33日目 宿題

左腕にスプリントを装着しての初めての夜だった。ポジションが難しい。常に肘を直角にして過ごしていたが、これからは肘は伸ばしておける。ただ二の腕の筋肉が失われているので、肘を曲げるのに力が足りない。そして筋がかたくて痛い。もうすこしこの痛みと付き合うことになりそうだ。腕の筋肉をつけられる運動をする術がないから。

夢をみた。ケーキをお皿に配っていた。職場だったかもしれない、病院だったかもしれない、学校の教室だったかもしれない。花柄プリントの紙皿で、大小用意されていたが、小さい方を使うの。

今日の理学療法リハビリは、ベッドでもなくリハビリテーションルームでもなく、窓と椅子のある廊下。ここは3階。PTさんが窓を少し開ると、外の風あ流れてきた。セミの声も聞こえる。公園にある背の高い塔が見えるPTさんは学生の頃アパートで起きたパンツ投げられ事件について、切なげに話してくれた。

3日ぶりのシャワーを浴びた。今まで包帯で覆われていた左手、左腕からは消しゴムのカスのような垢がわんさかでてきた。チカラタロウが生まれそうだ。肌の色がワントーン明るくなったような気がして、すっきりする。保湿する。

言語聴覚療法リハビリでは、予告どおり、何ケタ提示されるかわからない数のアナウンスをきいて、下4ケタの数字を記憶する。視覚バージョンの記憶力テストもする。記憶力、試されてるなぁ、と思う。頭はつかっていった方がよい。

今日から薬を自分で管理することになった。いつも食後に看護師さんが配ってくれていたが、忙しい看護師さんにわざわざ持ってきてもらうのも申し訳ないと思っていた。痛み止めと、胃薬の2種類を服用している。歯磨きするにもうがいをするにも水汲みや処分を看護師さんにお願いしなければならない。うがい用の水をペットボトルにくんでおいてもらうことにしよう。そしたら処分だけお願いすればいい。

作業療法リハビリの時間がやってきた。リハビリテーションルームに移動する。スプリントをはずして、手首の運動・・・といってもほとんど動かない。頑として動かない。リハビリの時間以外でも、スプリントを外して自主リハビリをしてよいことになった。そして宿題がでた。一日に、前後、左右、ひねりを10回×3セット。はりきる。

早速ベッドに戻って、リハビリしてみるけれど、動かない。1㎜、2㎜の世界だ。ショックだけど、続けていく他ない。スキップできるものではない。継続は力なり。

お見舞にきてくれた夫に洗濯ものを持ち帰ってもらった。そののちに母がせかせかやってきて、親戚の近況や、入院手続き系の書類の話をして、せかせかと帰っていった。(面会時間ぎりぎりだったので、しきりに時間を気にしていた)

寝る前にトイレに行く時に、男性看護師さんが一人で便座移動を介助してくれた。いつもは足と脇と二人がかりでの移動が必要で、その度に看護師さんを召集しなければいけないことに、申し訳なさを感じていた。看護師さんは「遠慮しないでがんがん呼んでください」と笑いながらいうけれど。

この男性看護師さんは、一応私の担当看護師なのだが、実は高校の同級生だった。もちろん偶然だ。彼が看護師をしていることは知らなかったし、在学中同じクラスになったこともない。共通の友人はいるが、私とは委員会が一緒だったくらいの繋がりだった。一般病棟に移動してきた時に、「同じ高校だったよね?」と声をかけてくれて、初めて気づいた。こんなしっちゃかめっちゃかな身体と話しができない状況での判明に驚いたが、初めての長期入院に心強く感じたのを覚えている。

それにしても、同級生に看護されることになるとは思わなかった。向こうも同級生を看護するとは思わなかったでしょう。ちょっとやりづらい部分があるかもしれない。でもそこはしっかり看護師をこなしていた。退院の時期はわからないけど、それまでお世話になります。



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