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#文芸批評

文芸批評断章45

45.島村抱月の「蒲団」評
島村抱月は『「蒲団」評』で言う。1)従来のきれい事しか言わない小説と比べれば、「芸術品らしくない」この小説はその限界を打破したものとして評価できるが、しかし同時に芸術品らしくないというまさにその点で弊害もある。2)主人公の妻の描写が不十分であり、主人公と子を抱えた家庭の関係が色濃くは描かれていないので、主人公の倦怠と煩悶がリアリティを欠く。3)「赤裸々の人間の大胆なる懺

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文芸批評断章40 田山花袋「蒲団」

文芸批評断章40 田山花袋「蒲団」

主人公の竹中時雄は三十代半ばの妻子ある作家であり、ある書籍会社の嘱託を受けて地理書の編輯の手伝いをしている。三年前に三人目の子ができ、新婚の快楽はとうに尽き、社会と深く関わって忙しいでなく、大作に取り掛かろうという気力もない。朝起きて出勤し夕方に帰ってきては妻の顔を見、飯を食って寝る、の繰り返しである。「単調なる生活につくづく倦き果てて了った」(二)のである。それが原因なのか、少し鬱気味でもあるよ

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文芸批評断章20-21

20
島村抱月は『自然主義の価値』(6)において、次のように言う。すなわち、文芸の目的には快楽と実際的意義とがあり、両者を総括して美となる。一方に偏るのでは文芸ではない。道徳を説くだけでは単なる修身書であり、快楽のみを目的とすれば遊戯や飲食と変わらない。「両者は是非とも溶解して一になつてゐなくてはならぬ」のであり、「此の境を吾人はまず大まかに美と名づける」と。(現代日本文學大系 第96巻 文藝評論

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文芸批評断章18

文芸批評断章18

18.
啄木の『食うべき詩』を読むと、こんなことが書いてある(以下、引用は青空文庫『弓町より』からである)。

若い頃の啄木は「朝から晩まで何とも知れぬ物にあこがれてゐる心持」を抱いており、それは「唯詩を作るといふ事によつて幾分発表の路を得てゐた」という。この憧れは常により高きを求めるロマン主義精神の発露であり、それは何らかの意味で理想主義でもあるが、それを現実のより善き状態への改善に結実せずに詩

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