- 運営しているクリエイター
記事一覧
LIFE IS NOVEL 37
すべては思い出の中に消えていく。人生すべての記憶を持つ人間なんか存在をしない。
かつての僕もすでに記録の中だけの存在に変わり、忘却の向こう側へと消えようとしている。
本当の死が忘れ去られることであれば、すでに条件を満たしつつある。
今の状況をしっかりと分析し、理解すれば、僕が悩む理由などないはずだ。
僕が犠牲になりさえすれば、家族も友人も彼女に危害がおよぶことはなく、彼らの言葉がたしかであれば、
LIFE IS NOVEL 36
失くしてはじめて、大切さに気づく。
それは本当に違いない。
たった一週間前まで僕は、かつての僕は眼の前の家で日々を過ごしていた。
毎朝目を覚まし、食事を取り、風呂に入り、家族と過ごしていた。
家を手に入れるまでには、それなりの苦労をした。
妻との距離感にも自分なりに気を遣っていた。
子どもたちへも、愛情をかけてきた。
将来困ることのないように、時には厳しく躾けることもあった。
一緒に過ごす時間は
LIFE IS NOVEL #35
食事の後、イグチカナエと別れてから僕はメモを取り出した。そこに書かれている住所に向かうことに決めていた。
僕の家とは駅と同じ方向ではあるが、商店街を挟んで反対側。歩いて10分かからない。
目的地に向かう道程、周囲に目を配る。歩き慣れた道ではない。見覚えのあるところもいくつかあった。
小学校の頃、友人がこの辺りに住んでいたこと、中学生の頃自主トレのランニングでここまで足を伸ばしていたこと、記憶
LIFE IS NOVEL #34
「本当に体調はもう大丈夫なんだよね。無理は禁物だよ。」
「ですから、大丈夫ですって。心配しすぎです。今日の仕事も特に問題なかったでしょう?」
イグチカナエとバイト上がりが一緒になることは珍しいことではなかったし、食事をしてから帰宅、というのも始めてではなかった。
いつもとりとめのない会話をしたり、バイトの愚痴をいうだけだけど。
「でも、その、見ちゃったんでしょう?あの駅前の交通事故。ほらトラ
LIFE IS NOVEL #34
早くも週末がやってきた。ウラベタケヤスにとって最後になるかもしれない1週間も終わりが見えてきてしまった。
何も対策を打てないまま、いつも通りを過ごし、久しぶりのバイト先に向かう。スポーツ店に併設した簡易ジムが僕の職場だった。
思えばここには客としてを含めて5年くらい通い続けていた。家以外て最も長い期間過ごしたホームだった。
「タケが休むなんて、受験以来か?もう体調はいいのか?」
店長は僕を
LIFE IS NOVEL #33
「それでですね、彼はしばらく謹慎ということになりました。ずいぶんといろいろと上の意向を無視して動き過ぎたと言うのが理由です。
私としては、大勢には影響ない程度の自己主張だと思ったりもするのですが、今回は相手が悪かったですね。ケンコー君以外ならもう少し効果があったでしょう。」
昨日のお詫びという主旨のもと、カノウから電話がかかってきたのは、夜になってのことだった。これまでの迅速極まりない組織活動を
LIFE IS NOVEL #32
翌日。男に言われた通り、朝からニュース番組に噛り付いて見ることにした。
考えてみればこの1週間、自分のこととカノウ達のことばかりで、世間で何が起きているのか気にかけていなかったから、ほとんどが目新しいニュースだった。
しかし、ザッピングで眺めるどのチャンネルも大したことは報道していなかった。政治家の不祥事、国内の新しい会社、海外の新しい決まり、芸能人のスキャンダル、トレンドの新商品、いつの時代
LIFE IS NOVEL #31
その男は似ていた、かつての僕であるシンドウシンタロウと。
使命感にあふれ、実行力もあり、責任感を持っている。そして利己的なところがそっくりだった。時に暴走もするが、それが周囲からどう見られているか理解できていない。
かつての僕がそれに気づいたのは、おそらく自分が家庭を持ち、子供を授かってからだった。本当に自分勝手な存在を知り、自分を初めて省みた。
まあ、反省と自覚はしたが、だからといって自分
LIFE IS NOVEL #29
「驚かないのか。リアクションが薄くて、少しがっかりだ。」
「ご期待に添えなくて悪かったね。感想としてはむしろ、予想より余裕があるな、と思ったよ。僕がカノウに提供した情報をもとにした、スケジュールなのかな?
もしそうなら、君たちの言う『あの日』は、今日から数えて、10日間から2週間以内にやってくるわけか。」
「ああ、ご理解頂いた通りだ。ターゲットに憑依した後、今のお前の記憶が残ってる期間内に事
LIFE IS NOVEL #28
時間は20時を過ぎていた。
待ち合わせ場所はわかりやすく、あのファストフード店にさせてもらった。
指定した時間どおりに彼は店にやってきた。
無言で僕の前の椅子に腰掛ける。
「さて、単刀直入に言わせてもらうけど。僕はあなたに非常に怒りを感じている。
彼女を巻き込んだことを僕は許せない。」
「巻き込むだなんて、そこまでのことはしていないだろう。俺がイグチカナエにしたことと言えば、メールをしただけ
LIFE IS NOVEL #27
僕は口が上手い方ではまったくなかったし、どちらかといえば無口な方だった。
僕はこの窮地を脱するために「シンドウシンタロウ」の力、というか経験を利用してしまったわけだ。かつて彼がやってきたことを思えば不本意だったがやむを得なかった。
そう自分に言い聞かせた。
結果としてイグチカナエには違和感を抱かせてしまったが、完全に安心させるよりは良かっただろう。多少の警戒心を持ってもらった方が良かったのだ
LIFE IS NOVEL #26
なぜこの写真をイグチカナエに送ったのか?
こんなことをする意味はあるのか?
だれが犯人なのか?
そんな疑問よりも前に、僕がその瞬間考えたことは、この写真をイグチカナエに見られたくないということだった。
何とか僕は誤解を解こうとした。誤解?いったい何の?僕が女性と会っている写真を見られたからといって、何が問題なるのか?何を誤解させるというのか?
浮気をしたとか二股をかけたとか、そんな疑惑ではな
LIFE IS NOVEL #25
イグチカナエは僕のバイト先の同僚だった。同じ学校に通っているが、違う学部で一年先輩だったこともあり、構内で顔を合わせることはなかった。それでもバイト先では親しくさえてもらっているし、なにより僕にとっては特別な女性だった。
つまりは彼女に惚れていたのだ。
「…いや、僕じゃありません。送信元、わからないんですか? 」
「うん、知らないIDから。そうだよね、ウラベくんからだったら自分のIDから送るよね
LIFE IS NOVEL #24
週末の顛末については、家で学校で、姉やワタナベから色々と質問を浴びることになったが、そんなことはもうどうでもよく、僕はまったく違うことを気にかけていた。
週が明け、僕は学校にいた。
スマホに映る写真を見ながら、考えを巡らせる。僕に対するメッセージで明らかだったが、誰が書いたものかはわからない。写真に映っているのは、レストランの伝票だった。カノウには、これを書けるタイミングはなかったはずだ。これ