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哲学が込められた道具と、それを存分に味わうことについて 【スノーボード 編】


みなさんこんな経験はないだろうか?

ひとつの道具を使用しているうちに、その道具に込められた「ある種の哲学」や「美意識」みたいなものが無意識に自分自身に影響を与え、ふと新たな価値観を発見したり、思考(嗜好)や行動の変化が起こったということ。

それはたとえば、鋭い包丁をゲットしたら料理をするが好きになった。
お気にりのマグをみつけてから、朝のコーヒーの時間がさらに愛おしくなった。
他にも、いい感じに年季の入ったスツールを手に入れてからは、なんとなく部屋の片付けを前よりもよくするようになった、ということもあるかもしれない。

こんな風に作り手やそれを所有していた人の思いが込められた道具には、哲学と美意識みたいなものが内包されていて、それを使用する人にも影響を与えていく。
そんな価値観を変えてくれるような道具に出会えることは「あたりまえ」ではなく、とても幸せなことだし、どうせ何かを所有するならそういったモノにできるだけ囲まれて生活したい。

そういった思いから、このシリーズでは僕がインスピレーションを受けたものついて書いてみようと思う。決して「ていねいな暮らし」な感じの生活ではないけど、自分なりのマイルドていねい、ちょっとアウトドア、でもゆるめの視点からお届けしたい。そしてあなた自身が所有する道具たちにあらためて愛情を感じるキッカケや、何かを選ぶときの参考になったりしたらとても嬉しい。

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スノーボード編

というわけで、初回はスノーボードについて。
ここカナダ西海岸でも春の足音が聞こえ始め、少し冬が名残惜しくなってきた時期でもある。(とか書いてる間にウィスラーは例のウィルス騒動により急遽クローズ...本当なら5月後半ぐらいまで滑れたはずだったのだけど..涙 でも、けっこういいシーズンだったな。)

僕は現在3種類のスノーボードを使っている。リストするとこんな感じ。

 ブランド /  「モデル」: 作った人のバックグラウンド
-Jones snowboards /「Ultra Craft」:アメリカ
-Moss snowstick  /「U5」:日本
-Korua Shapes /「Stealth」:スイス


世の中にはたくさんの僕が乗ったことのないボード、憧れの板、もう明日にでも買ってしまいそうな板もある。そもそも、本当に良いスノーボーダーならどんなボードでも、どんな状況でも乗れるだろうし、またボードに対するフィーリングが異なる人もいるのも確かだ。あくまでも僕の好みなので、ふふふんと気軽に読んでみてほしい。

道具選びからの楽しみに気づく。


スノーボードは間違いなく。道具選びの大切さと、楽しみを教えてくれた代表的なジャンルの一つだ。

まず、滑り始めた最初の数年は友人からもらった板で滑っていた。たぶん2000年代前半ぐらいに作られた大手ブランドの板だった。今から思うとあまり特徴の無い板だったので、あえてブランド名は書かないでおこう。
それでも、基本的な板の操作を覚えるのに十分だったし、何よりシーズン券とともに毎日ゲレンデにいるのが楽しかった。あとはパウダーでも少しは浮いてくれたし、壁当て込みの練習もたくさんできた。


板の種類ひとつでこんなにも世界が変わるのか!と衝撃を受けたのが、カナダに来てから最初に買った板だった。その板は僕を完全に違う世界へと誘ってくれた。

今までエッジが引っかかってよくこけていた壁際の後半だったり、僕が知らなかったパウダー上でのなめらかな浮遊感を味わったのだ。
「あぁこの板は、今まで見たこと、感じたことがなかった世界を僕に見せてくれているんだな」と即座に思ったのを覚えている。
(あと余談ではあるが、その時に僕にその板をオススメしてくれた日系カナダ人のダイスは今では滑り仲間になっているのも大きい)

また他の板では、真冬の晴れた朝一のピステンに板が食い込む気持ちよさが、
そのまた別の板は、春の日差しを浴びた午後のザラメ雪の波のような感覚を教えてくれた。

僕はそれまで主にクライミングをしていたのだけど、クライミングの場合は「自分の肉体のパフォーマンス=クライミングのパフォーマンス」といった感じなので、道具で遊ぶといった感じはあまりない。そういうこともあり、改めて道具を選ぶ楽しみを新鮮に感じたのを覚えている。

ここからは僕がそれぞれの板から感じているその国の自然の特徴、ブランドの美意識、哲学のようのなものを詳しく書いてみよう。
スノーボードは道具一つで本当に感覚が変わるので、もしスノーボードを始めてあまりしっくりきていない人は、もう一度自身の好みや性格と照らし合わせて道具選びを再考してみてはいかがだろうか。


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Jones snowboards / 「Ultra Craft」: USA

ーホバリングしているかのような安定感と浮遊感。
2015年製。ほぼ真っ黒で、すこしだけ内側の木目が見えるデザイン。

特徴:北米で生まれたJones snowboardsは、やっぱり北米の自然と地形に適合している。大きな山、乾燥しすぎてないパウダー、岩が多いアルパインの地形でも扱いやすく、大きなスキーリゾートではトップからボトムまでノンストップで楽しませてくれる。

そしてこの板は僕にとって「最も安全な」スノーボードだ。最初に書いた「壁際のエッジが引っかからなくなった板」というのはこの板のことで、バランスを崩して激しめのクラッシュを覚悟したその時、なぜかするりと切り抜けてくれ、何度この板に助けられたと思ったことか。。


使いづらい時:日本のトップパウダーだと、雪が軽すぎて、雪煙で正面が見えにくい場合がある。小さな地形でプレイしようとすると、簡単に乗り越えてしまったり、小さいスキー場だと、いい感じに乗ってきた時にはボトムについてしまっているということもある気がする。

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Moss snowstick  / 「U5」:日本

+スノーボードの視点が変わるスノーサーフィンの板
2008年製:黄緑色ベースのデザインで70年代クラシック

特徴:日本生まれのMoss U5はUltra craftと正反対だ。
モスは70年代に日本で生まれ、元祖のスノーサーフィンのひとつと言われている。
この板に乗っていると「パウダーにめっちゃよさそう!」とよく言われる。実際はもちろんパウダーでも楽しいが、僕的には春のシャバ雪が最高に楽しい。そして、小さな起伏でも当て込んだり、小さなターンをたくさん楽しむことができる。
滑り終えた後に自分のラインを確認すると明らかに、他の跡にくらべ異質なラインの痕跡がある。それがこの板だ。

白馬にいた時、朝一番のパウダーをUltra craftで楽しんで、ある程度地形が荒れたらこのU5に乗り換えたりしていた。すると不思議なことに、今まで見えなかった小さな起伏に気づき、サイドパウ(斜面の脇に残っているパウダースノー)の量も増えたように感じるのだった。

使いづらい時:北米などの大きなスキーリゾートで使用すると、少し低速すぎると感じる時がある。また、カナダのスキー場は日本のスキー場にくらべ、本当は壁に当てこみたいなぁと思っても、地形がジャンプを要求してくることがよくある。みんながジャンプしたがるので自然とそうなるのだろう。

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Korua Shapes /「ステルス」

+新雪がない凍てつく真冬の第一候補。
2018年製:真っ白な板に赤のソール。そして心をくすぐるメッセージ。

特徴:koruaのSterthはその評判通りグルーミングがばっちり聞いた広い斜面を、カービングするのにとてもに適している。これはヨーロッパ特有の大きな自然と洗練されたグルーミングの文化から生まれたと感じる。少し荒れている斜面でも抜群の安定感がある。もちろん、パウダーでの浮遊感もいい。モデルチェンジをしないというシンプルなコンセプトも僕には合ってる。


使いづらい時:タイトなツリーや細い沢地形をするする進むのはエッジが効きすぎて少しのりずらい。コブ斜面も苦手な印象。

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以上、現在僕が今使っているスノーボードから感じるインスピレーションだ。
自然のコンディションと地形を舞台に、すぐれた道具と自分の経験、スキルとが合わさり生まれる掛け替えのない時間。そんな冬は本当に愛おしく、美しい。


僕がのんびり文章を書いている間に世間はすっかり春めいてしまった。
今年のウィスラーのコンディションはとてもよく、スプリングセッションに胸をときめかせていたのだけど、それはまた来年までおあずけだろう。

バックカントリーについての「いろは」をあらためて知るべき時だとも思いつつ、まだ心の整理がつくまではビンディングははずさずそのままにして、
ひとまずクライミングシューズに履きかえることにしよう。

ではまた。




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