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マキナの街の錬金術師(アルケミスト)

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「マキナの街の錬金術師」あとがき

さて、4月から書き綴って来たWeb小説「マキナの街の錬金術師」も先週で完結となりました。

特に明確に何か「これを書こう!」と最初から決めていたわけではなく、本当に思いつきのままにアイディアを練って、最終的にどんな作品に仕上がるか明確なビジョンを持っているわけでもなかったんですが。
終わってみればなんだか探偵モノっぽさというか、ちょっとしたミステリー風味もありつつな作品に仕上がったのは驚きでした。

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):24

「――いい歌だな。さすがは『アビス』の元歌姫、か」
 再び、『パール』店内。カウンターに腰を下ろした錬金術師は快復した歳蓮の歌声を聴きながら、穏やかな笑みを浮かべてグラスの酒をあおる。
「あなたのおかげですよ。ありがとうございます」
 テーブルを挟んで立つマスターが、グラスを拭きながら恭しく頭を下げる。警察の事情聴取もそれほど長時間にはならなかったので、終わってから開店の準備を整えるにはさして時間

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):23

 ――歌が聞こえる。美しい歌が。
それはかつて天上の歌声と呼ばれた歌。機械と人間が同居する街で最も栄えたナイトクラブで、誰もに愛された歌姫の至宝。
 その店がなくなって舞台が小さなバーに移ってもなお、彼女の――歳蓮の歌声はあの頃のままに美しく響き渡っていた。

 数時間前。歳蓮の体は冷たいベッドの上にあった。眠るように静かに目を閉じた彼女の傍らには、装置に突き立てられた『フラスコ』の柄に無数の配線

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):22

「ぎゃあっ!?」
 突如生身の部分を撃ち抜かれた激痛に、男が悲鳴を上げてもんどりうつ。もちろん錬金術師は何もしていない。彼の手には銃器は何も握られてはいなかった。
では、誰が。そんなことはもう考えるまでもない。錬金術師の後方から、ゆっくりと近づいてくるのは上等な靴音。
「ダメじゃないかアル君。見つけたらすぐに僕に教えるって約束だっただろ?」
 そこに現れたのは当然ながら、男が一番今会いたくない相手

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):21

 今度は錬金術師が攻勢に出る番だった。
 迷うことなく男に向けて走り出すし振りかぶった『フラスコ』で大ぶりの一撃。当然男は出力を上げた拳で迎撃に入る。まともにぶつかれば刀身のほうが砕けるはずだという絶対の自信があった。
 ところが――拳が刀身に命中することはなかった。そこに走る赤いレーザー光が触れた拳を融解して、刀身内部に溶けたその金属を取り込んだのだ。
「なっ!?」
『MATCHED』
 その瞬

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):20

「そもそも難しく考えるまでもなかったんだ。襲撃犯が『アビス』に元いたマキナの行方を把握してるんだとすりゃ、組織の人間からまず疑うのが筋だ。ま、あの朱纏の下で下手な裏切りに出るなんて選択肢は普通考えねえけどな」
 パーカーのポケットに片手を突っ込んだまま、錬金術師が歩を進める。犯人捜しをするつもりはもちろんなかったが、いつか行き当たる相手なら仕方ない。だから誰が犯人なのかということは常に考えていた。

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):19

 とーーもの言わぬ残骸となったのは襲撃に出たマキナの方だった。
 次の瞬間にはマキナの腹部を何者かの片腕が貫いていて、一瞬で物言わぬ鉄くずにしてしまっていたのだ。
「……お前じゃないな、標的は」
 その腕の主、大路は何の感情もこもっていない冷たい口調でそう呟くと、うざったそうに腕を払ってマキナの骸を放り捨てた。やや遅れて翡芽が拳銃を手に合流し、マスターと歳蓮を庇うようにして大路に並び立つ。
「こい

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):18

「あーあー。さて、お集りの諸君に大事な話がある」
 一通りのメンバーが揃ったのを確認すると、ロビーの壇上に上がった朱纏はマイクを通して一堂に声をかけた。
「まあ何となくお察しだとは思うけど、現在ウチで扱ってたマキナを狙った連続襲撃事件が起こってる。ここに集められたのはおそらくその標的になると思われたマキナ達だ」
 普通なら動揺が起こってもおかしくないような物騒な発言だったが、会場内の誰もその言葉に

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):17

 感じる。自分自身を高めるためのパーツが集いつつある気配を。
 ゴミ溜めのように散らかった路地裏に座り込んでいたその『怪物』――百足は薄汚れたボロ切れの奥で本能的に目を見開いていた。
 先日の錬金術師たちとの戦闘でいくつかのパーツを損失してしまってから、彼は表立った行動を止めて傷の治癒に専念していた。あくまで他のマキナから奪ったパーツの損失のみだったのでそれほどダメージは大きくなかったが、それでも

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):16

 会合の場所に選ばれたのは皮肉にも、元々『アビス』が居を構えていた場所を建て替えて作られたホールだった。歳蓮とマスターが扉を開くと、ロビーにはすでにたくさんの人々とマキナが集っている。
「なんと……ここまでとは」
 朱纏たちの組織の関係者とまともに接触したことはほとんどない。場の空気に呑まれてマスターは呆気にとられて立ち尽くした。人混みの中には明らかに堅気ではないと分かる面々もちらほらと見え、決し

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):15

「元々『アビス』にいたマキナを、集める?」
「ああ。今回の件についての情報を一旦全体に共有する必要があるんだとさ。関係者を含めてな」
 後日、錬金術師は開店前の『パール』でマスターにそう朱纏からの言伝を告げた。
 先日の事務所でのやり取り以降、実質的に錬金術師はマスターや歳蓮との仲介役を請け負っている。それ自体は大した仕事量でもないのでついでにこなすうえでは何の問題もない。ポケットから取り出した便

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):14

 人体の機械化が発展しても、結局求められている娯楽というものは根本的には変わらない。それは原初に刻まれた本能に基づく三大欲求からくるものだ。結局生きていくうえで誰でも腹は減るし、ある程度の休息として睡眠は必要だし、そして――性欲もまた変わらない。
 朱纏の組織が運営に関わっているナイトクラブの中で、最も人気が高い看板店が『エマ』。個室で区切られ、欲求不満を抱えた男性客に所属している女性たちが文字通

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マキナの街の錬金術師(アルケミスト):13

「やあアル君、歳蓮のメンテは進んでる?」
 翌日、事務所にやって来た錬金術師を朱纏は気さくに迎え入れた。目の前には彼が直々に淹れたコーヒーが湯気をたてている。
 香りはなかなかのものだ――軽く息を吸った錬金術師の鼻にコーヒーの匂いが入り込み、緊張感をわずかに解きほぐしてくれる。
「さてな。お前のとこの犯人探しとどっこいどっこいだろ」
「ああ、そりゃよくないね。まあ焦っても仕方ないんだろうけどさ」

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