【感想】劇場映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
DCコミックスのファンダムに属しているわけではない自分からすると正直「何度目のリブートか?」なバットマン。
過去にクリストファー・ノーランによるダークナイト三部作やザック・スナイダーの『バットマンvsスーパーマン』は見ました。
マーベル・コミックス原作の映画を同一世界観で繋げるマーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の大成功を受け、ワーナーがDCコミックス原作の映画でも同様のことをやろうとしたDCエクステンデッド・ユニバース(以下、DCEU)
MCUさえもリアルタイムではなく後から追い付いた人間なのですが、DCEUはもっと追えず。
でも正直まぁいいかという気もw
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガンが監督したシリーズ第10作『ザ・スーサイド・スクワッド』はめちゃくちゃ良かったです。
まぁこれあまりDCEU作品という認識では見てなかったんですが。
DCEUが事実上頓挫した後に独立した作品として世に放たれたのが『ジョーカー』
2019年の第76回ベネチア国際映画祭で金獅子賞
そんなわけで(?)本作『ザ・バットマン』もDCEU外という位置付け。
前述のように僕は特にDCファンというわけではないけれど何だかんだで楽しみ。
早速ドルビーシネマ環境で鑑賞。
いやはや実に硬派で重厚な作品でありました。
まず、とにかく画面が暗く、そして黒い。
まぁバットマンで画面をカラフルに明るくされても困るわけだが、本作は撮影が徹底している。
バキバキにキマってる黒。
調べたら撮影監督は『DUNE/デューン 砂の惑星』で度肝を抜くIMAX撮影を見せてくれたグレイグ・フレイザー。
既存の劇場映画に対してIMAX映画というジャンルを完全確立したエポックメイキングな金字塔。
アカデミー賞の撮影賞にも当然ノミネート。
あれでIMAX撮影は一旦やり切ったということなのか本作のアスペクト比は終始横長のシネマスコープサイズ。
ただし黒の撮影でその力量を存分に発揮。
物語のトーンも暗澹たる世界が舞台なのでがっちり噛み合っている。
どちらかというと明るく鮮明な色に強いIMAXシアターよりも黒が綺麗に映えるドルビーシネマの方が良いんじゃないかと個人的には思います。
※これを書いている時点でIMAX版は未鑑賞ですので悪しからず。
予告編の時点でデヴィッド・フィンチャー作品のような印象を受けていたのだが、本編を見てもその印象通りの暗くキマった映像だった。
実は編集のタイラー・ネルソンはフィンチャー組出身で、下記の作品に関わっている。
(編集の色は予告編には出ないと思うのでこの文章展開は少々こじつけw)
本作でも中盤の見せ場であるカーチェイスのシーンの編集マジで最高!
007シリーズや『フォードvsフェラーリ』もそうなんですが(後者はカーチェイスじゃなくてレースだけど)ああいうカットを素早くキビキビと割る見せ方、個人的にツボなんですよねw
あのシークエンスだけでもそこそこ長尺だけど全然飽きなかったし、何ならもっと見ていたかった。
バットモービルが登場する瞬間から完全にアガりましたねぇあれは。
暗い映像に呼応するように本作はストーリーも現代社会が抱える問題をテーマに据えつつヒーローの存在意義を問う重厚なものになっている。
今回の敵キャラはリドラー。
ジョーカーは目的も動機も無くテロを起こして市民の良心を試すような猟奇的なキャラクターだったが、リドラーは違う。
(ところでオープニングのハロウィンの夜の場面に出てくる顔半分だけ白塗りの不良少年はジョーカー×トゥーフェイス?)
リドラーの目的・動機は権力の不正を暴くこと。
そして本作ではそれは決して陰謀論ではなく、実際に市長ら権力サイドが汚職に手を染めていたという設定になっている。
つまり、リドラーは本来であれば権力を監視するメディアに相当する存在だったのだ。
しかし、リドラーは不正を暴くだけではなく対象の権力者を次々に殺害するという形で道を踏み外す。
これはメディアが暴走したメタファー。
もしくはオールドメディアだけでなく我々一人ひとりがSNSやYouTubeで発信者になれる現代においては私刑やネットリンチのメタファーとしても読み解ける。
そんなリドラーに悪への復讐心という怒りの感情むき出しで対峙するバットマンもまた脆い。
この「怒り」の感情の描き方が非常に現代的(ヘイトが拡散・増幅しやすいインターネット時代的)
欠点を挙げるなら、個人的な好みの問題ではあるのだが作劇がサスペンスではなくミステリーなこと。
サスペンスは宙吊りの状態で結果が来るまでのハラハラドキドキを楽しむもの
ミステリーは結果(代表的なものは殺人事件)が出ていて原因を探っていくもの
上記ポッドキャストでの三宅隆太先生の説明が非常に分かりやすいです。
本作はゴッサム・シティ市長殺害事件をバットマンが探偵のように捜査する形でストーリーが進むのだが、やはりAがBでBがCといった段取り臭さは否めない。
個人的に「映画はストーリーよりも演出の快楽だからサスペンスは向いてるけどミステリーは不向き」と考えている。
ミステリーは論理的な理解を観客に要求するわけで、どうしても映画に占めるストーリーの割合が大きくなってしまうんですよね。
あと、ドラマや小説だと各話や章という区切り(テレビドラマならCMも)で「今回はここまで謎が解明されました」という思考の整理ポイントを作れるのですが、映画にはそれが無い。
こんな感じで自分はミステリーと映画は相性が悪いと思ってます(逆にサスペンスと映画は相性が良い)
なので(好みの問題であることは百も承知な上で)3時間ずっと面白かったかと聞かれると謎解きパートは退屈だなと感じてしまいました。
ただ、それは繰り返し書いているように好みの問題ですし、駄作だとは全く思わないので映像とストーリーが噛み合った重厚な物語は一見の価値ありです。
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