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【感想】書籍『偽りなきコントの世界』

キングオブコント2013王者であり、『しくじり先生』の企画『キングオブう大』では的確な審査コメントを連発。

遂に(?)第44回ABCお笑いグランプリで審査員を務めたかもめんたる岩崎う大。

構成・執筆はナイツ塙の『言い訳 関東芸人はなぜM-1で勝てないのか』を手がけ、2022年11月に出版された『笑い神 M-1、その純情と狂気』も記憶に新しい中村計。

本書も質問が提示されて、それにう大が答えるという構成は『言い訳』を踏襲している。
ただ、M-1という賞レースや競技漫才に特化していたのに比べると、う大のコント観に基づく分析・批評がベース。
この辺りは漫才やM-1が文化・競技として定着しているのに対してコントはまだまだ幅広いことに起因している感じだろうか?
漫才論争はあってもコント論争は聴いたことがない。
(強いて言えば2022年のABCお笑いグランプリでのダウ90000のネタをきっかけに巻き起こったコント芝居論争か)

ちなみに本書には

コメディーや喜劇と呼ばれるお芝居と、コントの違いは何か。僕の経験から言うと、

という書き出しで始まる章もある。

また、そもそも『言い訳』は副題に「関東芸人はなぜM-1で勝てないのか」を掲げている。
つまり「漫才・M-1の王道は関西にある」という立場。
そこを立脚点に塙が自説を展開していくのに対して、コントには持論をぶつける“仮想敵”がいない。
だから必然的にう大個人のコント観がベースになる。
よって「キングオブコントで評価されやすいネタとは?」みたいな賞レース分析本を期待するとミスマッチは起きるかもしれない。
(そもそもう大はキングオブコント審査員ではないし)

そんな本書はまさに『キングオブう大』の審査の答え合わせとでもいうべきか、う大のコント観がとても詳細に記された一冊になっていた。

顕著なのはリアリティーへのこだわり。
そもそも本書のタイトルは冷静に見ると変である。
「偽りなき」は何を修飾しているのか?

  1. 「偽りなきコント」の世界

  2. 偽りなき「コントの世界」

前者はどう考えても無理がある。
コントはもちろん嘘=偽り。
本書の中にも

コントは「これから嘘をつきます」と宣言してから、架空の話を演じているわけです。

という記述がある。
2番の解釈は「コント師の実情を包み隠さず話します」みたいな暴露ニュアンスだが、それも中身とは合っていない。
疑問に思いながら読み進めると

「人間は、ただ、自分のメリットのためだけに行動する」

で始まる章があり、コント内のキャラクターの行動原理が一貫しているかどうか(≒リアリティー)を重視していることが分かってくる。
劇中のキャラクターの言動には嘘が無い。
そういう意味での「偽りなき」なのかと腑に落ちた。
劇作家・脚本家としての顔も持つう大らしいコント観だと思う。

テクニック的な部分では、構成とキャラクターはなかなか相容れないという話が漫才における「設定を飛躍させるならボケはベタに、ボケを飛躍させるなら設定はベタに」という話に通じるものがあって面白かった。

このコント観を基に歴代キングオブコントのネタを幅広く評しているのが本書の魅力。
コント観が確固たる立脚点になっているから「みんな面白くてみんな良い」みたいな八方美人的にフワフワした内容とは一線を画している。
名前が挙げられている芸人は

  • 東京03

  • 吉住

  • 空気階段

  • ビスケットブラザーズ

  • サンドウィッチマン

  • アンタッチャブル

  • ニューヨーク

  • ジャルジャル

  • かまいたち

  • ロングコートダディ

  • ニッポンの社長

  • うるとらブギーズ

  • ピース

  • 錦鯉

  • さらば青春の光

  • ジャングルポケット

  • 男性ブランコ

  • しずる

  • バイきんぐ

  • どぶろっく

  • ロッチ

  • にゃんこスター

  • ロバート

  • ネルソンズ

といった面々(抜け漏れあるかもです)

もちろん(?)かもめんたるがM-1に参戦したことで俄然興味が湧く「漫才とコントの違いは?」という話もがっつり。

キングオブう大のみならずキングオブコントのサブテキストとして必読の一冊だった。

【余談】
序章に書かれているこの文。
『ダウンタウンのごっつええ感じ』の中の『Angelちゃん』というコントを観て衝撃を受けたという話での

松本さんの笑いは行間を読まなければなりません。視聴者に空欄を埋めさせる笑いです。受動的な笑いに慣れている人にとっては、未完成のコントを見せられているような居心地の悪さがあったのではないでしょうか。「何がおもしろいのだろう?」と。

これは現在公開中の宮崎駿の劇中長編アニメ『君たちはどう生きるか』に対する世間の反応と似た話だなぁと。

【さらに余談】
高校時代にオーストラリア留学していたう大の同級生にヒース・レジャーがいたというエピソードが衝撃的すぎたw

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