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2024年3月の記事一覧
『始まりは、そして終わりは』 # シロクマ文芸部
始まりはいつも一本の電話でした。
そう、物語の始まりは、いつも。
彼の場合もそうだったのです。
仕事が休みの日曜日。
妻が買い物に出かけた昼下がり。
ほら、電話が鳴り出しました。
でも、こんな日にかけてきそうな相手が思い浮かびません。
いぶかしがりながら、受話器をあげます。
「あなたの奥さん、浮気していますよ。駅前のマンションの…」
しわがれた声は、部屋番号を告げて切れました。
まさか。
彼が受話
『桜回線』# 毎週ショートショートnote
丁寧に頭を下げた春男の目の前で、静かにドアが閉まる。
ドアにもう一度頭を下げて、狭い廊下を歩き出す。
普通なら、徐々に資料が減って軽くなる筈の鞄も、朝から重たいままだ。
そうだよな、桜回線なんて、今更誰も加入しないさ。
階段を降りて、次の棟に向かう。
今日は、この古い団地が担当エリアだ。
いくらでも快適な回線があるなかで、桜の季節しか繋がらない回線なんて、誰が興味を示すものか。
勤め口に困ったから
『あの頃に戻れるチケット』
これが、「あの頃に戻れるチケット」か。
俺は、封筒の中から、綺麗なデザインのチケットを取り出して蛍光灯にかざしてみる。
それから、しわをつけないように注意しながら、胸に抱き締める。
思わず恍惚のため息が漏れる。
何年も何年も働き続けて、やっと手に入れたチケットだ。
熱があっても休まずに働いた。
親が死んでも休まずに働いた。
切り詰めて切り詰めて生活をして、貯金した。
付き合いには金がかかるために