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LIFE IS NOVEL #17

「さすがですね。すばらしい記憶力です。気づきませんよ普通。
ええ、彼にお姉さんを誘うようにお願いしたのは私たちですよ。」
「それでも、ずいぶんと周到だ。僕が病院にいたときから、もう手を打っていたなんて。」
「事故のあと、すでにウラベさんに関する情報は確認できていました。
まあ、免許証と学生証を拝見しただけですけどね。」
「個人情報なんて、調べればすぐに分かる。そこが問題とは思ってない。
むしろ、このやり方が気に食わない。」
「と、言いますと?」

「この状況を作ったのは、『逃げたらお前の姉がどうなるかわかるか?』という脅しが一つ。他にも目的があるんだろう?
僕があの男のことを覚えているかどうかテストしたんだ。
『シンドウシンタロウ』としての記憶が残っているか、どれくらい正確なのか確認したかった。
彼の顔を見るのは、今日で3回目だ。
昨日が2回目、そして、1回目があの事故のときだ。
彼はあの交差点にいた。信号を待っているときに僕の隣に彼はいた。
そうだろう?」
「ええ、そんなところです。でも…」

「ああ、この状況で僕がどんな行動をするか確認するためでもある。
これで僕が姉を見捨てていたら、今後脅迫の材料を変えるべきと判断されるし、気にかける素振りをみせれば、僕が『ウラベタケヤス』になったことが確認できる。
かつての僕、『シンドウシンタロウ』であれば…ひどい話ではあるけれど…彼女は他人だからね、
気にしたとしても追いかけるようなことはしていない。」
「ええ、お姉さんを大事に思っているかどうか、知りたかったんです。
アナタ、『シンドウ』さんは、他人に身を削るほど優しい人ではなかったですから。
『人が人を大切にしたいと感じるのは、せいぜい愛し合った関係の範囲か、利害関係だけ』でしたっけ?お葬式の時、シンドウさんの同僚から伺いましたよ。」
「やめてくれ、酒の席での酔っぱらって口走っただけだ。」
「いえいえ、私も同感です。誰にでも優しくあれるほど、人間は聖人ばかりではありませんからね。
正しい価値観だと思います。むしろ好感を抱きましたよ。
だからこそ、話さえ聞いてもらえれば、私たちに協力してくれると確信しています。」

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