見出し画像

『楽園はこちら側』から学べること

神戸大学感染症内科 岩田健太郎教授が書かれているブログ『楽園はこちら側』をフォローしています。

岩田先生は、横浜に入港したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号内のCOVID-19アウトブレイクの危険性を告発するYouTube動画(現在は削除)を配信し、話題になった方です。

私はその動画を観ておらず、純粋に新型コロナウイルス感染症に関する専門家の情報を獲得したくてググっていたら、たまたまこのサイトに辿り着き、過去のものも遡って読んでみました。

新型コロナウイルスに関しては、巷に氾濫している情報の真偽を、知識が十分でない素人が判断するのは難しいものがあります。「正しく怖れる」為には、信頼できそうな人達の確かな情報を時系列的に読み込んで知識を積み上げていくしかないのかなと考えています。

語られているウイルスや感染症に関する知識や情報もさることながら、先生の思考方法や問題解決のアプローチが非常に勉強になるな、と感じており、読み物としても愉しんでいます。

先生は、『科学者は、首尾一貫していないことにかけて、首尾一貫していなければならない』という信念を書かれています。
● 新しく発見された事実に忠実かつ誠実に向き合う、
● その結果自分のプランや意見を変えることには躊躇しない、
● 自分の発言が首尾一貫する/しないには拘らない、
という立場を取られています。

例えば、2020/3/20『「感染症は実在しない」あとがき』というブログの中に以下のような表現があります。

失敗は認知され、評価され、吟味され、改善の糧とされ、そして未来の成功の燃料として活用されればそれでいいのだ。「失敗」と「科学的失敗」は意味が違う。「科学的失敗」とは、失敗の認知に失敗し、評価に失敗し、吟味に失敗し、改善に失敗し、未来の成功に資することないままに終わるような失敗を言う。これこそ本質的な失敗である。
(中略)
非科学的な議論においては結論だけが一貫性を保つ。が、プリンシプルにおいてはグダグダである。というか、そもそもプリンシプルが存在しない。自分の主張を正当化することだけに汲々としているからであって、最初から科学に誠実であることを放棄しているのである。
ー 2020/3/20『「感染症は実在しない」あとがき』より抜粋

複雑な問題に直面した時、『よくわかんないけど、どうしたらいいのか、さっさと答えを教えろ』という態度を取ってしまうことがしばしばあります。丁寧に手順を追って考えることを放棄し、複雑に絡み合った内容を自分のわかるレベルで単純化して理解しようとしてしまう態度です。

世の中には、「勝てば官軍」「結果が全て」「結果オーライ」のような事象が無数に転がっているし、それで事足りる場合も多いので、安直に結論を求めようとしてしまいがちです。簡単に答えを出してしまってはいけない重要な問題だってあるのに、せっかちで待てないし、納得できない状態のままいるのが気持ち悪いのです。また、

日本政府の歴史的弱点はプランAを作ってしまうと、そのプランにしがみつき、その誤謬を認めてプランBに方針転換ができない点にある。

と書いています。事実に忠実に向き合うと、考えをころころ変えているようにも見えてしまい、批判を受けるのが怖いからです。プランAのシナリオに合致するデータばかりを採用し、都合の悪いデータを意図的に切り捨ててしまいがちです。

これは、国民性にも該当します。「空気を読め」という同調圧力が強固で、率直に意見をぶつけて真摯に議論する文化が根差していない社会への嘆きは以下にも表れています。

鷲田清一先生は、コミュニケーションとは対話が終わったときに自分が変わる覚悟を持っている、そういう覚悟のもとで行われるもののことである、と述べている。日本におけるコミュニケーションの様相はそうではない。同調圧力に抗うのは「コミュ障」である。異論を唱えるのは「コミュ障」である。深夜に行われる討論番組で、参加者が番組の終わりに「おれ、意見を変えたよ」ということは起きない。彼らは議論をしているのではない。演説を繰り返しているだけなのである。だから、自説は一ミリも変わらない。
(中略)
感染症の正体、微生物の正体。そうした哲学的議論は観念的議論ではなく、我々の今、ここの実生活に密着するリアルな議論である。が、日本社会はそもそも議論を許さない。あるのは「あちら」の側につくか、「こちら」の側につくかの党派的、属人的足の引っ張り合いだけだ。
ー 2020/3/20『「感染症は実在しない」あとがき』より抜粋

しばらく新型コロナウイルスが蔓延する生活が続いていくことが濃厚です。同調圧力で下を向くだけでなく、「正しく怖れる」ことを前提に、進める方向へと着実に踏み出していかないと人生が行き詰っていきます。この状況下でのポジティブな面も模索しきましょう。
 

この記事が参加している募集

読書感想文

私のイチオシ

サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。