膝番号13の男に捧げる「膝枕」─マメな男
こちらで公開している「膝枕─マメな男」(近道は目次から)は、2021年5月31日からClubhouseで朗読リレー( #膝枕リレー 経緯はこちら)が続いている短編小説「膝枕」(通称「正調膝枕」)のアレンジ作品。
二次創作noteまとめは短編小説「膝枕」と派生作品を、朗読リレーの経緯、膝番号、Hizapedia(膝語辞典)などの舞台裏noteまとめは「膝枕リレー」楽屋をどうぞ。
「膝番号13の男」とは
5/31にClubhouseで始まり、今も続く(7/28現在59日目)「膝枕」大人の朗読リレー(人呼んで #膝枕リレー 。経緯はこちらのnoteにて)。
膝枕リレーに参加して朗読すると、朗読順に「膝番号」をもらえ、「膝枕er(ひざまくラー)」に認定される。第一走者の藤本幸利さんが「膝番号1」。7/26に声真似のレン太郎さんが62膝目を務め、「膝番号62」となった。
膝番号は「新規膝枕erさんの朗読順」なので、「ふたりでひと膝」朗読した場合は、同じ番号がふたりに与えられることになる。地の文とセリフで役を分けて57膝目を朗読した小池真理子さんと日置歩美さんは「膝番号57」、夫婦で59膝目を朗読した美月めぐみさんと鈴木橙輔さんは「膝番号59」。
「膝枕er」と命名したのは膝番号26の河崎卓也さん。ユニフォームの背番号風の「膝番号アイコン」をせっせとこしらえ、新規膝枕erさんへの目配りも行き届いている。頼もしい存在なので、「膝枕番頭」と呼んでいる(「膝番頭」のほうが語呂が良いかもしれない)。声真似オンパレードな「無限膝枕」で「ここまで壊してもオッケー」の前例を打ち立てたしょこらさん(膝番号55)は「膝枕小僧」と名づけた(こちらも「膝小僧」が良いかも)。
こんな感じで言葉遊びリレーも楽しい #膝枕リレー では日々新しいネーミングや新語(膝枕詞)が日々生まれている。
膝番号2の徳田祐介さんは「ミスター膝枕」、膝番号3の下間都代子さんは「膝蹴りの女王」。二次創作を楽しむ書き手膝枕erは座付作家ならぬ「膝付作家」。
読み手と書き手の「二刀流膝枕er」も現れ、先日相次いで2作品をnoteで公開した河崎卓也さんは「膝枕iter」(膝枕+writer=ひざまくライター)という称号も編み出した。
ちなみに、箱入り娘側からの視点で描いた「“ウエスト”・サイド・ストーリー」をはじめ二次創作を続々と放っている膝付作家やまねたけしさんによると、iterationには「反復」の意味があるらしい。朗読が創作意欲を刺激して二次創作が生まれ(まとめは膝枕マガジンに。)、それをまた朗読するというリレーの応酬を言い当てているかのよう。
世界遺産サグラダ・ファミリアのごとく終わりなき進化を続ける「膝枕」創作物集合体をやまねさんは「マクラダ・ファミリア」と名づけた。
膝名を得た「膝マメ」のコバ
頭の中が膝語モードになっているので、膝枕リレーで朗読を聞けば名づけたくなり、盛り上げてくれる膝枕erさんには愛称をつけたくなってしまう。
その一人が「膝番号13の男」、小羽勝也さん。おそらく、初膝さん朗読room皆勤のわたしの次に膝枕roomに足繁く通い、朗読を聴き終えるとほぼ毎回、真っ先にスピーカーになって感想を言ってくれる。Twitterでも小マメに感想を書き、他の膝枕erさんと積極的に交流。膝番号1の藤本幸利さんのFMいたみ収録現場に毎週足を運ぶなど、フットワークもいい。膝枕roomに健全で爽やかな文化祭の香りを運んでくれている。
そんな小羽さんに、ついに源氏名(げんじな)ならぬ膝名(ひざな)がついたのは、60膝目のかわい いねこさんの「BL膝枕」の感想会(ひざ談会)。
膝枕学級委員、膝枕ムードメーカー。どうもしっくり来ないなと思っていたら、「マメだからマメ膝は?」と誰かが(誰でしたっけ)言い、「それだ!」となった。「マメ柴みたいで可愛い」と盛り上がったが、可愛すぎて小羽さん本人は気後れ。するとまた誰かが(誰でしたっけ)、「筆マメみたいな感じで膝マメは?」と言い、「膝マメのコバ! 語呂もいい!」と満場一致で決まった。
早速気に入って、「膝番号13 膝マメのコバ」と名乗ってくれている小羽さん。膝番号13は「ひざ」とも読める。当時はリレーがこれほど続くことも、膝言葉遊びが盛り上がることも予想していなかったが、「13」を取っていたのは強い。膝番号トランプがあったら「135(ひさこ)」と並んで最強カードになるはず。
「膝マメのコバ」に反応した膝枕erたちが「膝マメ膝枕ができそう」と言い、それに乗じて書いたのが「膝枕─マメな男」。基本姿勢の「膝枕」を「マメな男の元に膝枕が届いたとしたら」と妄想して再構成したもの。
小羽さんの「膝マメ」ぶりに着想を得たアレンジ。というわけで「膝番号13の男に捧げる膝枕」。膝開き(=新作「膝枕」を最初に読むこと)はぜひ小羽さんにお願いしたい。
今井雅子作「膝枕─マメな男」
休日の朝。独り身で恋人もなく、打ち込める趣味もなく、その日の予定も特になかった男は、チャイムの音で目を覚ました。
ドアを開けると、宅配便の配達員がダンボール箱を抱えて立っていた。オーブンレンジでも入っていそうな大きさだが、受け取りのサインを求められた伝票には「枕」と書かれていた。
「枕」
男は喜びで声を震わせつつ、ダンボール箱を机がわりにして伝票にサインをした。漢字4文字のトメ、ハネ、ハライをきっちり守り、フルネームを書き上げるのに113秒かかった。
マメな男なのである。
「受け取ってもらっていいっすか」
箱の重みと男の筆圧に耐えかねた配達員に急かされ、男は丁重に礼を言うと、「取扱注意」のラベルが貼られた箱を両腕で受け止め、お姫様だっこの姿勢で室内へ運び込んだ。
はやる気持ちを抑え、爪でガムテープをはがす。カッターで傷をつけるような雑なことはしない。
なにせマメな男なのである。
はがしたガムテープを端から折り畳み、男が箱を開けると、女の腰から下が正座の姿勢で納められていた。届いたのは、膝枕だった。ピチピチのショートパンツから膝頭が二つ、顔を出している。
「カタログで見た写真より色白なんだね」
男が話しかけると、膝枕は正座した両足を微妙に内側に向け、恥じらった。男は早速、膝枕を写真に撮ると、SNSに書き込んだ。
びっくりマークだらけのつぶやきに予想を超える反響があった。男のフォロワー数の十倍もの数の「いいね」がついたのだ。
続々と書き込まれるコメントに応じて、男は通販サイトのアドレスとともに商品ラインナップを書き写しを紹介する。
文字数の関係で、コメントをいくつもに分け、その数は135になった。
とにかくマメな男なのである。
カタログを書き写すのは骨が折れたが、男のつぶやき史上かつてない大きな反響があり、フォロワーが13人から130人に増えた。
寄せられたコメントのひとつひとつに、男はコメントを返した。
という短いツッコミに、
と長々と返し、
というたった9文字に
と7倍の分量で返した。
とことんマメな男なのである。
「箱入り娘」のワードに、さらに大きな反響があった。
マメな男は、張り切ってコメントを返した。
この膝に早く身を委ねたい、そして、早くつぶやきたいという衝動がこみあげるのを、男はぐっと押しとどめる。強引なヤツだと思われたくない。気まずくなっては先が思いやられる。なにせ相手は箱入り娘なのだ。
すると、
と動画のリクエストが来た。男は早速スマホのカメラを向けたが、箱入り娘は膝を硬くしたまま動かない。
「ノロケかよ!」というツッコミを期待したが、コメントはつかなかった。期待に沿えなかったらしい。
その夜、男は寄せられた135件のコメントにコメントを返し続けた。
架空の膝枕商品を妄想したコメントに熱いコメントを返したところ「膝枕カタログ大喜利」が始まってしまい、コメントを書いても書いても返信が来て、止まらなくなった。
「頭を出さずってウケる」というツッコミを期待したが、意外とウケなかった。
翌日、男は旅行鞄に箱入り娘膝枕を納めると、デパートのレディースフロアへ向かった。
というコメントが寄せられたからだ。
マメな男は、フットワークも軽いのである。
男はデパートから実況をつぶやき続けた。
帰宅すると、男は箱入り娘に白いスカートを着せてみた。
「いいね。すごく似合ってる。可愛いよ!写真撮っちゃう。こっちからも。もう我慢できない!」
倒れこむように箱入り娘の膝に頭を預け、白いスカートをはかせた箱入り娘の写真とともにヴァージンスノー膝の感触をつぶやいた。
すぐさま、たくさんの「いいね」とコメントが寄せられた。
箱入り娘の膝枕にいつまでも甘えていたかったが、マメな男は頭を起こし、マシュマロを求めて街に出た。コンビニやバラエティショップを回って、市販のマシュマロ13種類を買い求め、男が帰宅すると、箱入り娘が玄関先まで膝をにじらせて出迎えに来てくれていた。
男は箱入り娘の膝に飛び込み、頭を沈ませるが、沈みきる前に頭を起こし、今度はマシュマロに頭を預けた。箱入り娘膝枕とマシュマロの頭の沈み心地を比べるのである。箱入り娘のマシュマロ膝と13種類のマシュマロを順番に試して、やわらかさ、弾力、やみつき度合いを星取表にし、報告をつぶやいた。
マメさを極めた男なのである。
星取表のつぶやきがバズり、1万3千もの「いいね」がついた。男の住む町の人口に匹敵する数だ。男がこれほど注目されたのは、オギャーと生まれたとき以来だった。
食事をすることも忘れ、男はコメントを打ち続けた。スマホ画面を見つめていると、部屋の隅から視線を感じた。振り向くと、そこに箱入り娘がいた。
「やきもちを焼いてくれているのかい? ほったらかしにして、ごめん。でも、君も僕の幸せを喜んでくれるよね? もうちょっと待ってて」
身勝手な言い草だと思いつつ、男は箱入り娘をダンボール箱に押し込め、押入れに追いやり、またスマホに向かった。
押入れからカタカタと音がする。箱入り娘が箱の中で暴れているのだ。
「待ってて。フォロワーが1万人超えたら、迎えに行くから」
男はそう言って、今の状況をつぶやく。
さらに面白おかしく箱入り娘膝枕禁断症状を連投でつぶやいた。
つぶやきに「#膝枕男」のハッシュタグをつけて投稿すると、「#膝枕男」が一瞬トレンドに浮上した。男のフォロワーは千人単位で増えていった。
何度コメントしてもスルーされていたフォロワー数13万のグラビアアイドル・ヒサコが向こうからコメントを寄越してきた。男の目はヒサコのプロフィール写真の膝に釘づけだ。
以前ならこんな大胆なコメントはできなかったが、今やフォロワーが9135人に増えた男は強気になっていた。すると、ヒサコは、
なんと膝枕風に正座した自撮り写真を次々と返信に貼りつけてきた。男は画像加工アプリを使ってヒサコの膝を切り抜き、膝枕商品のカタログ風にデザインし、
とコメントをつけて、画像を投稿した。それをヒサコが喜んで拡散し、男のフォロワーはついに1万人を超えた。
押入れからカタカタと音が鳴っている。「私はここよ」と箱入り娘が呼んでいる。
「ごめんごめん。今出してあげるよ」
押入れから取り出した箱を開けた男は、言葉を失った。
「なんだこれは?」
箱入り娘は箱の中で逆立ちの状態になっていた。太ももではなく、脛が上を向いている。その脛が打ち身とすり傷だらけになっていた。男がスマホに夢中になっている間、男の耳には音は届いていなかったが、箱入り娘は箱の中で暴れ続けていたのだろう。体がでんぐり返るまで箱に体を打ちつけて。
「早く手当てしなくては!」
男は箱入り娘を箱から抱き上げ、太ももを上にしてお姫様だっこの姿勢になる。箱入り娘は唇を噛むように傷だらけの膝をぎゅっと閉じている。
「悪かった。もう淋しい思いはさせない。1万人のフォロワーより、10万回のいいねより、一番大事なのは君だ」
我ながら名ゼリフだとマメな男は脳内で一番乗りの「いいね」を押し、続く一万の「いいね」を想像する。この状況を写真に撮ってつぶやきたいが、今はまず箱入り娘の機嫌を取らなくては。
「ほったらかしにしたこと、怒ってる?」
「ううん。違うの。そうじゃないの」と首を振るように、箱入り娘が膝頭を左右に振る。
「違うの? だったら、何をいじけているの?」
男が聞くと、箱入り娘は、初めて男の部屋に来た日のように、内側に向けた二つの膝を小さくこすり合わせ、もじもじと恥じらった。
「え? 恥ずかしい?」
箱入り娘は膝を小さく上下させ、うなずいた。それから、視線を向けるように男のスマホのほうへ膝頭を向けた。
「僕のスマホ? もしかして、君のことをつぶやいたのが、いけなかった?」
箱入り娘の膝が小さく上下した。
「そっか。ふたりだけの秘め事だもんね。僕一人だけに見せてくれた君の素顔をみんなに知らせちゃいけなかったんだ」
なんて、いじらしい。体がひっくり返るまで箱に体当たりし、「やめて。私たちのことを広めないで」と訴えていた箱入り娘に、申し訳なさとともに愛おしさが募った。
「もうスマホは見ない。君だけを見るよ」
「お願い」と手を合わせるように、箱入り娘がぎゅっと膝頭を合わせる。それから膝をこすり合わせ、「来て」と言うように男を誘う。
「いいのかい? こんなに傷だらけなのに」
「いいの」と言うように左右の膝をかわるがわる動かし、箱入り娘が男を促す。打ち身と切り傷と擦り傷を避けて、男は箱入り娘の膝に、そっと頭を預ける。
このやわらかさ。この沈み心地。こんなに素晴らしいものを尻目にスマホを見ている場合じゃない。SNSはしばらくお預けだ。
そのときふと、男の頭に別な考えがよぎった。
「これもプログラミングなんじゃないか」
箱入り娘膝枕の行動パターンは、工場から出荷された時点でインストールされている。箱に押し込まれて押し入れに追いやられたとき、箱から出されたときの初々しくいじらしい反応も、あらかじめ組み込まれているのだとしたら、人工知能に踊らされているだけではないのか。
「私とSNS、どっちが大事?」と迫られたら、
「めんどくさいヤツだ」と思ったことだろう。
だが、「私たちのこと、みんなに言いふらさないで。恥ずかしいから」と訴えられると、愛おしさがこみ上げ、「大事なのはスマホより君だ」という気持ちになる。
箱入り娘は、あくまで箱入り娘として、恥じらい、いじけた。だから男はグッと来た。だが、そこに箱入り娘の感情はなく、プログラムされたパターンが作動しただけだったとしたら……。
そう思うと、男はたちまち白け、箱入り娘がただのモノに見えてきた。所詮はネタだ。SNSの「いいね」とフォロワーを稼ぐための。箱入り娘も白いスカートもマシュマロも、すべてはネタだ。
男の気持ちが冷めたのを感知したのか、箱入り娘が身を強張らせた。硬くなった膝枕に頭を預けながら、マメな男は次のつぶやきを練っていた。
「箱入り娘の傷だらけの膝の写真に、痴話喧嘩ナウってつけてみるか」
スマホに手を伸ばそうとすると、箱入り娘が両膝にギュッと力を込め、男の動きを封じた。締めつけられる快感に、男は思わず、「あう」と歓喜の声を上げ、抵抗を諦めた。
プログラミングかどうかなんて、関係ない。作りものの膝が本物を超えたってことだ。
1万人のフォロワーより、10万回のいいねより、この膝があれば、もう何もいらない。
起き上がれなくなった男の頭は、ますます箱入り娘の膝枕に沈み込む。かつて味わったことのない、吸いつくようなフィット感が男を包み込んでいった。
「ワタシタチ ハナレラレナイ ウンメイナノ」
夢かうつつか、箱入り娘の声が聞こえた気がした。
マメな男は知らなかった。膝枕に内蔵されたカメラが骨抜きになっている男をとらえ、男のアカウントから全世界に向けてライブ配信していることを。
「いやー。おかげさまで注文が来るわ来るわ、生産が追いつきません! 膝枕男、大当たりでしたよ!」
笑いが止まらない「膝枕」カンパニーの社長が、来客に金一封を差し出した。マメな男に白羽の矢を立て、男の行く先々に箱入り娘膝枕の広告を表示した。男を釣った後は、予想通り、いや、予想以上だった。ノーギャラでこれだけ熱く詳しく商品の魅力を語ってくれる人物は他にいない。
「私はただ、フォロワーで一番マメな人はこの人ってお伝えしただけです」
金一封を受け取ると、ミニスカートから飛び出した美脚を組み替え、グラビアアイドルヒサコは微笑んだ。
Clubhouse朗読をreplayで
2022.2.13ひろさん×小羽勝也さん
2022.3.1 小羽勝也さん
2022.5.15 小羽勝也さん
2022.6.15 鈴蘭さん
2022.8.27 小羽勝也さん 原稿公開1年1か月記念&一人膝枕リレー1周年
2023.2.9 小羽勝也さん
2023.3.13 ひろさん
2023.3.23 中原敦子さん
2023.6.13 ひろさん(パソコン打ちながら)
2023.8.13 ひろさん
2024.2.16 鈴蘭さん(膝枕図書館に出てくる外伝の一つとして)
マメな男 Twitterにあらわる!
2022年3月の終わり、Twitterのタイムラインに流れてきたツイートに目を疑った。「膝豆」を名乗るアカウント(@hizamame)が13種類のマシュマロの沈み心地を比較していた。「#膝枕男」が物語を飛び出し、現実世界のSNSでつぶやき始めた。
マシュマロのブランド名にも既視感が。
グラビアアイドルのヒサコと絡む展開に期待!
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。