“色”でポップ・カルチャーを楽しむ


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 映画やドラマを観るとき、あなたはどこに注目していますか? 役者の演技、制作陣のスキル、脚本のおもしろさなど、さまざまな楽しみ方があると思います。

 今回筆者が取りあげるのは、“色”の視点から楽しむことです。徳井淑子さんによる著書『黒の服飾史』(2019)などが示すように、“色”は時代ごとに異なるイメージを纏っています。たとえば、中世以前の黒は“貧しさ”や“醜さ”を象徴する色でした。ところが大航海時代になると“権力”を意味する色となり、多くの富裕層が黒の服を着るようになった。
 “色”は常に、時代や価値観を反映してきました。ある時代ではポジティヴな意味合いだったとしても、別の時代では軽蔑的なイメージがあったりする。だからこそ、“あのシーンで使われている〇色はこういう意味なんじゃないか?”と考察することも可能なのです。

 そのような“色”の使い方を考えるうえで、興味深い作品に出逢いました。アメリカ映画の『タイラー・レイク -命の奪還-』(2020)です。クリス・ヘムズワースが主演を務めた作品で、『アトミック・ブロンド』(2017)を彷彿させるアクション・シーンの数々が光ります。
 しかしこの映画、筆者はダメでした。偏見に塗れた色使いが際立つからです。なかでも、発展途上国と思われるシーンに施された埃っぽい黄色にはステレオタイプがこびりついていて、辟易しました。

 こう書くと、あんたのしょうもないイチャモンでは? と思われるかもしれません。ところがそうじゃないんです。ここ数年、発展途上国のシーンが黄色い映像で描かれることを指すイエロー・フィルターなる言葉が飛びかい、議論も起こっています
 “イエロー・フィルター”とは、貧困や戦争が蔓延る発展途上国のシーンに施される色使いのことで、主にアメリカ映画でよく見かけます。

 このような色使いがなぜ問題になるのか? それは発展途上国とされる国々のすべてが黄色いわけじゃないからです。カラフルな街並みを誇る国だってあるし、カラフルでなくても黄色以外の色もある国は多いでしょう。
 そうした国々に住む人たちのなかには、“イエロー・フィルター”が施された映画に差別意識を見いだす人もいる。発展途上国に対する思いこみや偏見がうかがえるからです。

 筆者は、“イエロー・フィルター”に批判的な意見は大事だと思います。多くの映画やドラマで差別的扱いを受けてきたアジア人の1人として、同意できる言葉が多い。より優れた作品が生まれるためにも、関心を持つ人が増えてほしいと願っています。


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 “色”の視点は音楽を楽しむときも使えます。特にイギリスのジョルジャ・スミスによる名曲“Blue Lights”(2016)の歌詞では、“色”が重要な要素になっています。
 “Blue Lights”の歌詞を読んでいくと、青い光が不安をもたらすものとして描かれているのがわかる。その不安は、《ブルー・ライトを変えたい あなた何をしたの?(I wanna turn those blue lights What have you done)》というフレーズなどにも表れています。

 これらの点だけをふまえると、青い光が不安をもたらすという曖昧な歌に聞こえます。しかし、イギリスのパトカーのパトランプは青色だと知っていれば、“Blue Lights”の伝えたいことがよりはっきり見えてくる。警察がやってきて、不安を感じる人たちの姿です。
 ここまで読めたら、犯罪行為と思われる描写や、曲中で言及されるサイレンの意味もわかるでしょう。“Blue Lights”では、警察の権威性とそれを向けられた際の戸惑いが歌われている。このような発見も“色”の視点があればこそです。

 ここで紹介した作品以外にも、“色”が重要な要素として使われているものはたくさんあります。赤を強調した色使いが印象的な作品に触れたら、赤はどのようなイメージをあたえられてきたのか知るための歴史探訪に出る、なんてのもいいでしょう。“色”の視点は作品の楽しみ方を広げてくれます。

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