55日目 生きるための傷跡
階段。今日の試練は階段を片松葉で昇り降りすることだ。
どっちの足を先に出す、杖をどの位置につく、と細かなアドバイスをもらう。集中しないと間違える。階段で転倒なんて、考えただけで恐ろしい。最新の注意を払って練習する。
ひととおり理学療法リハビリを終えると、PTさんが開腹手術の傷跡を目立たなくする方法について色々と教えてくれた。保湿クリームを塗り続けたり、傷跡を目立たなくする塗り薬があるとか。でも一番効果があるのは、形成外科での手術、もしくは注射らしい。
私のお腹にできた30cmくらいの大きな開腹跡は、時間がたつにつれて縫った部分が膨らんできた。肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)。私はいわゆるケロイド体質のようだ。私自身はもう結婚してるし、腹だしファッションをするでもないし、生きるために必要な傷なので見た目は気にしていなかった。気にしていたのはお母さんだった。どうにか傷が目立たなくならないか、と考えてくれた。だから私も、参考までにどんな方法があるのか周りの人に尋ねていたのだ。
注射・・・。採血や点滴のためなら針は我慢できるが、傷に注射を打つのは、あまり気が進まない。私は保湿剤を地道に塗っていこうと思うと、PTさんに話しをしてみた。うん、それは人それぞれだから、もし興味があるようなら看護師を通して紹介してもらうといいよ、と丁寧にこたえてくれた。
午後、お母さんと、妹の結婚相手のお母様が2人でお見舞いに来てくれた。初めての挨拶が病院だなんて、インパクトありすぎる。おてんばな姉だと思われてしまう。2人は気があうようで、とても楽しそうにおしゃべりをした。こんなに楽しそうなお母さんを見たのは久しぶりなような気がする。安心した。
ひとりの時間になった。特に予定がなかったので、初めてだけど一人で、自分の足で、松葉杖一本で外にでてみることにした。長い廊下を乗り越え、玄関へ。入院後、何度目かの外。風、太陽、花、湿気、セミの抜け殻がついたローズマリー。ユリの花がくたびれてきた。
ベッドに戻ると、左足のふくらはぎが疲れている。松葉杖を持つ右手も。すこし、休憩。
整形外科の担当の先生が、骨盤からピンをはずした後の穴の炎症を心配している。血液検査の結果、「RS」が検出されたという。傷の痛みがでたり、傷が塞がらなかったりすると厄介だ。よく洗浄することが大事だとのこと。RSは病院内にはよくいるもので、菌自体は珍しくはない。ピンを抜いたところは骨盤に直結しているから、細心の注意を。
脾臓摘出者は感染症に注意。これは、いつでも覚えておく。
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