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廃校の創作家達

 人口減少によって閉校した小学校。
 その校舎を買い取ったのは、かつてクリエイティブな仕事を目指し、しかし生活のために夢を諦めた老人男性だった。

『ワシはクリエイターとして生きることは叶わなかった。じゃがその代わりに、これからの時代を担うクリエイターの力になりたい』

 彼は買い取った校舎を、お金のないクリエイターに、住居兼アトリエとして格安で貸し出すようになる。


 ――それから数年後が物語の舞台である――

 現在の廃校には、何人もの貧乏な若手クリエイターが集まっていた。
 そして利用者達によって、暗黙のルールが作られていた。
 たとえば廃校にいる間は、それぞれの夢がわかるニックネームで呼び合うということ。

 現在の住人を例にあげると、極度なコミュ障のため、SNS上だけで音楽活動をしている女性、シャウト。
 抽象画の画家として成功することを夢見る、やたらと態度のでかい男性、キョショー。
 自分がデザインした奇抜なファッションを貫く女性、モード。
 普段は犬猿の仲のくせに、舞台上では抜群のコンビネーションを見せる男性お笑い芸人コンビ、ベシャリとツッコミ。
 詩を書く才能と引き替えに、警戒心など社会を生きていく上で不可欠な感覚を失った女性、ポエム。
 ……等々。

 そんな個性豊かな創作家達が利用している廃校の空いていた教室に、ノベルというニックネームで呼ばれることになる女子大生が入居するところから物語は始まる。

 ノベルの夢は小説家だ。
 しかし彼女には、夢を本気で目指しているという事実を知られるのは、恥ずかしいことだという思い込みがあった。
 だから誰にも『小説家になりたい』と話したことはない。

 独りぼっちの創作活動。
 でもノベルは気にしていなかった。
 黙々と努力をしていけばいい。
 誰かと一緒に頑張る必要なんてない。
 余計な友達なんて必要ない。

 そういった考えから、大学では最低限の友人しか作らず、他の住人達との交流も可能な限り拒絶していた。
 個人としての時間の全てを、創作活動に費やす毎日。

 ところがそんなノベルに、強引に絡んできた男性がいた。
『日本中、いや、世界中で、俺は必ず有名人になってみせる』と豪語し、動画配信者として活動をしていた男性、ヨウツベだ。
 面白い動画配信のためであれば、無遠慮に周りの人達を巻き込むヨウツベによって、ノベルは無駄だとしか思えないことに付き合わされそうになる。

 こういったヨウツベの被害を日常的に受けていたのが、『いつか時代劇の主役になりたい』という目標を抱き、売れないアクション俳優として活動を続けていた気弱な男性、サムライだった。

 ノベルはヨウツベから逃れようと、校舎の中を駆け回っていた途中で出会ったサムライに、他人をムリヤリ巻き込もうとするヨウツベに対する文句を漏らす。
 その上で『サムライさんも迷惑ですよね?』と同意を求める。

 ノベルは、絶対にサムライも自分と同じだと思っていた。ヨウツベを嫌っていると確信していた。
 ところがサムライは予想に反して『確かに迷惑だけど、悪いことばかりじゃないよ』と苦笑を浮かべたのである。
 
 たしかにサムライには、ヨウツベを迷惑だと感じたことが数え切れないくらいある。
 正直、何度も何度も面倒なことに巻き込まれたくはない。
 しかしヨウツベによって、一人では絶対にチャレンジしなかったことに付き合わされた結果、新しい発見をすることだってできたのだ。
 普通に生きていたら体験することなんてなかったであろう、様々な感情を知った。
 そのお陰なのか、演技の幅が確実に広がっていた。

 この会話の直後、ノベルはヨウツベに捕まってしまい、ムリヤリ動画撮影に付き合わされる。


 それから数日後、ノベルはふと気付いたことがあった。
 最近の自分の小説が、以前と比べ進化していたのだ。
 より具体的に言えば、登場人物達が個性豊かになり、格段に魅力的になっていたのである。

 サムライから聞いていた話を思い出し、
『ひょっとしてこれ、ヨウツベのお陰なの?』
 一瞬はそう思いかけた。

 しかしその僅か数分後、またしてもヨウツベが横柄な態度で絡んできたことで、彼を見直す感情はあっさり消え失せる。

『小説のキャラクターが生き生きし出したのが、ヨウツベのお陰なわけがない』
『仮にそうだとしても、わたしは絶対に認めない』
 ノベルは頑なに自分にそう言い聞かせ、ヨウツベに対する嫌悪感を露わにする。

 一方でヨウツベは、友達も作らず引きこもりと大差のない生活を望んでいながら、もの凄く感情が豊かなノベルのことを、妙に気に入っていた。
 だから最初に強制的に協力させた動画配信以降、サムライと同様、何度もムリヤリ誘うようになったのである。



 こうして小説家を夢見るノベルは、ヨウツベによってムリヤリ動画撮影に付き合わされながら、廃校で暮らす他の創作家達と交流を深めていくことになるのだった。

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