LIFE IS NOVEL 37

すべては思い出の中に消えていく。人生すべての記憶を持つ人間なんか存在をしない。
かつての僕もすでに記録の中だけの存在に変わり、忘却の向こう側へと消えようとしている。
本当の死が忘れ去られることであれば、すでに条件を満たしつつある。

今の状況をしっかりと分析し、理解すれば、僕が悩む理由などないはずだ。
僕が犠牲になりさえすれば、家族も友人も彼女に危害がおよぶことはなく、彼らの言葉がたしかであれば、何万人という人々を救うことだってできるかもしれない。

それを確認するために、その覚悟をするために、僕はこの家に帰ってきた。
そしてそれは達成できた。

スマホの画面で帰宅が遅くなることを認識した。
すでに30分以上も時間が過ぎていた。
このまま家の前にいれば、不審者あつかいされる可能性だってある。
むしろ、怪しいと思う住民もいるかもしれない。
用事が済んだからには、ここから一刻も早く立ち去るべきだ。

確認をしたかったもう一つのことについては、忘れてしまおう。
すでに空っぽになっているこの家になにも求めてはいけない。
僕はもう私ではないのだから。

「あの、どうかされましたか?」
声が聞こえた。
その声に、心臓は脳を大きくノックして、背中を走る血管や神経、筋肉のすべてが冷たくなるのを感じた。
声の方を振り返る。そこに居たのは一人の女性だった。
懐かしさすら感じる、女性の姿があった。

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