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アオマスの小説

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どんな一面にも些細な物語が存在する。それを上手に掬って、鮮明に描いていく。文士を目指す蒼日向真澄によって紡がれる短編集です。
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#創作大賞2022

王の印 (短編小説)

「見ろよカケル。俺もスタンプ押してもらったんだぜ」  俺の友人であるテツヤが、左腕に押さ…

蒼乃真澄
2年前
5

象と娘 (短編小説)

 岩と見間違えるほど、皮膚がザラザラとした巨大な生き物の前で、小さな女の子が不思議そうに…

蒼乃真澄
2年前
8

大人化した子供 (短編小説)

 電車に乗っていると、些細な会話が耳に入ってくることがある。僕の目の前に座る、おそらく親…

蒼乃真澄
2年前
3

ラジオネーム、ラベンダーとホットミルク (短編小説)

 四月の風が部屋中を怠けさせる。僕は作業部屋にある机の椅子に座って、先ほどまでモワッとし…

蒼乃真澄
2年前
3

冷たい遊戯 (短編小説)

「ねえ、拓人は遊戯についてどう思う?」  夜の公園。その日はクリスマスを過ぎた頃で、露わ…

蒼乃真澄
2年前
3

性に群がる銃 (短編小説)

 どうして、人間は性に対して貪欲であり続けるのだろうか。わたしはつくづく疑問に思っている…

蒼乃真澄
2年前
5

転がる石 (短編小説)

 若かりしき頃は、誰かを傷つけていないと落ち着かなくて、尖った箇所で相手に切り傷をつけてばかりだった。相手が痛がっているところを見ると、妙にホッとしてしまう自分がいた。人の不幸が蜜の味どころか、極上のパフェくらいのご褒美感があって、わたしはそれで甘さを得ていた。  真っ赤な林檎を貪るように、わたしはいつだって血を欲しがった。目でも、鼻でも、口でも、感覚でも。わたしの全てが人を闇を求め、滅する場面に歓喜し、悲しむ姿を望み続けてきた。 「君は、カラスだ」  ある日、わたしと付き合

スキン(短編小説)

 僕たちは、触れ合うことができない。こんな流行病が起きてしまったから、今はずっと離れてい…

蒼乃真澄
2年前
5

クロスロード(短編小説)

 いつの間にか、僕らは忙しさの渦に巻き込まれていて、悠々と流れているはずの時間に感謝でき…

蒼乃真澄
2年前
7

サヨナラ、日曜日(短編小説)

1  僕は日曜日の午前中になると、決まって近所にあるカフェ、『ブルーノ』へ行くことにして…

蒼乃真澄
2年前
8

冬の日 (短編小説)

【五百円】  かじかんだ手をポケットに突っ込んでみると、中には五百円玉が入っていた。俺は…

蒼乃真澄
2年前
8

猫カフェ (短編小説)

「ここが新しくできた猫カフェか」  東京吉祥寺にできた猫カフェ『ikoi no heya』。入り口に…

蒼乃真澄
2年前
7

誰の家? (短編小説)

 クルクルと地球儀を回す夢を見た。はっきりとは覚えていないが、きっと目まぐるしく回転する…

蒼乃真澄
2年前
6

故意、焦がれ (短編小説)

 ひんやりとした空気が僕らの通る道を覆う。寒さを凌ぐために着ているジャンバーも、首筋が冷えてしまうせいで温かみを忘れてしまう。 「寒いねえ、真」  隣でポケットに手を突っ込んで歩く、唯の白い首筋も露わになっているから、そこをめがけて北風が突き刺していく。 「寒いね。今日はここまで冷え込むとは思っていなかったよ」 「お天道様も気まぐれだから」  今日の朝、テレビに映る天気予報士は「本日晴天なり」と話していたが、空を見上げても陽など出ている気配もなく、絵の具で塗りたくったような灰