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秋空の下、明日の匂いなんて誰にもわからないから

皐月まう

浸る、溶ける、沈む。少し浮かんで、浮かびきれずにまた沈む。

そんなことを、朝からずっと繰り返している。カーテンの隙間からこぼれる日差しは部屋をゆるやかにあたため、私は私の体温でぬくもった布団から抜け出せずにいる。最近てんでだめだなあ、と思うたびにまたひとつ自信をなくし、現実世界に反抗するかのように再び睡魔に引き寄せられていく。

こんないいお天気はお昼寝日和なのか、はたまたお出かけすべきなのか。この地方では晴れ自体が珍しいから、こうしておひさまの光を浴びるたびに考える。今のところ、私の中で答えは出ていない。

最終的におかしな時間に目が覚めて、寝ぼけ眼でネットの海を漂う。すると、私と同じように低空飛行をする人が、おやつとホットミルクの写真を載せているのを見つけた。
そうか、私に足りないのはおやつだったか。思い立って動き出すのは一瞬だった。

お気に入りのワンピースだけを身にまとい、外に出るまではわずか10分。コンタクトを装着しただけで化粧すら施していない。
こんなにいいお天気なんだからお洒落して外に出かけねば、図書館に行って勉強しなければ。自分に勝手に重圧をかけていたのは自分自身だった。なんてことない、ちょっとそこまでおやつを買いに行くだけ。今の私に必要なのはそんな身軽さとお気楽さだったらしい。


月と短い飛行機雲がアクセントを加える空の下を歩く。夕方の空ほどきれいなグラデーションを描いたものはない、と思う。いよいよ澄んできた空気に、冬の気配を感じずにはいられなかった。
放課後の中学生がはしゃぎながら横を通り過ぎていく。なんでもない田舎の住宅街の真ん中で、さっきまでのひっそりと取り残されたような気分が風とともに散っていった。

あえて二番目に近いコンビニを選んで、甘いおやつと今日のおかずと明日の朝ごはんを買う。コンビニスイーツとて侮るなかれ。スーパーにもケーキ屋さんにもない絶妙な贅沢感、これが欲しくなる瞬間は定期的に訪れる。袋の中のプリンと密かに浮き立った心を連れて、来た道とちょっとルートを変えて帰ることにした。


空は明日もこんな調子でいきましょか、なんてすました顔でいるくせに、天気予報は明日から曇りと雨ばかりだという。私の好きな秋の散歩は、これで最後なのかもしれない。望んだ明日は来ないのかもしれない。

今日私が発した言葉は、さっきの店員さんへの「お願いします」と「ありがとうございます」のたった二言だ。常連でもなんでもないからいくら田舎でも店員さんと雑談なんかしないし、道端で気になるあの子に偶然出くわすなんてこともない(そもそもいない)。現実は案外物語に溢れてなくて、もっと平坦でなんでもないものだ。

雨なんて、とても降りそうにないのに。

妄想日記でも書いてやろうかと不意に思いついたけれど、すぐにやめた。わからない、現実は小説のようにうまくいかない、思ってたんと違う。だからいいんだと思う。なんてことない、うまくいかないを繰り返してひとつの人生が出来上がるくらいが、たぶんちょうどいいのだ。

そんなことより今の私にとっては、これからのおやつの時間の方がうんと大切。
ありのままに今日のことを書こうと空を見上げたら、白い月が思った通りの場所にぶら下がっていた。


帰り道、闇が色濃くなっても欠けた光はさっきと同じ形で留まっている。
明日はまた別の姿で会えるだけなのに、それでもなお変わらないものに安心を求めてしまう。


2022.11.28の日記。

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皐月まう

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