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今のうちに、消えてしまう前に、

それは今しか書けない文章よ。今のうちに書いといた方がいい。

ハンモックに揺られ、春の風に吹かれ、その言葉を思い出す。やるべきこと、やりたいこと、自分の思いを咀嚼し飲み込む休日の午後。


うちのリビングにはハンモックチェアがある。去年か一昨年にホームセンターで恋人が一目惚れし、私がひとつくらいいいじゃないと許可して(?)買ったものだ。一万円だか二万円だかしたので二人分は買わず、私たちは事あるごとにそれを取り合いすることになる。

春と秋、天気のいい日には我が家のリビングにハンモックが設置される。本来ならキャンプなんかで外に置くものなのだけれど、今のところ屋外で使ったことはほとんどない。この季節、外は言うまでもなく家の中はもっと快適になるので、思わず室内で使ってしまう。

とある休日の昼下がり、ハンモックの座を譲られたのは私だった。5月になってようやく春らしい天気が続いている。家の中にはほどよく日の光が差し込み、その上風通しもよくちょうどいい。スピーカーから流れる音楽を消してしまえば、静かな住宅街のささやかな音が昼寝にはうってつけのBGMになる。

そしてぼんやりと考える。いろいろなことを。


入籍するまでに何かを成し遂げなければ、という謎の焦りが生じている。結婚は多くの人にとってそうであるように、私にとっても大きな人生の節目だと思う。成人式みたいなものだ。それに実際、女性である私は戸籍上の名前も変わるのだ。ある意味人生を一旦区切り、リスタートさせるようなものだろう。

成し遂げると言ったって、今からホームランを打ちまくって大谷選手を超えることなんかできやしないし、プロのクラリネット奏者になって全世界をブイブイいわすことだってまず不可能だ。
私がやりたいのはもっともっと小さくて些末なことだけど、でも、区切りの最後に何かをしたんだ私は、みたいな記録というか、思い出のようなものが欲しい。つまり自己満足である。

まずは一編、小説を書き上げる。ようやく“書きたいもの”から“求められるもの”を書こうという気になってきて、ひとまず創作大賞に出してみようかな、と思っている。これまでの応募作品はnoteに出してどうすんねんという内容のものばかりだったので、私なりの成長だと思いたい。


今しか書けないもの。私の文章にはそれがあるらしい。正直私の若さから来る文章の形は、私自身はあまり好んでいないのだけれど(20代後半以降の人の文章が好きだし、憧れる)、今しか書けないリズム感、語彙の選択、勢い、だったりするのなら、それはそれで貴重な一瞬なのかもしれない。

若くもあり、一方で人生の経験値も増えてきた今、自分のどういう部分が未熟なのかが徐々にわかってきた。おそらくこのまま放っておくと熟しにかかってくるので、そうなる前に未熟さも含めて、今この時、をぶつけなければならない。人間いつだって1秒後には別の自分になっているものだけれど、24歳の自分は今しか味わえないのだ。

そんな心情の最中に入籍日がちょうどやってくるので利用した、というだけなのだけれども、まあ結婚当初の思い出としては悪くないかなと思う。この先、自分のために使える時間は減っていくのだろうし。


やりたいこと、やるべきこと、何かと持て余しているけれど、書き終えたら私は私の人生前半に少しは納得がいくだろうか。なんて、ゆらゆらとハンモックに揺られながら考える。
まずはゆらゆらしている場合じゃない。書かねばならない。この焦燥感は決して不安ばかりではなくて、どこかへ向かっていくことへの胸の高鳴りも感じている。

前回の創作大賞のような重めの内容ではないので、全然ないので、よかったら応援してねという気持ちです。まあ、入籍日に間に合わなくても締切までには書き上げるつもり、です。


一万円ぐらいでしたね。

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