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【読了雑感】一人称単数/村上春樹

 僕には人間関係において思い出すと胸が疼く過去が、いくつかあります。
大きなものから、小さなものまで。

決定的な何かがあったわけでもなく、なんとなく居心地の悪さを抱えたまま、なんとなく時間だけが過ぎ去って、なんとなくそのまま疎遠になってしまう。謝らなければと思いながらも、タイミングを掴めなかったり、いまさら・・・という気持ちでそのまま流してしまったり。

もう何年も、あるいは何十年も会ってない間柄だったりするのに、あるいはこの先二度と会わないような相手との出来事だったとしても、その相手をふと思い出すと、少し顔をしかめてしまう瞬間があります。

人間関係の心の上ほんの少しのすれ違い、違和感を「流す」ことはよくあることなのかもしれません。本当はあって欲しくないことだけれど、謝るのが恥ずかしかったり、つまらないプライドがそれを邪魔してしまったり。

当時の彼、あるいは彼女の少しだけ寂しそうな顔を思い出すと、いたたまれなくなってしまう自分がいます。傷つけてしまったかもしれない、もしかしかたら考えすぎかもしれない、そうだったらいいのに。

当時の人間関係について、いまさらその人に謝ったところで、それこそ”いまさら”です。その人にとっては、蒸し返して欲しくないことだったり、そもそも覚えてもいないことかもしれません。

人生の機微と言ってしまえば、そうなのかもしれません。
自分が傷つくことよりも、他人を傷つけたことの方があとから自分にはこたえますね。ちいさな過去なのに、時々それが大きなものとして心の中に現れることがあります。その解決できない「過去の痛み」を「今」も鮮明に感じることができます。

いまさら、どうしようもないことなんだけど。

その「どうしようもない」ことに対する心に、
今回の短編集の中で寄り添ってもらった気がします。

誰もが持ってる「どうしようもない」こと。
”いまさら”と思ってしまうけど、完全にはそう思えないこと。

僕たちはそういうものをしっかりと抱えて生きていかなければならないのかもしれません。

成長とか、進歩とか、そういう教訓的なものとしてではなく
ただ、そういう感情は誰にでもあるものだと寄り添ってもらったことで
少し気持ちが楽になった気がします。

今の世の中が生きづらいと感じることの大きな要因の根源は人間関係ですから。

人生の一つの風景として、その「どうしようもないこと」を心に留めておくこと。これもきっと生きていく上で大事なことなのだと思えた、読後でした。

小説を読むことは、実用書やビジネス書、自己啓発本みたいに直接的に何かに役に立つということはないかもしれません。
でも、こんなふうに、少しだけ人生を生きやすくなるという効果は、かなりあると思っています。

役に立つとか立たないとか、そんな目線だけで読書を見ていたら人生はつまらないものになってしまうのではないかと思います。

計測不能ななにかを目指して、次の本を開きたいと思います。

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