見出し画像

【感想】劇場映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

A24史上No.1ヒット作

映画もドラマも数多くの良作を製作・配給してきたA24スタジオ。

ただ、どちらかというと批評家や映画好きに好まれる作品が多い印象で、『ミッドサマー』など一部を除いては興行的なヒット(映画好き以外も巻き込むヒット)からは少し縁遠いようなイメージもあった。

そんなA24史上No.1、他社・他スタジオとの比較で見ても大ヒットを飛ばしてアカデミー賞はじめ賞レースも席巻する作品が突如出現。
それが本作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

ちなみに予算規模的には決して大作映画ではない。
IMDb情報だと同じくマルチバースを描いているMCUフェーズ4作品とは金額が比喩じゃなく1桁違っているw
大体8分の1から10分の1。

VFXチームは何とたったの5人!

一番最初のバースジャンプのシーンはCG使わずに手作りで撮ったという裏話も目から鱗。
まぁA24がいわゆるビッグバジェットムービーを作るとは考えづらいので当然っちゃ当然なんだけどやっぱり驚く。

マルチバース

本作は宣伝でも散々言われているようにマルチバース設定。
ただ、感想ツイートにも書いたようにマルチバースはMCUがフェーズ4に入って以降かなりの物量を投じて描いており若干食傷気味な部分もあった。
一種の流行語・バズワードと化して「またマルチバース?」と。

また、個人的にMCUのマルチバースに対してはあまり良い印象を持っていない。
理由は『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』の感想で書いたように「マルチバースありきで脚本がそれに振り回されている」と感じるから。

あくまで物語の設定装置としてしかマルチバースが機能していないと自分には感じられてしまう。
(もちろん今後フェーズ5以降の展開で「伏線だったのか!」となってこの評価が覆る可能性は全然あります)

それに対して本作は設定装置だけでなくストーリーと直結するモチーフとしてもマルチバースが機能している点がまず良かった。
本作のマルチバースは人生における選択により宇宙が分岐していく「あの時こうしていればあり得たかもしれない私のもう一つの人生」
エヴリン(ミシェル・ヨー)は経済的に苦しい状況で娘も反抗期。
夫のウェイモンド(キー・ホイ・クァン)は離婚を切り出そうとしている。

もしもこの人と結婚していなかったら?
もしも別の仕事を選んでいたら?
もしもあの時…

本作はそんな誰もが一度は考えたことのあるifという身近なテーマをマルチバースと結び付けて描いている。
ストーリーやテーマと設定が直結。
なので一見すると壮大な話だけど入りやすい。

まぁ少し皮肉なのは『アベンジャーズ/エンドゲーム』を筆頭にフェーズ3までのMCU成功の立役者であるルッソ兄弟がMCU卒業後にプロデュースした作品という点か。
何も一発でMCUより上手くマルチバースを飼い慣らして興行・批評の両面で成功を収めなくても…と思わないでもないw

コメディ映画に徹した作り

ただ、そんな本作の成功の弊害(?)とでもいうべきか、アカデミー賞有力候補とまで噂されていることで何やら高尚な映画を期待されてしまっている気もする。
いやいや普通にコメディでしょうと。

なんてったって監督のダニエルズ(お笑いコンビの方ではなく)の前作はあの怪作『スイス・アーミー・マン』

死体から沸き出る“ガス”を頼りに海を横断するっていう下ネタ満載のコメディw
全くもって高尚な映画を撮りそうな人たちではない。
もちろん「そもそもこういう露悪的で下品な笑いが無理」な人はいるでしょうし、そういう人は本作を観るかは慎重に判断した方が良いと思われます。

ちなみにお笑いコンビの方のダニエルズはこちら。

閑話休題。
そんなわけで本作も油断してると下ネタぶっこんでくるわけだが(中盤のお尻をめぐるバトルシーンや某ヌンチャクなど)即物的なギャグ(=映画的ではない笑い)にならないように「変な行動をするとバースジャンプできる」という設定をエクスキューズとして設けている。
なので単なるギャグ連打に陥るのは回避できているかなと。
その変な行動をする正当な理由が劇中に一応存在しているので。
(脚本上の必然性も無く突然変顔ギャグするような映画とは異なる)
まぁその設定自体へのツッコミどころが無いわけではないがw

また、少し進化した部分として脚本の構造やパロディ・メタフィクションでの笑いも。
離婚届とバースジャンプやり方メモのアンジャッシュ的すれ違いコントは即物的なギャグではなくてしっかりシチュエーションで笑わせてくれる。

バースジャンプした先では『花様年華』『2001年宇宙の旅』『レミーのおいしいレストラン』パロディ。
「チューバッカ」の固有名詞を出す小ネタもありましたね。
あと女優バースでは既存のミシェル・ヨーの本物の写真を使っていたような?w

終盤の展開はテレビアニメ版『新世紀エヴァンゲリオン』のラスト2話を思い出した。
父子と母娘で性別は違うし主人公が親の方とかは異なる点もあるけれど。
急に粗いアニメになったり生物が誕生しなかったバースのあれとかw
これは深読みしすぎだけど、色んなエブリンを目まぐるしく重ねる編集はアニメ的、それも庵野秀明っぽいし。

途中で偽エンドクレジットが流れた後に客席が映る演出も旧劇場版っぽい(こじつけ)

鑑賞中はそんな風に思っていたのだが、冷静に考えると母娘かつ中国という点から『私ときどきレッサーパンダ』とはかなり近い。

この辺りのシンクロニシティは興味深いな。

アクションの撮り方

最後に、ルッソ兄弟プロデュースのおかげなのか本作はアクションが素晴らしい。

以前にも書いたけどルッソ兄弟はとにかくアクションの撮り方がめちゃくちゃ上手い映画監督。

本作のアクションはカンフーがベースなわけだが、戦う場所が練られている。
銃など専用の武器は無いので身に付けているものやオフィス用品などその場にあるものを武器の代わりにしていく。
階段や廊下など空間的制約も効果的。
そういった制約が飛び越えたり避けたりするシーンにひと工夫をもたらしてグッと映えさせる。

一対多のアクションを映すカメラワークも視点が的確だから混乱しない。
主人公と今戦っている敵がどこにいて、次に襲いかかってきそうな敵がどこにいるかの位置関係が把握しやすいから画面全体が見やすい。
特に序盤の国税局のエレベーター前でのアルファ・ウェイモンドvs.警備チームの戦いはめちゃくちゃ見やすかった。

ルッソ兄弟は今回は製作のクレジットだけどアクションシーンにはいくらか関わったんだろうか?

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,494件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?