LIFE IS NOVEL #12

誰もいなくなった店の中で、私は去っていった「敵」に考えを巡らせた。

どうやって彼らは私のことを知ったのだろう。
私の秘密が誰かから漏れると可能性はあるだろうか。
法律さえ無視してまで、私に固執する理由は何だ。
そこまでして私にさせたいこととは何だ。
そもそもこの店に入ることにしたのは、私の意思のはずだ。
客も店員も彼女の仲間だったのだろうか。
そんなことができるのか。

答えは出なかったが、予想外に訪れたウラベタケヤスとしての日々が終わりを感じていた。

店を出ると日はすっかり暮れていた。
街中には帰宅を急ぐ人、待ち合わせをしている人、様々な人々が、駅前の風景に溶け込んでいた。この中にも彼女の仲間が潜んでいて、私を監視し続けているのかもしれない。だとしたら、逃げることはできるのだろうか。ウラベ家への帰り道、周りを探りつつ今後のことを考えていた。

そんなことを考えているうちに家が見えてきてしまった。
同じような家が並ぶなかで、すぐにそれだとわかるのは、我が家だからだろう。小学1年生に上がるタイミングに合わせて、父親はこの建て売り住宅を購入した。それから10年、毎日を過ごしてきた家だ。心の中に安堵する気持ちが湧いてくる。しかし同時に僕に、そして家族に迫っている危険、それに対する不安が広がるのを感じていた。

もしも、僕が彼らに従うとしたら、家族の安全は守られるだろうか。また、家族を失うという悲しみを背負うわせてしまう。その重荷に僕の家族は耐えられるだろうか。病室のベッドから見た母親の安堵した顔が頭によぎり、そして写真に映っていたハルコとサクラの顔をが浮かび、胸を締め付けた。

命を失うことに恐れはあるが、それは苦しみと痛みに対してであり、死ぬことそのものへの恐れではない。そして、僕が今抱いているのは、ウラベタケヤスとしてなのか、それともシンドウシンタロウとしての感情なのか、すでにどちらのものであるのか明確にすることできなかったが、かつての私はここまで感情的な人間ではなかった気がすることを踏まえれば、僕になったからことの感情のなのだろう。
つまり「敵」の作戦は見事に成功をしていた。私の残してきた家族への罪悪感と僕の今の家族への愛情、その両方を的確に揺さぶっていた。

家の前に到着し、ドアノブに手をかける。この感情を家族に悟られてはいけない。快活すぎず、かといって暗すぎない、普段どおりのタケヤスで過ごすのだ。決意を込めて家の中に入っていった。

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