる。私は動く歩道、君はただの歩道、歩くスピードは同じでもどんどん距離は離れていく。ああ、また。私たちの「距離」はここでも広がっていくんだね。君の心にしがみつくなんて私には到底できないから、このまま広がっていく距離を振り返らずにただ感じているね。それが君のために私が唯一できることだから。



いただいたサポートは創作活動のために使わせていただきます。