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出木杉くんとインクルーシブ社会

4月に1年生になったしっかり者の弟は、入学から2か月が経っても、抜群の安定感を見せながら学校生活を続けている。運動会では、1年生代表のはじめの言葉を仰せつかり、堂々たる宣誓をしていた。完全に出木杉くんである。

ちなみに、出木杉くんが張り切ると、のび太キャラの4学年上の兄がヘソを曲げ始める。今回は応援団員として、弟と一緒に開会式に参加していたので、地位はトントンだと思ったらしい。気に障ることなく、運動会は平和に終わった。ホッ。

兄の弟に自分を誇示したい気持ち、私も姉の立場で生きてきたからよくわかる。でも、追いつけ追い越せでがんばる弟も褒めたいし、大ぴらな評価がなくとも、マイペースに努力を重ねる兄も褒めたい。どっちも褒めてるからいいじゃん、と親は思うのだが、そうは道理が通らないらしい。

ということで、兄弟の上下関係に絡む話は、親的に旗振りが難しいので、その件については、平穏無事に終わってありがたや。

さて、弟が帰宅すると毎日、「今日はどうだった?」と聞くようにしている。弟は兄ほど口数が多くないので、こちらから問いかけねば、学校生活が垣間見れないからだ。だが、うれしいことや、驚いたことがある日は、聞かずとも向こうから話しかけてくる。今日はその日だった。

ひとつは、体力テストの結果について。シャトルランの測定で、クラスで一番最後まで残ったことを鼻をたかーくして話していた。兄がまだ帰ってきてなくて良かったわ。お望みどおりに褒めておく。

もうひとつは、席替えの話。初めてだったので、ワクワク感があったようだ。席順は先生が決めたとのこと。低学年だからね、と思いきや、兄もいまだに先生が席を決めている。

どうやら授業を進めやすかったり、クラスの調和が保たれる組み合わせだったりを考慮しているようだ。要は、先生都合ということである。最悪な組み合わせになって学級崩壊するより良いけど、いつでも予定調和な感じになるというのも味気ないような。

私が子どものころは、「あの子の隣になれますように!」と神に強く祈り、猛烈な念を送りながらくじを引いていたものだが、そんな席替えに対する情熱は、令和の子どもたちには理解してもらえないだろうな。

弟は、名簿順で座っていた位置からそう遠くないところへの移動になった。物理的に大きな変化はなかったが、周囲の友だちの顔には変化があったようで、そのうちのひとりに、通級指導と加配の先生がついている子がいた。

入学式の集合写真を撮影する際、クラス全員の準備が整うまで、待つのに苦労する姿を気にしていた弟。その後、友だちの給食の食器を落としてしまったり、機嫌が悪くなると手が出てしまったり、といった話を、聞かずとも言ってくる弟にとって、その子は気になる存在なのだと察した。

席が近くなったことにより、先生とその子とのやりとりが、より身近に感じているみたいだ。

「今日は授業中に勝手に前に出てきて、黒板にいたずら書きをして、先生にすごく怒られたんだよ。怒られたのはダメだけどさ、4月は先生が怒ると逃げてどっか行っちゃってたのに、今日は話が全部終わるまで、先生の前にいたんだよ。最後まで聞けてえらかったねって、先生に褒められてたよ!先生に褒められたからエライよね!」

弟は出木杉くんなので、先生に褒められたらエライし、先生に怒られたらいけない、と思っている。私はのび太も育てているので、それだけでもないだろうと思わずにはいられないが、弟なりの価値観で、友だちの内面の成長を見守っていたことに驚いた。

幼稚園時代、縦割りのクラスで、他学年に自閉症のお子さんがいた。参観の日、その子がパニックを起こしたのだが、担任の先生が一対一でフォローしても、他の子どもたちは淡々と活動を続けていたのが印象的だった。

園では、子どもたち一人ひとりが活動したいものを明確にしていれば、ほかの子の様子に引きずられることはない。自主性が育てば、それぞれのやりたいこと、やっていることを尊重しながら生活できる、と言われていた。

それ以来、際立った特性を持つ子を特別視しないというのは、子どもの心身の自立と対になった話なのだろうと思っている。

幼稚園時代は、淡々と同じクラスで過ごしていた経験が、今は毎日顔を合わせる仲間となり、自分の考え方とも照らし合わせながらコミュニケーションをとるまでになっているのだから、すごい成長だ。ありがたい経験をさせてもらっている。

子どもたちの在籍している小学校は全校生徒数が非常に多く、障害を持つ子、重度のアレルギーがある子、ご両親お子さん共に外国籍の方や、両親共に日本人だが、日本の学校は初めてですという子、などなど、多様なバックグラウンドを持つ子どもたちが集まっている。

このような環境は用意したくても、できないのではないかというくらい豊かなバリエーションがあり、PTA活動なんかはなかなかに大変なのだが、子どもにとってはまたとない、貴重な環境であることは間違いない。

出木杉くんだからこそ、弟にはこの豊かな個性や特色から、世界は画一的じゃないことを知ってほしいと思う。その足掛かりとして、のび太な兄がいることにも感謝して。逆も然りで。お互い、妬みひがみもありながら、毎日仲良く暮らしておくれ。

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