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いたずらな貴人の陵墓

古墳を旅して、壕に夕日と墳丘が映り込む写真を撮っている。
ここの所、大和の国で一人撮影をしていると必ず不思議な人に会う。
ある時は長い数珠を首にかけ祈る美しい女人、ある時は後ろ向きで拝所を歩き続ける老婦人。
お祈りの邪魔になっては・・と、そおっとその場を離れようとするのだが、決まって話しかけられ、その人懐っこい笑顔につかまってしまう。そして旅人をもてなす話は楽しく、大和の言葉は小川のようになめらかに心地よく、いつの間にか日は沈んでしまうのだ。
「奈良を旅してくれてありがとう」
手を振り別れたその人は、逢魔が時の空に吸い込まれるように消えた。
まるで陵墓に眠る貴人が、無宗教無神論者の私に悪戯をしているかのよう。
私はふわりと弥立つ。恐れでも慄きでもなく、貴人の爪にはじかれたように、ふわりと。
旅に正誤などないのだけど、この旅は大丈夫だと言われたような気がして、明日へ向かい心が奮い立つのだ。


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