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#小説
LIFE IS NOVEL 37
すべては思い出の中に消えていく。人生すべての記憶を持つ人間なんか存在をしない。
かつての僕もすでに記録の中だけの存在に変わり、忘却の向こう側へと消えようとしている。
本当の死が忘れ去られることであれば、すでに条件を満たしつつある。
今の状況をしっかりと分析し、理解すれば、僕が悩む理由などないはずだ。
僕が犠牲になりさえすれば、家族も友人も彼女に危害がおよぶことはなく、彼らの言葉がたしかであれば、
LIFE IS NOVEL 36
失くしてはじめて、大切さに気づく。
それは本当に違いない。
たった一週間前まで僕は、かつての僕は眼の前の家で日々を過ごしていた。
毎朝目を覚まし、食事を取り、風呂に入り、家族と過ごしていた。
家を手に入れるまでには、それなりの苦労をした。
妻との距離感にも自分なりに気を遣っていた。
子どもたちへも、愛情をかけてきた。
将来困ることのないように、時には厳しく躾けることもあった。
一緒に過ごす時間は
LIFE IS NOVEL #25
イグチカナエは僕のバイト先の同僚だった。同じ学校に通っているが、違う学部で一年先輩だったこともあり、構内で顔を合わせることはなかった。それでもバイト先では親しくさえてもらっているし、なにより僕にとっては特別な女性だった。
つまりは彼女に惚れていたのだ。
「…いや、僕じゃありません。送信元、わからないんですか? 」
「うん、知らないIDから。そうだよね、ウラベくんからだったら自分のIDから送るよね
LIFE IS NOVEL #24
週末の顛末については、家で学校で、姉やワタナベから色々と質問を浴びることになったが、そんなことはもうどうでもよく、僕はまったく違うことを気にかけていた。
週が明け、僕は学校にいた。
スマホに映る写真を見ながら、考えを巡らせる。僕に対するメッセージで明らかだったが、誰が書いたものかはわからない。写真に映っているのは、レストランの伝票だった。カノウには、これを書けるタイミングはなかったはずだ。これ
LIFE IS NOVEL #21
時間はいつの間にか13時を回っていた。
「それでですね。ケンコーくん。
そろそろ私の本日の目的をすませたいと思うのですが。」
テーブルの上には2種類のケーキが半分ずつ、2つの皿の上に乗せられていた。それをフォークで指しながら、カノウさんは尋ねてきた。
「あなたの状況って、このケーキと似てると思いませんか?」
半分は、ケンコーさんで、もう半分はシンドウさん。
二人の人物の意識がその体の中に存
LIFE IS NOVEL #20
カノウは食事を終えると、ゆったりとコーヒーを飲み始めた。
「それで、カノウさん?まだ本来の目的が達成されていないんだが、いつになったら話してもらえるのかな?
こんな手のかかったことまでして、君たちが僕にやらせたいこととは…」
「そんなに急かさないでください。
意外とせっかちですね。ケンコーくんは。」
「…時間がないと言ってたのはどっちだよ。そっちが食事をしてるからじゃないか。これなら僕も何か頼
LIFE IS NOVEL #19
「あなたもデートならそう言いなさいよ。」
「俺にも黙ってるなんて、水くさいな。」
「いや、違うよ。彼女とはそういうのじゃなくて…」
僕の方にちょっかいを出す二人に対して、どうごまかすべきか。
答えに詰まっていると、ようやく女は食事を中断した。
僕が困っている様子を見かねて、というわけでは、ないだろう。
むしろ僕が十分に困惑したことを確認できた、といった感じだった。
「はじめまして、私、カノウと
LIFE IS NOVEL #18
「僕も、かつては似たようななことをしてきたからね。君たちのことを否定しきれない。目的のために最良の手段を選ぶのは当然だと思う。
以前の僕が、君と同じ立場だったら、同じことをしただろう。」
「そこまで納得してもらえるなら、ご協力いただけるのですね。よかった、これで上にいい報告ができます。」
「結論を急がないで欲しい。あくまでも、理解できるということであって、賛成しているわけじゃない。
今の僕は、19
LIFE IS NOVEL #17
「さすがですね。すばらしい記憶力です。気づきませんよ普通。
ええ、彼にお姉さんを誘うようにお願いしたのは私たちですよ。」
「それでも、ずいぶんと周到だ。僕が病院にいたときから、もう手を打っていたなんて。」
「事故のあと、すでにウラベさんに関する情報は確認できていました。
まあ、免許証と学生証を拝見しただけですけどね。」
「個人情報なんて、調べればすぐに分かる。そこが問題とは思ってない。
むしろ、こ
LIFE IS NOVEL #16
「…驚かないんですね。シンドウさん。」
「…まあね。場所を指定してこなかった時点で、時間が来たらそちらの方からやって来ることは予想できた。僕の監視は続いているだろうし。
それとも、情報源はあいつなのかな?」
僕は、姉のデート相手を指差して言った。
「…あの男が君に連絡したのかな?」
「ええ、彼からも連絡は受けてます。
もちろん、他にも同僚が周りに待機しています。」
「今日もここにいる全員が、君たち
LIFE IS NOVEL #15
デート中の姉を尾行するなんて悪趣味な話はない。その自覚はあったが、今日ばかりはそんなことは言っていられない。姉の後ろをこっそりとついて行くと最寄駅に到着した。電車に乗るのかと考えていたが、近くのカフェに入っていった。僕は店から離れて、道路の向かい側にあるファストフード店で見守ることにした。姉は入り口近くに席を取って、入ってくる他の客をチラチラと都度目をやっていたので、気づかれないように配慮が必要だ
もっとみるLIFE IS NOVEL #14
翌日は日曜日で、学校は休みだったが、気分といえば最悪だった。
普段であれば、バイトを入れているところであるが、シフトは週明けにずらしてもらっていた。
結果として、指定された昼という時間帯はどこにでもいることができた。
朝食と摂り終え、すぐに外出する支度をした。このまま家にいることは避けたかった。玄関をでると、姉もどこかへ出かけるようだった。
特に仲がいい姉弟ではないのだが、姉の方から声をかけてき
LIFE IS NOVEL #13
「ただいま。」大きすぎず、小さすぎず、いつもどおりでダイニングいる母と姉に声をかけた。
「おかえりなさい。帰り遅いから心配したわよ。どう、大丈夫だった?」
「ああ、大丈夫。ちょっと欠席中の課題があって時間をとられただけ。」
「そうなの?病み上がりなんだから、大目に見てくれても、ねえ。」
母は姉に賛同を求めた。姉はといえば、ソファーでくつろいでいた。
「えー?病院からは特に何も言われてないんでしょ。
LIFE IS NOVEL #12
誰もいなくなった店の中で、私は去っていった「敵」に考えを巡らせた。
どうやって彼らは私のことを知ったのだろう。
私の秘密が誰かから漏れると可能性はあるだろうか。
法律さえ無視してまで、私に固執する理由は何だ。
そこまでして私にさせたいこととは何だ。
そもそもこの店に入ることにしたのは、私の意思のはずだ。
客も店員も彼女の仲間だったのだろうか。
そんなことができるのか。
答えは出なかったが、予想