救い【エッセイ】六〇〇字

早稲田EC「エッセイ教室」秋講座、六回目（全八課題）のお題。また暗らくなりそう・・・。このようなテーマでも、ユーモアを交えて表現できれば良いのだが・・・。またまた、考え込み、悶絶し、こんな内容に。やはり暗い。💦

　「天皇陛下万歳とは、叫んでない…」と言い、酔いが回ったのか、父は目を閉じた。大学二年の暮れ、母が劇症肝炎で急逝。翌年の夏休みに帰省し、残されたカレと二人で、初めて呑んでいた。二本目の一升瓶も、半分までに。
　粗暴なカレは、長男を溺愛する母親への反発で、学校では喧嘩が絶えなかったらしい。そして、十六歳で、家出も同然に、海軍に。
　帰還後も、カレの母親との距離は縮まらず。翌年、母と見合結婚。ガサツな母親を見てきた反動か、母に厳しく、度々、弟と私の前でも、手をあげていた。長男である、私にも。
　母が危篤の日。連絡を受けながらも、カレは、弟を連れて呑み歩いていた。ようやく病室に現れ、親戚の前でも、泣く弟に、掌が飛ぶ。
　息が絶えたあと。呆然と突っ立ち、「逝ったか…」と呟き、水を含ませた綿を、唇に当てていた。葬式のときも、涙は、なかった。煙が収まるまで外にいたカレが、急に現れ、焼けた骨で煙草に火をつけながら、同じことを口にする。「逝ってしまったか…」と。
　父は、ふと目を開け、続けた。「戦友はな、お母さん！　万歳！　と、叫んで死んでいったんだ」と、吐き出すように。初めて耳にする、“お母さん”という言葉、だった。
　その後も、医者に止められながらも、深酒が。終ついには脳溢血で倒れ、あの最初で最後のサシ呑みから、二年後。父は、母の許もとに ————。

＜後記＞
この作者（？）は、「父」と「カレ」と使い分けております。さて、その意味があるのかどうか。厳しくご判断を。

（おまけ）

朝日新聞朝刊（11月15日）

私が、野球をできたのも、続けられたのも、道具を買ってもらえたから。
“お父さん”ありがとう。
“お父ちゃん”“オヤジ”としか言えなかったから、照れくせえな。💦