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『初めての恋』

学校を出るとそこは坂道。
あたしは駅までの道を駆け降りる。
今日は新しい彼とのデート。
デートの相手はころころ変わる。
振るのはいつもあたし。
あたしは一度も振られたことがない。

駅までの坂道の途中にある古本屋。
あいつはいつもひとりで立ち読みしている。
薄暗い店の奥でいつもぽつんと。
あいつなんかあたしにとって本の紙魚みたいなもの。
あたしは気にもせずに通り過ぎる。

その日とんでもないことが起きた。
まさかこのあたしが振られるなんて。
どうしていいのかわからなかった。
あたしは街をさまよった。
通りから通りへとひとりで歩き続けた。
気がつけばあの坂道のあの古本屋の前にいた。

あいつはひとりで立ち読みしていた。
あたしはこっそりその横に立った。
あいつは黙ってハンカチを差し出した。 
だから、あたしは泣いてしまった。
あいつの隣で泣いてしまった。
多分、その時あたしは恋をしたのだ。
初めて振られたその日、あたしは初めて恋をした。

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