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僕はギターソロをスキップせずに、ギターソロでスキップする。

自慢じゃないけど、ギターソロをスキップしたことがない。

独ハードロック・シーンの頂点に君臨する Axel Rudi Pell 御大の音が遅れてくるいっこく堂ギターの奇跡も、まったく同じフレーズを顔芸と力技だけで延々と小一時間繰り返す TEN YEARS AFTER アルヴィン・リーのなかやまきんに君的脳筋ギターも、HELLOWEEN オールスターに呼ばれなかった某ギタリストが突然ローランド・グラポウスキーと名乗り始めイングヴェイの下手な真似事をやらかしても、絶対にギターソロはスキップしなかった。

当たり前だ。正直に言って、僕はギターソロを聴くためにメタルを聴いているのだから。

ゴメン、言いすぎた。完全に盛りすぎた。まあしょうがないよね、最近はインスタグラマー的な女の子が「盛れました!」とコメントしているのに対して「そんな盛れてないでしょー!」と独り言を言うのが趣味の孤独のランナウェイだからね。

とはいえ、ギターソロは絶対にメタルにおける大きな楽しみの一つだし、時には楽曲のクライマックスになったりもする。

例えば MICHAEL SCHENKER GROUP。特に、ゲイリー・バーデン時代は完全にギターソロ (とリズム隊) 目当てだ。ヘヴィ・メタルが素晴らしいのは、歌声が相当ユニークでも、音程が少々怪しくても、それを個性と認めてしまう包容力にある。ゲイリー・バーデンの歌声というかダミ声は相当ユニークだし、音程も大分怪しい。最高の秘湯にきたら、隣で農協のキャップを浅くかぶったオジイが熱唱をはじめた、そんな気分にさせられる。だけど、マイケルのギターソロがはじまると、突然ワンギャル全員がスッポンポンで風呂に突入してくるくらいのインパクトと感動がある。とにかく、ベンドが最高なんだよね。2音半くらいクイッと上がるからね。ギターソロがボーカルを補完しているんだよね。

でもたぶん、そこじゃないんだよね。僕にとって、一つ大きな "MEGADETH を聴く理由" となっていたマーティーさんがこんなツイートをしていた。

間違いない。ド正論だ。マーティさん、それな!だけどね、高野寛さんがツイートしていた "ギターソロをスキップする若い人たち" っていうのは、たぶんそういう理由でギターソロをスキップしているのでもない気がするんだよね。関係ないけど、高野寛さんは Katsumi さんと並んで90年代を代表するシンガー・ソングライターだと思う。"虹の都へ" と "ベステン ダンク" だけは押さえておいてほしい。

話が逸れた。じゃあ、彼らはなぜギターソロをスキップするのか。理由はおそらく、ギター離れと音楽の無料化なんだ。

マーティーさんもツイートしていたけど、海外のメインストリームからギターソロというかギター自体、とっくに消えている。まあ当然だろう。エレクトロやヒップホップ、K-Pop に奇天烈なギターソロがふんだんに使われていたら、それはそれで僕の大好物になってしまう。僕の大好物、ご褒美ということは、例えばゴールデンシャワーのようなもので、世間様からは基本的に忌み嫌われる。

つまり、30以上の音楽ファンが刷り込みのように植えつけられてきた、メインストリーム=ギター主体のロックという構造自体、もうとっくに壊れているんだよね。そんな海外の風潮が、やっぱり遅れて日本にも届いているというだけの話。だからたぶん、今、センター分けの爽やかな若者たちの中の音歴には、そもそもギターがあんまりないんだろうと思う。

例えば、僕たちがどクラシックやどジャズを聴いていて、「あーしんどいなあ…歪みがねえ!」 と思う瞬間が必ずあるのと同じで、たぶん彼らにとっても自分の中にないものだからしんどいんだろう。

だからといって、決してギターは死んではいない。日本からだって、才能溢れる若いギタリストはたくさん登場している。ただ、僕たちの頃より、敷居が高くなったというか、誰にでもオープンではなくなった部分はあるのかもしれないね。

僕たちのころは、機材だってそんなにはなかったし、教則ビデオだって手に入れるのは大変だった。だから逆にいえば、すべてが自己流でも良かったんだよね。最悪、ヤマハのパシフィカからアンプに直挿しでも別に文句は言われなかった。ゴメン、また盛りすぎた。だけど、今はなんでもあるからねぇ…YouTube やネットを見れば、"正しいギターのあり方" のオンパレード。だからこそ、わかりやすく入りやすい反面、がんじからめというか、常に "正解" を求められ、誰もが "研究者" じゃなきゃならなくなっているのかも。

YouTube やネットの話は、音楽の無料化という理由にもつながるんだけど、まあ結局、タダより高いものはない。これに尽きるかな。だって身銭切ってないんだもの。ちょっとでもつまらなきゃ、そりゃ飛ばすでしょ。

これは前にも書いたけど、音楽をタダで手に入れても結局、アーティストはもちろん、自分のためにもならないんだよね。3000円払ったんだから、何度も聴かなきゃ損だ。3000円もするんだから、何か聴くべきものがあるはずだ。若い頃、僕はそんな姿勢で音楽を聴いていた。3000円といえば、お昼のうどんを30回抜かないと捻出できない大金だよ。こっちも必死だ。そうやって、腹黒い計算がありつつもしっかりと向かい合えば CD は応えてくれたし、何度も聴くことで身についたり理解できたことも少なくない。"つまらない" が "つまる" に変わる瞬間が必ず訪れたし、そうやって世界は広がっていった。

無料の音楽は平気で飛ばすし、一度聴いて気に入らなければそれまでだ。自分のものじゃないからね。もう二度と耳にすることはない。次の "ノルマ" が待っているから。

僕はね、CD が増えていくのがうれしかったんだよ。高校生にもなって、ドラえもんの学習机をまだ使っていたんだけど、その棚に一つ、また一つ新しい音楽が増えていく。目の前にあるから、一度聴いて気に入らなくても、今日またもう一度聴いてみようとなる。ちなみに、一番上の鍵付きの引き出しにはエロ本が山ほど入っていたんだけど、パンパンに詰めすぎて開かなくなった。ドラえもん出てこれないよ。実家をリフォームする際、机はなくなっていたんだけど、あのエロ本の山の行方を考えだすと眠れなくなる。オカアが開けたのだろうか。ドラミちゃんではなくスコラちゃんが出てきたんだから、オカアが近年より冷たくなったのも理解はできるし、僕はその現実を受け止めなければならないだろう。

ほら、映画を早送りで見るとか、あれも同じよ。映画館まで行って、「早送りせい!」とは言わんでしょ。立ち上がって「早送りせい!」なんて言ってたらただの狂人だ。わざわざ DVD 買って 「早送りせい!」とも言わんでしょ。人間そんなもんよ。タダや便利の裏には何かしら闇が潜んでいる。

今は世界がインスタグラムなんだよ。ぺろーっとスクロールして、ちょっとクリックして、2秒見て、またぺろーっとスクロール。インスタントだよね。まあ、僕は今日もちょっとエッチなコスプレイヤーをスクロールしては、「盛れてないでしょー!」と言う簡単でしかし重要なお仕事を淡々と続けるだけだ。


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