見出し画像

「ボーはおそれている」映画を観て病む気持ち(映画感想)

 2024年2月16日(金)からホアキン・フェニックス主演、アリ・アスター監督「ボーはおそれている」という映画が公開されました。
 ホアキン・フェニックスといえば2019年公開「ジョーカー」で主人公アーサー(ジョーカー)で狂気に満ちた演技をみせたことで有名です。またアリ・アスター監督は「ヘレディタリー」(18)、「ミッドサマー」(19)で多くの観客に深く消えない「心の傷」を植え付ける新進気鋭の映画監督です。そのふたりが今回タックを組み、気鋭の映画スタジオA24から放つ最新作です。


概 要

日常のささいなことでも不安になる怖がりの男・ボーはある日、さっきまで電話で話してた母が突然、怪死したことを知る。母のもとへ駆けつけようとアパートの玄関を出ると、そこはもう“いつもの日常”ではなかった。これは現実か? それとも妄想、悪夢なのか? 次々に奇妙で予想外の出来事が起こる里帰りの道のりは、いつしかボーと世界を徹底的にのみこむ壮大な物語へと変貌していく。

映画『ボーはおそれている』公式ホームページより
https://happinet-phantom.com/beau/

 主人公のボーはとにかく怖がりな男。処方された頓服薬を「かならず水と一緒に飲むこと」と主治医から伝えられ、服用したさいに一緒に飲む水がなくなったら大パニックになるくらい不安症を抱える主人公。
 そんな彼の母親の葬儀に向かうための旅に出るのだが、とても奇妙奇天烈な出来事が起こってくる…正直話の中盤あたりから変な出来事過ぎて過ぎて頭の処理が追い付かなくなりました(気になる方は是非本編を鑑賞してみて下さい)。
 また話の要所にでてくる彼の母親の存在。ボーの母親はやり手の経営者であり、常に主人公を支配的に扱う強い存在として描かれております。その辺りから主人公の心の弱さ、恐怖心は、強権的な母親により人生の選択権を握られてきたことが原因であることが解ります。その強権的な母親像は、監督の信仰するユダヤ教、またはユダヤ文学の影響を色濃く受けているようです(町山智浩 Tomo Machiyama Channelより)

感 想

 兎に角、約3時間あまり狂気の映像をみせられる映画です。精神疾患のある方、体力に自信のない方には全くオススメできない映画です。
 ただし全くオススメできないとはいいましたが、そこは傑作を作り続けるアリ・アスター監督。主人公の心理的不安感、人間の狂気的な描写の描き方は秀逸で、映画としてのクオリティは特筆すべきだと思います。特に主人公が常に抱える不安感や、自信がないために選択することができない人間の心理描写は、私自身も同じような心理を抱えているため、とてもリアルに感じると同時に、常時急所を触られるような心地悪さも感じられました。その常時「心地悪さ」を絶妙に表現できる監督の作家性が光る作品です。
 私自身、幼少期は仕事も家事も完璧にこなす「優秀な」母親に指示・指導されていました。翻って父親はボーの家庭と同様に影が薄く、とくに私には無関心な父親でした。そんな家庭で常に「~しろ」「~すべき」と「教育」されてきた私は常に家庭内で緊張を強いられ、親に対しては強く意見できない子供でした。そのせいだからでしょうか。優柔不断で、相手から強く言及されるとなかなか言い返せないボーの姿が、まるで自分と重なるようにみえてしまいました。
 思えば私自身、自分の主義主張がきちんと言えない子供でした。
 親から「やれ」と言われた英語教室に通いつづけ、先輩から「続けろ」と強く言われたため興味ない武道系の運動部に在籍し続けた学生時代。思えばあまり自分自身で考えて行動できない子供時代でした。
 もう少し我がままに好き嫌いを素直に伝えられたなら、学生時代を楽しく過ごせたのではと思っております。ただ残念ながら、口答えすると無関心な父親から鉄拳制裁、支配的な母親からはヒステリックに怒り出す、そんな家庭環境でした。
 そんな支配的な親に育てられて成長した男の心理は、常に不安を持ち続けています。何かを決定するには常に親のような強い他人の指示を待っております。そうでもしなければ失敗(=死)する恐怖があるからです。今回、そんな極端で病的で不安な感情をボーを通じて思い出させてくれました。
 それは誰にも触れられたくない嫌な感情です。
 特に映画終盤からは、その「触れられたくない」居心地悪さが立ち込めてきて、見続けることがストレスになってきました。重ねて言いますが、アリ・アスター監督は優秀な映像作家です。その人が嫌がる描写を表現が秀逸なのです。だからこそ私の幼少期の嫌な部分…私自身の弱点を突かれ続けるような感覚が生まれるのです。

ま と め

 何度も言いますが、この映画はおすすめしません。
 心身ともに健全な人にとってはボーの言動が意味不明で終始いらいらさせられるでしょう。また私のような病んだ人間にとっては心を抉られるような不快感を体験させられる映画です。それくらい監督の表現が秀逸なのです。卓越した表現方法で観客の心に傷をつけられることは、ある意味作品としては優れている証拠です。それだけこの映画は良い作品であり、優れているからこそ他人におすすめできない、そんな映画です。
 余談ですが、この映画が完成した際に、アリ・アスター監督は自分の母親にもこの映画をみせたそうです。色んな意味で狂っています。

@masa175ride

#ボーは恐れている 想像して欲しい…3時間かけてじっくり丁寧に描かれた胸糞悪い #映画 を。しかもコレ、#アリ・アスター 監督いわく #コメディ 映画なのだそう…絶対悪趣味だから。メンタルに自信ない人は鑑賞を控えることをオススメします。特に過去「家族」に問題あった方は確実に心を削られます。ちなみに私はテンション下ったので今夜は酒の力を借りたいと思います… #映画鑑賞 #映画紹介

♬ オリジナル楽曲 - ま〜さ / バイクに乗る無職 - ま〜さ / バイクに乗る無職


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?