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【やさしい澱】

 幽霊、僕はいると思う。

 高校生の頃におばあちゃんが亡くなったんだ。
僕が小さい頃から共働きだった両親に代わっておばあちゃんが身の回りの世話をしてくれていた。

 とても優しいひとで、僕は大好きだった。
料理が上手な穏やかな性格で、怒られたという記憶があまりない。

 だけど、マナーにはとても厳しかった。
食事の時のお箸の使い方、目上の人との接し方、他人の家でのふるまい方。

 大人になって、人間関係で困ることがあまりなかったのは、間違いなくおばあちゃんのおかげだ。

 おばあちゃんは亡くなってからも僕を導いてくれた。
壁に当たったら「こうした方がいいよ」と、あの優しい声が頭で響く。夢に出てきて、「あんたは大丈夫だ」と僕を包み込む。

 僕の中に残ったおばあちゃんの残像。幼い頃からゆっくり、少しずつ積もってきた柔らかい澱。それが、亡くなってなお、そういう形を取って僕の前に現れる。
 それを“幽霊“と定義づけても良いと思う。

 心が生み出しただけのもの、そう言ってしまえばそれまでだけど、僕に話しかける“それ“は生前のおばあちゃんと何も変わらないおばあちゃんだ。
 先人が言う「心の中で生き続ける」ってそういう意味だと僕は思う。

 だからさ、どうか前を向いて。
僕は僕だよ。君が作り出した、生きてた頃と変わらない僕だ。
 天国なんてなかったよ。天使もいない。でも僕は確実に居る。ずっとそばにいるから。

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