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音楽レヴュー 2

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2020年5月の記事一覧

Risso(리소)『High Five』



 韓国のシンガーソングライターであるリッソを知ったのは、“OMG”という曲がきっかけだった。2015年に発表されたもので、彼女の軽快なヴォーカルが光るエレ・ポップだ。音数は少ないながらも、心地よい横ノリを生みだすシンプルなベース・ラインが素晴らしい。随所で漂ういなたさのせいか、カノあたりのイタロ・ディスコを連想させるのもおもしろい。

 そんな彼女の最新アルバムが『High Five』だ。これ

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The 1975『Notes On A Conditional Form』に訪れた運命のいたずら



 イギリスのマンチェスターで結成された4人組バンド、ザ・1975の最新アルバム『Notes On A Conditional Form』を聴いている。
 もともと本作は、前作『A Brief Inquiry Into Online Relationships』(2018)と対になる作品として、2019年に発表予定だった。しかし、何度も延期を重ねた結果、2020年5月22日に世へ放たれることにな

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Fiona Appleは沈黙を良しとせず、服従は沈黙でしかないと歌う



 アメリカのシンガーソングライター、フィオナ・アップル。1996年にデビュー・スタジオ・アルバム『Tidal』をリリースして以降、彼女の存在感が弱まったことはない。

 だからこそ、映画『ハスラーズ』(2019)でも“Criminal”(1996)のメロディーが流れた。この曲は、ストリッパーのラモーナ(ジェニファー・ロペス)が初めてダンスを披露するシーンで使われた。躍るピアノとシンコペーション

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“色”でポップ・カルチャーを楽しむ



 映画やドラマを観るとき、あなたはどこに注目していますか? 役者の演技、制作陣のスキル、脚本のおもしろさなど、さまざまな楽しみ方があると思います。

 今回筆者が取りあげるのは、“色”の視点から楽しむことです。徳井淑子さんによる著書『黒の服飾史』(2019)などが示すように、“色”は時代ごとに異なるイメージを纏っています。たとえば、中世以前の黒は“貧しさ”や“醜さ”を象徴する色でした。ところが

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IU(아이유)“eight(에잇)”は喪失と向きあう泥臭い凛々しさが光る名曲だ



 韓国のアーティストIU(아이유)が発表した新曲“eight(에잇)”を繰りかえし聴いている。プロデュースとフィーチャリングにBTS(방탄소년단)のシュガを迎えるなど、リリース前から大きな注目を集めていた曲だ。

 聴いてみると、シンプルなプロダクションが耳に入ってきた。アップテンポな4つ打ちとクリーントーンのギターを基調に、IUのパワフルかつ繊細なヴォーカルを前面に出している。凝ったアレンジ

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香港のFauve Recordsが鳴らすグローバルなダンス・ミュージック



 香港のFauve Recordsを知ったのは、2019年10月頃だった。このレーベルからリリースされたロメインFXのEP「The Drive」を聴いたのだ。メタリックなシンセ・サウンドが印象的なイタロ・ディスコという趣で、シンプルな4つ打ちとキャッチーなメロディーが耳を虜にした。
 ヤズーや初期のデペッシュ・モードも脳裏に浮かんだ。これはおそらく、ほのかにインダストリアルの匂いが漂っているか

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Dua Lipa『Future Nostalgia』の未来的懐かしさは、サウンドだけでなく様々な女性たちの切実さも意味している



 イギリスのデュア・リパによるアルバム『Future Nostalgia』が世界的ヒットを記録している。全英アルバムチャートでは当然のように1位を獲得し、全米アルバムチャートでも4位に入った。

 そうした成功にふさわしいクオリティーを本作は備えている。RouléやCrydamoureあたりのフレンチ・ハウスを想起させる“Hallucinate”、インエクセスの代表曲“Need You Ton

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Headie One x Fred Again..『GANG』に見るUKドリルの流れと発展



 いまイギリスの音楽シーンを席巻しているUKドリルは、2014年のサウス・ロンドンから始まった。

 このジャンルはシカゴ発祥のドリル・ミュージックをルーツにしていることもあり、黎明期はドリルの重苦しいビートをほぼそのまま受け継いだサウンドが多かった。
 たとえばブリクストンの67が2016年に発表した“Lets Lurk”を聴くと、チーフ・キーフやリル・ダークといったドリルの代表的アーティス

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