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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2021年9月の記事一覧

『スナイパーと蝶』

『スナイパーと蝶』

ひと口に殺し屋と言っても様々だ。

毒殺専門の奴、刺殺専門の奴、道具は使わずに素手の殺ししかやらない奴。

自殺に見せかけるのが上手い奴。そいつの仕事は芸術的と言ってもいいほどだ。遺書を用意したりは当たり前。一週間、一ヶ月、半年、時には何年も前から獲物が自殺しても誰もが納得するような状況を作り上げていく。獲物が国会議員だったりすると、時には国際情勢にまで関わっていかなくてはならない。
ここだけの話

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『月に向かって』

『月に向かって』

たまたま好きになった女がお巡りさんで、たまたま俺の職業が泥棒だったっていうことなんだ。そんなことってよくある話じゃないか。
女を好きになるときに、職業から選ぶ奴なんかいるもんか。好きになって、付き合ってしばらくしてから、「お仕事は?」っていうのが礼儀ってもんだろ。
こっちだってそうさ。好きで泥棒なんてやってるわけじゃない。だいたい世の中に好きな仕事をやってる奴なんてどれくらいいるんだ。大谷翔平くら

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『ゴジラのえさ』

『ゴジラのえさ』

辞めたいという運転手を引き留めていて既視感を覚えた。あと一カ月だけでも頑張ってくれないか。会社の方でも、売り上げが上がるように何とかバックアップしていくから。もうすぐ、ほら、あの田中商事との契約もまとまりそうなんだよ。そうなれば君を専属にでもと考えていたんでよ。どうだい、あと一か月…もう一度…別れようというトキ子にも同じようなことを言っていた。もう一度考えてくれよ。家庭を大事にするよ。浮気もしない

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『いつか季節の片隅で』

『いつか季節の片隅で』

東京で名前を言えば誰でも知っている企業に勤めていた。
結婚して子供もいた。人生はこのまま過ぎていくものだと思っていた。
ある重要なプロジェクトに失敗すると、人も離れて行った。
人間関係がおかしくなると人はそこにはいられないことに気づいた。
退職し、妻とも別れた。幼かった子供は当然のように妻が引きとった。

久しぶりの故郷。子供が産まれた時に帰って以来だ。
年老いた両親は何も言わなかった。事情を説明

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『ホット、それとも…?』

『ホット、それとも…?』

子供の頃から人一倍汗っかきでした。冬でも鼻の頭に汗の粒を浮かべていました。
「犬みたい」とよくからかわれました。

友達もなかなかできませんでした。
近寄ると暑苦しいと手で追い払われました。「犬みたい」に。
自分ではわからなかったのですが、家電製品なみに放射熱も高かったようです。
「地球温暖化の原因はお前なんじゃないのか」と真剣な顔で言ってくるクラスメートもいました。

「そんな体質じゃ、将来寿司

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