おわりに〜親との関係をよくしたい人のための「愛着理論」の説明書5〜
本マガジンでは、親との関係をよくしたい人に向けて、愛着理論についてまとめてきた。
本マガジンを通して伝えたかったこと。
それらを振り返りながら、本マガジンのまとめとしたい。
毒親の影響は克服できる
こんなことは言わずもがなのことではあるが、子どもにとっての親の影響とは非常に大きいものである。
赤ちゃんにとって初めての、人との関係が親との関係。
それは、すべての人間関係のベースとなり、自分の情緒の安定のためのベースとなる。
親との不安定な関係(不安定な愛着)によって、人を信じられなくなったり、人の気持ちがわからなくなったり、眠れなくなったり、ということが起こる。
親自身の愛着が、子どもにそのまま引き継がれる確率は約70%と言われており、仮に親が不安定な愛着を持っていた場合、大部分の子どもが、その不安定な愛着を引き継ぐことになる。
毒親の影響に苦しむ人が多いという現実も、このことを裏付けている。
ただ、だからと言って、「不安定な愛着を引き継いだらそれが最後、もう人生の終わり」と決めつけるのは早い。
安定した愛着は後から獲得できるということも示されている。
現に、30%の人は親の愛着をそのまま引き継ぐわけではないという研究結果が出ている。
親とは異なる人との親密な関係を築く中で、あるいは少し見方を変えながら自分の親とのストーリーを書き換えていく中で、事後的に、安定した愛着は獲得できるのである。
これはつまり、毒親の影響は克服できるということである。
具体的にどのように、という話は本マガジンでは触れられなかったけれど、それは【事例編】で、子どもたちがどのように毒親の影響を克服していったのか、そのプロセスについて記述していけたらと思っている。
虐待の連鎖も断ち切れる
毒親の影響は克服できる。これはつまり、虐待の連鎖は断ち切れる、ということである。
さまざまな虐待関連の悲惨なニュースが報道される中で、「被虐待児が親になり、自身の子どもを虐待してしまう」という虐待の連鎖の話を耳にしたことがある人は多いと思う。
虐待の連鎖とは以下のようなメカニズムで起きる。
不安定な愛着を持った親が、子どもに対して虐待などの不適切な養育をすることによって、子どもが不安定な愛着を引き継ぐ。
そしてその子どもが親になり、また不安定な愛着を子どもに引き継ぐ。
そしてその子どもが親になり・・・
ということが世代を超えて起きているということ。
しかし、何度も言うけれど、親から引き継いだ愛着は事後的に書き換えられるのである。
親から不安定な愛着を引き継いだとしても、自分が安定した愛着を獲得できれば、自分の子どもには安定した愛着を引き継げる。
虐待の連鎖はそのようにして、断ち切ることができるのである。
親との関係は改善できる
人は例外なく、親(あるいは親代わりの人)との関わりによって愛着というものが形成される。
子どもは親を選ぶことができず、多くの割合で、親が持つ愛着の形をそのまま引き継ぐこととなる。
しかし、自分の愛着の形は事後的に変えることができる。
親自身が形成している親の愛着の形を、子どもがいくら変えようと頑張っても、それは難しい。
けれど、自分の愛着の形は変えられるのである。
人と人との関係、これは相互作用であり、どちらかのありようが変化すれば、その関係自体が変化する。
したがって、自分の愛着の形が変われば、親との関係にも必ず何かしらの変化が出てくるというわけである。
自分の愛着の形を変えようとするのは時間も労力もかかるし、運の要素も関わってくるかもしれない。
そして愛着の形が変化してすぐに、親との関係が好転するかどうかもわからない。
ただ、自分の愛着の形が変わると、親との関係が動き始めるということは確実に言える。
私は、親との関係をよくするために、そこに取り組む価値はあるように思う。
だから、時間と労力をかけてそこに取り組みたい人たちとともに、私はただ、在りたいと思う。
一人では抱えることが難しいものを一緒に、抱えることを引き受けたいと思う。
これからも、よろしくお願いします。
予告
連載開始時期は未定だが、『親との関係をよくしたい人のための「愛着理論」の説明書【事例編】』マガジンを連載してみようと思う。
臨床心理士である私が、不安定な愛着を引き継いでしまった子どもとどのように関わり、どのように安定した愛着の獲得に向けて取り組んだのか、そのプロセスの一部を紹介できればと思う。
連載を開始する時が来たら是非、よろしくお願いいたします。
▼親との関係をよくしたい人のための「愛着理論」の説明書【理論編】
▼その他のマガジンは以下よりご覧いただけます。
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