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「私じゃダメですか?」と思ったことのあるすべての「私」へ

オーディション企画から生まれたオリジナル脚本

合格者の人生からオリジナル作品を創って発表するユニバーサル・オーディション「ルーツ」。わたしは以前のnoteで紹介した「運命のテンテキ」ともう一作品、「私じゃダメですか?」の脚本を書いた。

エキストラ、スタンドイン(代役)、付き人。スターという光を取り巻く「影」として生きる三人の女は「光」をつかめるのか?涙を強さに変えた女優たちの魂の叫びを聞け!

登場するのは、主役になれなかった3人の女優だが、「私」はエキストラであり、スタンドインであり、付き人であり、選ばれなかったすべての人たちだ。初稿を読んだ演出の配島徹也さんは、レギュラーになれなかった高校のサッカー部時代の記憶が蘇って号泣したという。

20分ほどの作品に20年分の悔しさが詰まっている。「私じゃダメですか?」を味わったことのある、すべての「私」の物語。この作品が一人でも多くの「私」に届くように、このnoteを書く。わたしも、そんな「私」の一人だから。

※追記。公式発表の通り10/18の「ルーツ」公演は中止となり、無観客で収録したものをお届けできるよう準備中です。作品を知っていただく時間をもらえたと考え、このnoteが広く読まれることを願っています。

織田美織✖️新野七瀬✖️松井るな

演出・配島徹也さんが10月9日にツイートした告知動画が、こちら。

登場するのは、織田美織最近始めたnoteが読ませるのでぜひ)、新野七瀬松井るな。いずれも本人役なので、演者名が役名になっている。

共通するのは、文句なしの美人であること。「ルーツ」は見た目不問のユニバーサル・オーディションだけど、容姿重視のオーディションでも勝ち残れる3人。実際、芸能界がほうっておかなかった。だけど、主役の手前で突き抜けられなくて、スポットライトの外側にいた。完全に影じゃなくて、光がこぼれる距離で。「私じゃダメですか?」と思いながら。

脚本を開発するにあたり、2次審査を通過した43人のヒアリングを見ながら、気になったエピソードや「この人の人生から作品を作るとしたら、どんな話がいいだろう」という思いつきをメモしていた。織田さんを見たメモの最後に

スタンドイン 私じゃダメですか

と書いた。

スタンドイン(代役)という存在

思い出していたのは、コピーライター時代に立ち会ったCM撮影の現場。スケジュールが取れない売れっ子女優の代わりに「スタンドイン」と呼ばれる代役の女の子がカメラチェックを受けていた。そのままデビューできそうな可愛い子だった。体型や雰囲気が似ているので、その女優さんのCM撮影では、彼女にスタンドインの声がかかるらしかった。

あの子も女優を目指しているんだろうか。

それともスタンドインのままで満足しているんだろうか。

どんな気持ちでカメラの前に立っているんだろう。

当時、広告代理店に勤めながら脚本家デビューしていたわたしには、スタンドインというポジションがプロットライターに重なった。プロットライターは脚本の骨組みとなるプロットを書く人だが、本人に「プロット専門」のつもりはなく、「脚本まで書きたいけれど、プロット止まり」となるケースが多い。エピソードを組んで土台を固めたところで「名前のある脚本家」の手に渡り、その脚本家の作品として世に出て行く。

そのまま脚本を書ける、もしかしたら脚本家より書ける実力がありながら、「どうして私じゃダメなんだろ」と唇を噛み、プロットを書き続ける。プロットを取り上げられるたびに削られる気持ちを奮い立たせて。「仕事だから」と割り切っている人は、期待しては裏切られることに疲れているだけだったりする。

二足の草鞋を履いていた当時、心が折れるような痛い目には遭っていなかったが、「レールに乗った勝者」と「その外側でくすぶっている予備軍」の圧倒的格差を知り、生き残る厳しさを痛感していた。下手に会社員を辞めちゃいけないと思っていた。一本立ちする踏ん切りをつけてくれたのが『子ぎつねヘレン』で、そのとき出会ったプロデューサーの石塚慶生さんに誘われて、「ルーツ」に参加している。

エキストラ(美織)✖️スタンドイン(七瀬)✖️付き人(るな)

織田さんのヒアリングで面白かったのが、CMの撮影現場で「日によってメインだったり、エキストラだったりする」という話。自分の株価が乱高下する感覚は、脚本家として参加している作品とプロットライターとして参加している作品を行き来して味わった。同じわたしなのに、同じ発言をしても、扱いはまるで違う。今日のわたしはどっちだっけ、そもそもわたしはどっちなんだっけと自分の軸がわからなくなってくる。

エキストラの現場を渡り歩いた織田さんが「ただのコマでしかないんだな」とこぼすのを聞き手の石塚さんが「そうじゃない現場は絶対にあるから」と励ましていたが(そのくだりが10/9にルーツ公式Twitterで紹介された動画に)、夢を見るたび裏切られて、諦めの境地に辿り着いたのかもしれないと想像した。

エキストラ織田美織とスタンドインが主役を取り合う話はどうだろう。スタンドイン役は絶対この人、と思ったのが新野七瀬さんだった。新野さんのヒアリングを見たメモの中に、

バッジはたくさん持ってるけど、本当の私って何?

と書いてあった。新野さんの言葉を抜き書きしたものだ。正解がわかっているから期待に応えられるオール5人間だけど、空しい。この人がスタンドインという役割を与えられたら、きっちり完璧に、突き詰めてしまうのだろう。どんどん便利な人になり、気がついたら、スターの身代わりとしてしか生き残れなくなる。脚本家が書きやすいプロットをお膳立てしていたら、プロットの仕事しか来なくなってしまうように。スタンドイン新野七瀬というキャラクターが膨らんだ。

もう一人、ミスコンで準ミスになり、アジア大会まで進んだ松井るなさんのヒアリングを見て、「付き人」というキャラクターが思い浮かんだ。

気分屋のスターに振り回されて、うんざりしているけれど、みんなの前ではニコニコ。人当たりが良くて、現場の人気者。広告代理店のえらい人に飲みに誘われて口説かれたりする。デビューしたい夢を横に置いて、小さな世界のアイドルで満足してしまっているけれど、本当はとても負けず嫌い。そんな付き人松井るなが、主役の座を奪おうとするスタンドインとエキストラを見て、闘志に火がつき、主役争いに参戦する。メモには、

八方美人を取っ払いたい

と書いてあった。

主役が現れないCMの撮影現場で

エキストラ織田美織とスタンドイン新野七瀬と付き人松井るな。同じ現場に居合わせて、ドタキャンの女王の異名を持つ主役の代わりに「私じゃダメですか?」と主張し合う。そんなストーリーが膨らんだ。

3人それぞれでも一本の作品ができたかもしれないけれど、「この3人は組み合わせたほうが絶対面白い」と思った。プロットが通り、ヒアリングで聞いたエピソードとセリフを脚本にどんどん盛り込んだ。

「私じゃダメですか?」は誰かを蹴落とすことでもある。遠慮していたらチャンスはつかめない。くすぶらせてきた嫉妬や焦りをさらけ出し、なりふり構わず役をつかもうとする。

演出の配島徹也さんから出たキーワードは「生々しさ」だった。映像ディレクターである配島さんは、サッカー部だけでなく、仕事の現場でも悔しい思いを味わってきた。ためてきた感情の爆発力を知っていた。

稽古で膨らませて決定稿に

zoomでの稽古が始まった。ビジュアルでの仕事が多い演者3人。セリフのある役が初めてという人もいて、初稽古は伸び代たっぷり状態。自分から生まれた役を演じるのに、普段の自分よりも小さくなってしまって、魅力を出せていなかった。それが、稽古を重ねるたびに「役の自分」が体に入り、閉じていた蕾が開いて、生き生きと咲きだした。一人一人の役が膨らむと、セリフの掛け合いの面白さは3乗になる。主役を取りに行く女3人のマウントの取り合いは、稽古すればするほどスリリングになった。

もう一人の演出、アロム奈美江さんは、そんな3人を面白がりつつ「もっとやっていいわよ!」と激励した。

松井さんには圧倒的な明るさと開放感があり、イヤミを言ってもイヤな女にならずに笑いを取れる。悪意のない無邪気でスタンドインとエキストラにマウントを取る付き人のセリフを足していった。それに対してムキになるスタンドインとエキストラの感情も引き出されていった。

よりテンポ良く、より生々しく、稽古が脚本を膨らませ、決定稿になった。

エピソードはほぼ実話。むき出しの感情は本音。ため息も悔し涙も本物。一人一人でも人目を引く大輪の花のような3人だが、切り花ではなく根っこ付きで舞台に立ち、魂の叫びを解き放つ。

一人でも多くの「私」に、どうか聞いて欲しい。

10/18「秋」(15-17時)「冬」(18-20時)通しで観られる生配信チケット(開演後も販売)はこちらで。

メインの近くにいたらチャンスはある

「ルーツ」作品の各組には演出助手がついているが、「ルーツ」に応募して途中で落ちたという人が少なからずいる。オーディションで選ばれなかったからそこで終わりではなく、気持ちを切り替えて「ルーツ」と関わり直した人たちだ。

「私じゃダメですか?」が消えたわけではない。自分に何が足りないのか、選ばれた人と何が違うのか。勝ち取った人たちに背を向けるのではなく、向き合って吸収しようとする。この人たちにも葛藤があり、ドラマがある。

「私じゃダメですか?」の演出助手についている藤井千咲子さんもそんな一人。最初の稽古の日、遅れている一人の代わりに藤井さんがセリフを読んだ。「オーディションで選ばれた人」が演じる「主役になれない人」のセリフを、「オーディションで選ばれなかった人」が代わりに演じる。この設定でもう一本書けそうだと思った。藤井さんは、セリフが聞きやすく、間の取り方が良かった。この人は芝居ができると知ることができた。

「ルーツ」愛ダダ漏れなツイートを連投している愛田天麻さんも、「ルーツ」応募者から演出助手になった一人。現場でも大活躍だったらしく、「私じゃダメですか?」と同じ冬チームの映像作品「メインの人」脚本・監督の谷口垣平さんがツイートでベタほめしている。

で、予告を見ると、木田佳介さんと瑞生桜子さんに加えて、愛田天麻さんの名前が。ツイートの写真は、撮影風景ではなく、劇中場面だった模様。

スポットライトの外側にいても、完全に真っ暗なわけではない。こぼれた光は、近くにいる外側の人たちもほんのり照らしている。ライトが当たっていなくても、ピントは合っていなくても、見ている人は見ている。だから、近づけるところまで近づいておくのがいい。

「メインの人」は、「いつでもメインを張ってやる」な役者男女の話。「メインじゃない人あるある」で、「私じゃダメなんですか?」な人にはグサグサ刺さる話。この予告が好きすぎて何度も観ている。

自分の名前は自分で大きくしていくしかない

寝ているとき以外お風呂の中でも一日中聞き続けた「ルーツ」ヒアリングの中で、わたしが一番射抜かれたのは、「メインの人」に「メインキャストじゃない人役でメイン出演」(ややこしい)している木田佳介さんのこの言葉だった。

「自分の名前は自分で大きくしていくしかないんで」

自分の名前がクレジットされなかったとき、クレジットされていたのにポスターを刷り直したら消えていたとき、わたしも同じことを思ったから。

今はまだメイン張れてないけど、この名前、大きくしていくんで。そのうち一人歩きしますんで。「あなたじゃなきゃダメなんです」と言わせますんで。

そんな沸沸とした闘志が作品の温度と熱量を上げている「ルーツ」第1回公演。10/17(土)の「春」「夏」、10/18(日)の「秋」「冬」の4チームに分けてお披露目。ひとつ前のnoteで紹介したもう一本の脚本作品「運命のテンテキ」は「秋」チーム。 

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2021/3/25追記。📢note「わたダメが好きすぎるので脚本を読んでほしい」に上演脚本を公開。📢3/26(金)22:00 Clubhouseにて読み合わせやります
ドタキャンの女王を待つ撮影現場で火花散る主役争い🧨秋元紀子💄×雨宮萌果💄×永倉由季💄今井雅子脚本「私じゃダメですか?」

2021/3/21追記。「私じゃダメですか?」収録上演を4/3(土)20:00-21:30 zoomイベント「月いちルーツ」にて有料配信。大門弥生さんのカッコよすぎる独唱と2本立て上映とトークセッション。一緒に観る人大募集!予告編↓
2020/12/12追記。「私じゃダメですか?」脚本が山口ちはるさんの手で別キャストにて上演作品に。12/10-13まで下北沢スターダストにて「あたしたち」と題した2本立て。


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